名護市の安和桟橋前で6月に起きた死傷事故を受けて、辺野古新基地建設の土砂搬出作業が止まっていた8月21日。翌日の作業再開に向けてダンプカーの運転手たちが集められた。ネットフェンスを持った警備員を大量に投入して市民を排除する新たな対策を説明するためだ。
「一応排除していても、どっかから飛び込んでくる輩(やから)がいるかもしれない」
説明会の中で、沖縄防衛局から工事を請け負っている建設共同企業体(JV)の担当者は、安和で牛歩による抗議を行う市民を「輩」と表現した。携帯電話を手にしていた運転手にも疑いの目を向けた。
「映像、撮ってない?写真もダメ、ダメ。消してください。外にこの情報を出したらまずいので。ちょっと最後に携帯を見せてくださいね」
作業再開後、安和桟橋では平日の午前7時から午後8時まで土砂を積んだダンプカーが出入りする。GPSで場所も管理されているダンプカー。
転手の一人はこぼす。「抑圧と搾取。自分たちはまるで奴隷だ」
事業者側からの指示は、LINEで次々と送られてくる。
「全車両へ 回数表の提出を今日の11時までにお願いします」(午前9時49分)
「2班、3班は塩川ルートで運搬お願いします」(同55分)
「6班は積んで合図があるまで待機してください」(同10時23分)
これは死傷事故前の5月16日に送られた指示の一部だ。運転手たちは「事故後はさらに増え、一日に何十件も送られてくる。運転中に携帯電話を見るわけにいかないが、かといって指示には従わないといけない。危険な状況だ」と口をそろえる。
運転手の不満は、抑圧され、正常な判断を奪われることだ。「事故後のミーティングで『人をひけば、運転手の立場が不利。“かもしれない運転(危険予測運転)”をしてくれ』と説明があったが、無理なことをさせたのは誰なんだ」と憤る。
搬出台数を稼ごうとする2台出しの誘導には「危険」と異論が強かった。4月の安全講習会で、ある運転手が事業者側に「警備会社の誘導で事故が起きた場合はどこが責任を取るのか」と問いただしたが、時間をおいて「誘導方法は土砂搬出を効率よく進めたい防衛局の意向」と伝えられただけ。不安は置き去りにされ、2人死傷の事故が起きた。
運転手の一人は「僕らは生活のために仕事をしている。安全に仕事ができるようなやり方を考えるべきだ」と防衛局やJVに不満をぶつける。
新基地建設関連のダンプカーには、コロナ禍で職を失った元バス運転手らも少なくない。
沖縄ダンプ協議会によると、新基地関連のダンプカー運転手に支払われている時給の相場は1200~1300円。「国土交通省の積算単価に基づいた沖縄での労務単価の半分以下。1日働いて1万円に満たない運転手も多い」と話す。
協議会は8月9日、防衛局を訪れ、2台出しの見直しと共に「適正な賃金支払い」を要請した。しかし、防衛局は取り合わなかった。「これは業者と運転手の皆さんの間の問題。われわれは払うものを払っている」
協議会の東江勇議長は不安を口にする。「緊張が強いられる仕事なのに、別のアルバイトをして、生活を成り立たせている人もいる。今のままでは、第二、第三の死傷事故が起きかねない」
(南彰、金城大樹)