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戦争止めるための報道を 琉球新報・読者と新聞委員会(上)


戦争止めるための報道を 琉球新報・読者と新聞委員会(上) 沖縄戦・慰霊の日関連報道や少年事件等に関する報道などについて意見を交わす「読者と新聞委員会」の委員ら=12日、那覇市泉崎の琉球新報社
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

琉球新報社は12日、読者と新聞委員会(主宰・普久原均琉球新報社社長)の第53回会合を那覇市泉崎の本社で開いた。島袋伊津子氏(沖縄国際大教授)、末吉康敏氏(県産業振興公社理事長)、竹内清文氏(NPO法人レインボーハートokinawa理事長)、諸見里明氏(興南学園中学・高校長)の4委員が出席し、沖縄戦・慰霊の日の関連報道、最近の少年事件を巡る報道をテーマに意見を交わした。沖縄戦の実相を見つめる連載「国防が奪った」や慰霊の日前後の紙面について、体験者の証言を通じて当時の悲惨な状況が伝わるとして評価した。体験者が減る中、一人でも多くの証言を残し、戦争を止めるための報道を続けるよう要望が上がった。(文中敬称略)

沖縄戦・慰霊の日

記憶をえぐり出す使命 諸見里氏
戦後80年の企画に期待 末吉氏
一人でも多くの証言を 島袋氏
軍需産業深掘りしては 竹内氏

末吉康敏 沖縄戦79―80年企画記事を読み感じたことが二つある。一つ目は陸上自衛隊のホームページに第32軍牛島満司令官の辞世の句が掲載されていた件だ。自衛隊と日本政府に非常に怒りを感じている。二つ目は政治家の好戦的発言だ。自民党の麻生太郎副総裁による「戦う覚悟」とか、(戦時中に)マラリアで悲惨な目に遭った与那国町の糸数健一町長の「一戦を交える覚悟」との発言。よくこういうことがまた言えるなと。

6月24日付1面の佐久川富子さんが涙ぐむ姿、非常に無念さが伝わる。この1枚の写真で慰霊の日を表していた。来年、皆さんがどういう企画をして県民に訴えていくか。戦後80年、非常に重要だと考えている。戦争を止める報道を県民と共に協力してやっていくことを期待したい。

諸見里明 著名な語り部たちが相次いで亡くなり、平和ガイドの引退など、子どもたちが直接、戦争体験者から話を聞く機会が減ってきている。安保3文書の改定、自衛隊の南西シフト、国民避難、特定重要拠点の港湾利用。沖縄が再度、軍事基地化されている。二度と戦場にしてはならないことを大前提に、薄れゆく戦争の記憶を再度えぐり出すのが慰霊の日であり、新聞の使命だ。

慰霊の日がなければますます風化が進んでいたのではないか。復帰間もない時、慰霊の日(を沖縄独自の休日とすること)は法令違反で撤廃せよと中央政府から通達があった。県民の猛反対の中で政府は認めざる得なくなって条例として制定した。慰霊の日はまさに県民が勝ち取ったものだ。戦後80年、慰霊の日がなかったらという視点での報道、深掘りも期待したい。

島袋伊津子 沖縄戦を経験して生々しい体験談を語ってくれたおじいちゃん、おばあちゃんたちの言葉が特集などで語られているが、われわれ戦争を経験していない世代からしても胸に突き刺さる内容だった。記者の皆さんには一人でも多くの戦争体験者の声を残してほしい。

牛島司令官の辞世の句について、自衛隊がホームページに無理して載せる必要があったのか疑問だ。辞世の句は日本軍を象徴するような習慣で、違和感しかない。世代交代が進み、今の責任世代が戦争の悲惨さについて伝え聞く機会がない。SNSなどで歴史上の大事な部分が抜かれ、扇情的な言葉に影響されるのではないかと懸念する。自衛隊は日本軍とは違う組織だと国民から理解されたいのであれば、負の歴史の象徴的な人をホームページに乗せるのは問題だと感じた。

竹内清文 4月から沖縄キリスト教学院大学で国際関係論の非常勤講師をやっている。慰霊の日翌日の授業で、沖縄戦が過去の問題ではないことを伝えるすべとしてパレスチナ問題を取り上げた。例えば、パレスチナ自治区ガザで負傷者の治療に携わった、大阪赤十字病院の川瀬佐知子さんの体験は、学徒として沖縄戦に動員された方々が爆弾が飛び交う中、看護に当たったこととオーバーラップする。

学生から、なぜ戦争がなくならないのかと感想が寄せられる。いろんな側面があると思うが、軍需産業、つまりもうかっている人がいる。特に沖縄は今、自衛隊が膨らみ、いろんな兵器が入ってきている。沖縄での活動が活発化する中で利益を得る人たちもいて、既得権益によって戦争になる側面もある。そういった利益を上げている人、企業と政治との関係を深掘りしても面白い。

普久原均社長
松永勝利統合編集局長
小那覇安剛論説委員長

小那覇安剛論説委員長 戦争体験者の高齢化が進んでいる。取材対象となった方々は85~90歳。10歳前後で戦場を逃げ回ったという体験が多かった。鉄血勤皇隊や学徒隊、そういった方々の体験を聞くことは難しくなっている。一人でも多くの声を聞く取材を続ける。今の沖縄、日本で起きていることと沖縄戦で起こったことを検証し、今に通じる話ではないかと確認しながら報じていく。

普久原均社長 辞世の句の件は問題が二つある。一つは日本軍と自衛隊の一体性を示していることへの懸念、反省はないのかというところ。もう一つ、牛島司令官のやったことは軍官民共生共死だ。全滅してくださいと指示した。第32軍が撤退時に民間人も南に逃げさせた。降伏して捕虜になることも許さなかった。壕や軍の情報を米軍に知られたくなかったからだ。民間人は生き残ってほしくなかった。そういう精神を今の自衛隊が引き継ぐというメッセージになる。これをそのままにしておくことは著しい問題がある。


<出席者>

■読者と新聞委員会第9期委員(五十音順)

島袋伊津子氏(沖縄国際大教授)
末吉康敏氏(県産業振興公社理事長)
竹内清文氏(NPO法人レインボーハートokinawa理事長)
諸見里明氏(興南学園中学・高校長)

■琉球新報社

普久原均社長
松永勝利統合編集局長
小那覇安剛論説委員長
与那嶺松一郎次長・報道本部長
新垣和也政経グループ長
高江洲洋子暮らし報道グループ長
大城誠二同副グループ長
又吉康秀同副グループ長
岩崎みどり同副グループ長
島袋貞治同副グループ長
座波幸代同副グループ長
嶋野雅明編成グループ長