明治末期から昭和期にかけて活躍した画家、岡田雪窓(せっそう)(1885年~1964年)の「琉球浪上神社」画幅をこのほど、沖縄市の諸見民芸館の伊禮信吉館長(76)がオークションで入手した。岡田が描いた琉球の絵は県立博物館・美術館にも所蔵されていない。貴重な作品の“里帰り”として注目を浴びそうだ。
今回、伊禮さんが入手した山水画は幅29センチ、縦170センチ。断崖に立つ波上宮、入道雲、沖合に浮かぶ山原船を背景に赤瓦の家と芭蕉、親子とみられる3人の人物、リュウゼツラン、庭に鶏を配したのどかな雰囲気を醸し出す構成。経年劣化か、やや色はあせている。その絵を張り付けた掛け軸は幅38センチ、縦190センチ。
岡田は山水画を得意とし、沖縄には1912年から13年にかけ画題を求めて来琉。各地を回り守礼門、首里や壺屋、市場風景、若狭遠望、三線を持った辻の女性、糸満の爬龍船競漕などを写真に収めた。当時の琉球新報に来琉の記事が掲載されている。
その約80点が沖縄市立郷土博物館に遺族から寄贈があり、専門家の解説を加えた写真図録「郷愁の沖縄―画家岡田雪窓が見た沖縄」として発行された。企画展も開催している。図録は当時の風景をしのばせる貴重な一冊だ。
伊禮さんは山水画の構図から「絵は写真を基に描いたのではないか」と推測する。定期的に送られてくる図録オークションで見つけ、ためらうことなく購入した。きり箱に収められ、ふたには「自畫琉球浪上神社圖」と墨書され、ふた裏に「雪窓」の署名、押印がある。保存状態はよい。
岡田はその後、「首里の朝」「那覇の晝」「那覇の夕」の作品にまとめ「琉球初見三題」として1914年、文部省主催の文展に出品して入選、15年にはサンフランシスコ万国博覧会で「琉球二題」が銀賞牌を獲得している。
伊禮さんは「これだけ琉球に関心を寄せていた画伯がいたことに大変驚いた。貴重な作品の里帰りといってよい。公開を検討していきたい」と、興奮の口調で話した。
(岸本健通信員)
※注:伊禮信吉さんの「禮」はネヘン