【特別評論】不条理 負けてはならぬ 新垣毅(琉球新報統合編集局報道本部長)


【特別評論】不条理 負けてはならぬ 新垣毅(琉球新報統合編集局報道本部長) 作業船が浮かぶ大浦湾。奥は工事が進む米軍キャンプ・シュワブ沿岸=12月18日午前、名護市(小型無人機で小川昌宏撮影)
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 辺野古新基地建設の設計変更に向けた今回の代執行は憲法や地方自治法に基づく「沖縄の自治」の訴えを踏みにじる暴挙である。

 政治や行政、司法によって沖縄の民意が否定され、構造的差別が鮮明になった。本土の人々は史上初の自治体への代執行を自分事として受け止めているだろうか。本土の国民や在京メディアの多くからは危機感が伝わってこない。この溝は何か。沖縄への抑圧の歴史を軽んじていないか。

 1879年の琉球併合(「琉球処分」)後、沖縄は国防の道具にされてきた。沖縄戦で住民の4人に1人が犠牲になり、戦後は米国統治下で命や人権が侵害され、日本復帰後も基地負担に苦しんでいる。近年は自衛隊配備が進み、空港や港湾など公共施設まで軍事利用されている。その中での代執行である。稲嶺恵一元知事が表現したように、うっ積した怒りはマグマとして噴出する寸前であろう。

 しかし沖縄の人々は諦めたり、悲観したりする必要はない。沖縄の人々の手中に自己決定権があるからだ。自己決定権は国際法で保障され、中でも国際人権規約は「人民(peoples)は自己決定権を持っている」とうたい、最重視されている。人民(集団)の自己決定権が侵害されれば、集団1人1人の人権も侵害される可能性が極めて高いと考えられているからだ。

 まさに沖縄がそうだ。基地負担軽減への自己決定権が侵害されているために、事件・事故、騒音、環境破壊などで個々人の人権が侵されている。不条理は明らかだ。それを放置するのか、本土の人々の良心に問いたい。

 今後沖縄の闘いはフェーズが変わるだろう。構造的差別に打ち勝つには、自分たちの未来は自分で決めるという沖縄の意思を追求することが重要だ。それこそが沖縄の未来を切り開く道筋だ。

 県は地域外交を展開中だ。かつて琉球王国が国際法の主体として国際条約を結んだように外交は自己決定権の重要な要素だ。

 2016年に翁長雄志前知事は国連で「自己決定権がないがしろにされている」と訴えたが、玉城デニー知事は9月の国連演説で自己決定権に触れなかった。代執行を目の当たりにした今、沖縄の人々と共に自己決定権への追求を強め、国内世論だけでなく国際世論を動かさなければならない。

あらかき・つよし 1971年那覇市生まれ。琉大卒業後、法政大大学院修士課程修了(社会学)。98年に琉球新報社入社。編集委員、東京報道部長、政治部長などを経て現在、統合編集局次長・報道本部長・論説副委員長。著書に「沖縄の自己決定権」「沖縄のアイデンティティー」など。