「沖縄の苦難の歴史に一層の苦難を加える辺野古新基地建設を直ちに中止し、問題解決に向け、県との真摯(しんし)な対話に応じていただきたい」
沖縄防衛局が辺野古新基地の大浦湾での工事に着手した10日、玉城デニー知事は、国に強く対話を呼びかけた。代執行と、それを受けた工事着手は新基地建設を巡り対立してきた県と国の関係性に変化をもたらした。
あくまで対話による解決を求める県に対し、工事実績を目に見える形で積み上げることで沖縄側の「諦め」を醸成できるとにらむ国は、これまで以上に県に冷淡な姿勢をあらわにしている。
政府は表向きは「丁寧な説明をしてきた」(木原稔防衛相)との主張を繰り返す。12日の会見でも木原氏は県内首長らの要請など「可能な限り、私自身が対応している」と述べ「地元の声を直接聞く」姿勢を強調したが、玉城知事とは就任以来一度も面会しておらず明確に選別している。
昨年11月18日、玉城知事は県軍用地転用促進・基地問題協議会(軍転協)代表として防衛省を訪れたが、木原氏は別公務を理由に面談しなかった。知事が訪れた約1時間半前に来省した糸数健一与那国町長には自ら対応した。同12月20日の中山義隆石垣市長も同様の対応をとり、石垣市については市議会与党会派単独の要請(同年9月30日)ですら直接応じた。
昨年9月の最高裁判決での敗訴後も新基地建設反対を貫き設計変更を承認しない知事の姿勢が政府与党内での面談回避の口実となっており「いまさら対面してもかみ合わない」(政府関係者)と対話のポーズすらも見せない。玉城知事を冷遇し、自衛隊施設を受け入れた自治体の首長らを厚遇する。対応の違いを際立たせることで玉城県政への不信や国策に抵抗することへの無力感を県民の中に生み出そうとする狙いも透ける。
同時に軟弱地盤の存在を新基地建設阻止の切り札とする「軟弱地盤一本足打法」(県幹部)を続けてきた県が次なる「打つ手は見いだせていない」(同)のも実態だ。今年6月には県議選が控え、年内の衆院選の可能性も取り沙汰される。辺野古問題は県内最大の政治課題で、最大争点となっている。政局への影響は避けられない。
自民県議は「これまでと違い、具体的に(建設を)止める策が県政にない。現実を伴わない政治主張に、いつまでも県民はついてこない」とし、辺野古問題の「風化」が今後の追い風となると自信をのぞかせる。
「オール沖縄」勢力の与党県議は政府の工事強行を「やればやるほど県民の怒りの火に油を注ぐ」と断言する。「工期や工費膨張の問題が顕在化する。税金を使った公共工事で、全国的な関心事だ。そこに焦点を当てる。怒りのうねりを県内、県外へと波及させる」とし、法廷闘争ではない新たな道筋を展望した。
(佐野真慈、明真南斗、知念征尚)
(おわり)