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沖縄旧盆のお供え物界に新風!? 「あの世のお金」や「先祖供養の場」がスイーツに 本物そっくり、仏具店の公認も


この記事を書いた人 Avatar photo 熊谷 樹

 響くエイサーの音、線香の香り-。沖縄では28 日から旧盆が始まった。グソー(あの世)から帰ってきたご先祖様をもてなすため、仏壇には料理や果物などの供え物が所狭しと並べられる。

 そのお供え物は、沖縄独特の「重箱料理」だけでなく、いろんなごちそうを詰め込んだオードブルやケンタッキーフライドチキンなどのファストフード、コンビニエンスストアの商品など家庭によってさまざまだ。

 そのような「お供え物」界に新風を起こすスイーツが加わった。その名も「うちかびスケット」と「門中パン」。グソーのお金のウチカビと門中墓が、おいしいスイーツになった。どちらも「お供え物にぴったり」と好評を博しているという。

(熊谷樹)

本物のウチカビ(右)と本物そっくりの「うちかびスケット」(中央)、門中墓の屋根の形を模した「門中パン」(左)

 

■あの「大御所風民謡歌手」から天啓? 線香店公認のヘルシースイーツ

 ウチカビは先祖がグソーでお金に困らないよう、子孫が旧盆や清明祭で燃やして送り出す「グソーのお金」だ。北谷町浜川にあるカフェ「六屯(ロットン)」は、そんなウチカビそっくりの焼き菓子「うちかびスケット」を考案、販売している。

ウチカビそっくりの「うちかびスケット」。左端の本物のウチカビと見分けがつかないかも?

 

 そのきっかけは清明祭(シーミー)を紹介する大御所風民謡歌手で芸人の護得久栄昇(ごえく・えいしょう)さんのCMだった。店主のナックさん(37)は「『もうすぐシーミーだねー』という護得久さんのせりふを聞いて、コロナ禍でシーミーがしばらくできていないな、ウチカビ燃やしていないなとぼんやり考えていたら、うちかびスケットという言葉が降ってきた」と振り返る。そこからすぐに商品づくりが始まった。 

 天啓から2週間後には試作品が完成。見た目を本物に近づけるため、ウチカビを製造する読谷線香の公認を得て、包装紙は同社がウチカビを束ねる帯とそっくりに製作した。

うちかびスケットと読谷線香製「うちかび」を手にするナックさん(中央)。「伝統を大切にしながらも、若者が受け入れてくれるように再構築して伝えたい」と熱く語る=2023年8月28日、北谷町浜川の六屯

 

 もともと六屯ではアレルギーがある人や宗教上の理由で肉を食べられない人でも楽しめるメニューを提供している。その思いはうちかびスケットにも込められている。

 生地は小麦粉や卵は使わず、米粉とひよこ豆粉を配合、みそやバニラビーンズをを練り込み、カボチャパウダーで黄色く色づけしている。

 本物のウチカビとほぼ同じサイズの丸と菱形の型押しは一つ一つ手作業だ。おいしく飽きずに食べられるように、サイズは本物よりも一回り小さい縦15センチ、横8センチとした。すべて手作りのため1日に製造できる枚数は30~50枚だという。

 

 「シーミー」にちなみ今年4月3日に430円で販売を開始したところ、「生産が追いつかず、店舗が開けきれなくなるくらい」の大きな反響を呼んだ。

 ナックさんは「特に年配の方が喜んでくれたのがうれしかった。『こんなふうにシーミーで供えたよ』って写真を送ってくれる人もいました」と目を細める。「あなたが笑えばご先祖様も喜んでくれる。うちかびスケットで笑顔になってほしい」と呼びかけた。

 

■この立地だからこそ 名前も鮮やかなお墓スイーツ

門中墓の屋根の形をした「門中パン」。店頭に並べているパンには「沖縄に多いメジャーな名字」を書いているという

 

 旧盆直前の8月26日、那覇市真地にある人気のパン屋「いまいパン」は、新商品「門中パン」(税込220円)を発売した。門中墓の屋根の形をしたパンに「金城家」「山城家」と大きく名前が書かれている。SNSで紹介して以降、問い合わせが相次いでいるという。

 「門中パン」を考案した今井あいこさん(46)は「ご先祖様も喜ぶパン。重箱と一緒に仏壇に供えてほしい」と笑顔を見せる。

清明祭や旧盆などの年中行事の時期限定の「うーとーとーパン」(税込み250円)。中にはやさしいきなこ味のあんこが詰まっている

 

 沖縄の年中行事にまつわるパンは数年前に発売を始めた「うーとーとーパン」に次いで2作目。うーとーとーパンは男の子と女の子が手を合わせて先祖を供養する姿がモチーフのパンだ。

 

 今回の門中パンは「暗い」「怖い」という墓のマイナスイメージを払拭しようと考案した。

 識名霊園そばで父が金物屋を営んでいたこともあり、今井さんにとって墓は「いつかみんな行くところ」というほどなじみが深い場所。家族や親戚が集まる門中墓をモチーフに試作を重ねて「門中パン」が完成した。今井さんは「この立地だからこそ生まれたパン」と胸を張る。

 

 門中パンはふわふわのパンにきなこ味のあんこがたっぷり入っている。子どもからお年寄りまで楽しめる、「みんなが好きな味」を目指した。

 SNSで紹介した途端、「〇〇家はないのか」と問い合わせが次々と寄せられた。店頭でも売れ行きは好調で、購入者の中には門中を知らない人や外国人観光客もいるという。

「ウートートーパンも門中パンも、識名霊園近くの立地じゃなかったら生まれなかった」と話す今井あいこさん=2023年8月28日、那覇市真地のいまいパン

 

 28日のウンケーの日にうーとーとーパンと門中パンを購入した40代女性はインスタグラムで発売を知り、買いに来たという。「今日買わないでいつ買うかというようなパン。実家でみんなで食べたい」と声を弾ませた。

 

 うーとーとーパン、門中パンともに清明祭や十六日祭などの行事に合わせて販売していくという。今井さんは「パンをきっかけに話が弾んだり、沖縄の行事や伝統文化に興味を持ってくれたらうれしい」とほほえんだ。

 

 六屯、いまいパンともに予約販売に対応している。問い合わせは六屯はインスタグラムのメッセージで可能。「rotton8989」で検索。いまいパンは電話098(836)3008。

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