えっちらおっちら、卵を抱えて里帰り
5月半ばから6月にかけて、沖縄は本土よりも1カ月早い梅雨になります。この蒸し暑い季節、多くの海の生き物たちは産卵シーズンを迎えます。
水中でサンゴが産卵する満月前後は、海岸も少しざわざわしています。普段、陸上で暮らすオカガニが巣穴で産卵し、卵を抱えた体で波打ち際にやって来るのです。カニは、基本的には海の生き物。そのうち、陸上での暮らしに進化したのがオカガニです。とはいえ、体の中にある鰓(えら)はいつも湿っている必要があるので、近くに水がある場所が好き。海につながる川沿いの土手などに、おにぎりがころりんと入るくらいの穴が開いていれば、オカガニの巣穴です。
満月の夕方、日が落ちて薄暗くなる頃、お腹に卵をたっぷりと抱えたメスが海に降りてきました。数日かけて、山から移動して来たようです。満月の日の夕方は、満潮の時刻。波打ち際までたどり着いたメスは、水の中に入り、体を細かく震わせます。卵を刺激して、赤ちゃんを孵化(ふか)させるのです。観察していると、これはほんの一瞬!この瞬間のために、カニは安全な巣穴から、はるばる海まで戻ってくるんです。
最近は、海へ降りる途中に道路ができて、行き来には危険がいっぱい。そして街灯の明かりは、カニに対して日没の時間を分かりにくくしてしまいます。せめて産卵の時期だけでもカニに優しい街でいられると良いのだけれど。
Vol. 28 オカガニ
Discoplax hirtipes
● 目:十脚目 Decapoda
● 科:オカガニ科 Gecarcinidae
● 属:オカガニ属 Discoplax
動画撮影:
オカガニ 2020年6月5日(うるま市 宮城島)
動画撮影・編集&執筆
鹿谷法一(しかたに・のりかず しかたに自然案内)
琉球大卒、東大大学院修了、博士(農学)。広島に生まれ、海に憧れて1981年に沖縄へ。専門はカニなどの甲殻類。生き物の形とはたらきの関係に興味がある。最近は、沖縄の貝殻を削って磨くシェルクラフトを行っている。
鹿谷麻夕(しかたに・まゆ しかたに自然案内)
東洋大、琉球大卒。東大大学院中退。東京に生まれ、20代半ばでサンゴ礁に興味を持ち、1993年に沖縄へ。2003年より、しかたに自然案内として県内で海の環境教育を始める。しかたに自然案内代表。手作りぬいぐるみで海を伝える、あーまんシアターも主宰。
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