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共同親権 「子どもの幸せ」忘れずに 野崎聖子(うむやす法律会計事務所代表、弁護士) <女性たち発・うちなー語らな>


共同親権 「子どもの幸せ」忘れずに 野崎聖子(うむやす法律会計事務所代表、弁護士) <女性たち発・うちなー語らな> 野崎聖子
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 共同親権の導入が議論されている。共同親権とは、離婚後に父母のどちらか一方ではなく双方を未成年の子の親権者とすることを可能にする制度である。その法改正の議論では、親の立場からの主張が目立ち、子どもの利益の検討が不足している。離婚後に親権者変更の相談に来た男性(父親)を思い出した。

 離婚調停では親権を争っていたが、調停員から「裁判になれば親権は難しい。子どもと会うことを優先した方がよい」と言われ、親権を譲ったそうだ。しかし離婚後も元妻(母親)との間で子どもの教育や親子交流に関するもめ事が絶えず、父親は母親の言動の一つ一つに不満や怒りを抱いていた。

 親権者ではない親の限界や親権者変更が容易でないことを説明したところ、父親は思うようにいかないことにストレスを感じていたが、母親も相当な負担を感じていたであろう。父親に対し、相手の立場や考えも尊重し、感情的にならずに長期的な視点で冷静に対応するようアドバイスを続けたところ、2人はたくさんもめながらも徐々に協力し合える関係になった。

 数年後には子育てのしやすさを優先し、再び家族一緒に住むことになった。再婚はしていないが、父親は子どもたちの生活・成長に深く関わることができ、母親は離婚後に大学に進学し、その後卒業してキャリアを築くこともできた。改めて父親に聞いたが、今や生活の中で親権を意識することはないそうだ。

 父親は「1番目に子どもたちの今の幸せを優先。2番目に子どもたちの将来の幸せ。3、4番目辺りで自分のことと思い、お互い子ども最優先であることを母親と共有できたから」とも語った。つまり「子ども優先」の意識で母親と冷静に関わるようにしたところ、互いの理解が進んで関係が改善し、結果、新しい協力関係を築くことができ、親権の有無は問題ではなくなったのである。

 トラブルの渦中にある当事者は解決を求めて法律相談を利用する。法的手続きが問題解決に役立つことは多いが法律は万能ではない。権利に固執することで問題を複雑にし、時には本来の目的や優先すべき大切なことを見失うこともある。子どもは一人一人その置かれた環境や考えが異なるが、親の対立を望む子どもはいない。

 父母の対立の中で子どもの気持ちを置き去りにしないために子どもの意見表明権は(意見を言わない権利も)確保されるべきであり、弁護士が直接子どもを支援する子どもの手続代理人制度も活用すべきだ。

 何かと余裕のない子育て中の家庭では、認識のズレや負担の偏りによる感情的な衝突は珍しくない。わが家も同様である。「子どもの幸せ」という共通の目的を忘れずに子育て繁忙期を乗り越えていきたい。