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【深掘り】官邸による「情報統制」か 米兵性的暴行事件 防衛省への共有外し


【深掘り】官邸による「情報統制」か 米兵性的暴行事件 防衛省への共有外し 記者会見する林官房長官=11日午前、首相官邸
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 昨年12月と今年5月の米兵性的暴行事件について、外務省が政治権力の中枢である首相官邸に報告する一方、防衛省には伝達していなかったことが判明した。官邸では首相の側近に伝えられており、岸田文雄首相が知っていた可能性は極めて高い。県に伝達する役割を担う防衛省を情報共有から外したことについて、知事周辺は「政治的影響を考えた官邸による情報統制ではないか」と批判を強めている。  

 「日米同盟は前例のない高みに到達した」。岸田首相とバイデン米大統領は日本時間4月11日に会談を終えて発表した共同声明でこう自賛した。

■空虚

 首脳会談に先立ち、岸田首相はバイデン大統領に県産コーヒーを贈呈するなどして友好関係を印象づけたが、首脳会談を控えた3月27日、那覇地検はわいせつ誘拐、不同意性交の罪で空軍兵士を起訴していた。首相が誇って見せた「日米同盟」は、県民の人権をないがしろにして成り立つ空虚さも浮き彫りになった。

 政府関係者によると、首脳会談前には首相秘書官と林芳正官房長官の秘書官が報告を受けていた。秘書官が情報を止めない限りは岸田首相に知らされるのが一般的だ。

 政府は「会談の内容は外交上のやりとりで、答えを控える」との立場だが、共同声明や政府が公表した報告書から事件について岸田首相が抗議した形跡はうかがえない。

 岸田首相は6月23日の「慰霊の日」には糸満市で開かれた沖縄全戦没者追悼式にも出席。あいさつで「(米軍基地の)負担の軽減に全力を尽くす」などと話しながらも、事件には言及していなかった。

■機能不全

 1997年の日米合同委員会で合意された事件・事故に関する通報手続きでは、米大使館から外務省に通報する経路と、在沖米軍から沖縄防衛局に通報する経路がある。今回の事件では大使館から外務省に積極的な通報はなく、外務省が把握した後で大使館との情報共有が始まった。在沖米軍から防衛局への通報もなかった。97年の合意では迅速な情報共有のために両経路が機能する前提で設定されている。

 今回に限って米軍が通報を怠ったのか、恒常的に通報経路が機能不全に陥っているのか検証が求められる。防衛省が「かやの外」に置かれたことで、県への情報伝達がなされなかったほか、防衛省が対応すべき見舞金や補償、被害者のケアなどが遅れを取った可能性がある。政府内の情報伝達の課題が浮き彫りになったにもかかわらず、林長官は「日本側関係当局による迅速な対応が確保されている」と強弁した。

 政府は情報共有の範囲を限定した理由について性犯罪であることを踏まえた配慮を挙げる。だが97年の通報手続きは、95年の米兵少女暴行事件をきっかけに定められた。

 これに対し、知事周辺は「97年の合意が政府のさじ加減でどうとでもなることが明らかになった。こういう恣意的な運用の見直しを『改善』と強弁することを何度繰り返すのか」と指摘した。 

(明真南斗、知念征尚、佐野真慈)