(後編)「リピート率9割」の移動豆腐店 元美容師・3代目の再生術とは<コロナ禍の挑戦・インタビュー>


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インタビューに応じる池田食品代表の瑞慶覧宏至氏=8日、西原町池田の同社

 ■美容師から転身「かっこいい」目指す

 Q:社長は3代目だ。もともと家業を継ぐつもりだったのか。

 A:全くその気はなかった。豆腐は嫌いだった。幼い頃、友達の父親は朝、スーツにネクタイで仕事に行くのに、自分の父親は夜も明けきらないうちから仕事を始め、しかもエプロンに長靴。「かっこいい」とは思えなかった。友達からは「豆腐屋」とあだ名をつけられ、からかわれた。嫌で嫌でたまらなかった。

 中学卒業後は専門学校に通い、美容師となった。福岡でカフェと美容室を一緒にした店をやり始めた頃、父の後を継いだ兄が急死。会社は赤字を抱えていたため、母は「廃業してもいい」と言ったが、僕たちは豆腐でここまで育ててもらった。だから今まで好きなことができたということに気づいた。守りたいという思いになり継ぐことを決意した。

 3代目として家業を継ぐにあたって、かっこいい豆腐屋を目指した。若い世代に食文化を伝えたいので、ポップなロゴをつくり、車もカラフルにした。ポジショニングも豆腐屋から大豆加工研究所に変えた。豆腐業界は全国的に厳しい。ピーク時に5万軒あった豆腐屋は今は5千軒を切っている。でも僕はポテンシャルがある業界だと思っている。豆腐だけ作っているのはもったいない。大豆は世界中で食べられている。イソフラボンとタンパク質が豊富な健康食で、ベジタリアンも食べられる。総菜にもおつまもにもスイーツにもなるという幅広さもある。世界に挑戦できる分野だと思う。

 効率化を図るため、製法を変えようとしたこともある。でも同じ材料を使っても味が納得できなかったので、昔から続く製法で作っている。豆腐は大豆、水、にがり、塩で作るシンプルなものだが、使う大豆で全く味が違ってくる。さらにその日の気温などにも品質は左右される。お客様には誠実でありたいので、出来が悪かった商品は割引して売ったり、無料で配ったこともある。僕たちの強みは「信頼」。信頼を裏切ると強みにしている部分を自ら崩すことになる。きれいにパッケージしただけでは続かない。

出来たてのゆし豆腐を手際よく袋に詰めていく従業員=西原町池田の池田食品

 ■大切なのは社員、経営計画も一緒に

 Q:働き方改革も進めている。

 A:社員は20代~40代の子育て世代だ。土日は休みたいという要望が多かったので、そのために何をすればいいのか社員と考え、工場の生産を効率化し、移動販売の配達ルートも工夫した。9月からは完全週休2日にした。

 Q:土日が休みとなると、飲食店には金曜日に週末の分を卸すことになる。3日分の商品は量も多いので、冷蔵庫の場所も取る。取引先から反発はなかったのか。

 A:そこは丁寧に説明した。全ての取引先が理解してくれたが、仮にこれで取引をやめるという店があっても、それは仕方がないと思っていた。大切なのは社員なので。

 Q:これからの戦略は。

 A:ハイブランドは景気に左右される。食品のハイブランドも厳しくなるだろう。その時にどう打ち出していくのか力量が問われてくる。誰かのせいにはしない。変化を受け入れて自分たちがどう変わっていけるかだと思う。直売なのでお客さんの声がじかに聞けることは強みだ。それを商品開発に生かしたり、新たなサービスを生んだりすることができる。最近は、コロナの影響で飲食店が休業になり、卸先がなくなった魚屋さんの刺し身を移動販売車に載せて、販売した。お客様からも好評だ。

 うちの「とうふ」は「豆富」と書く。「豆で人生を豊かに」というのが理念だ。そのための戦略、目標、行動を社員と一緒に考えている。向こう3年間の中期経営計画は社員と一緒に作った。自分たちがどうなりたいかをあげてもらい、そのためにどんな行動が必要で、いつまでに何をしなければいけないか落とし込んだ。全員参加型の経営計画だ。コロナに対する危機感も共有している。

インタビュー前編はこちら

 

 

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<4>ターゲットは地元、世界を巻き込む 北谷のアパレル「Chocolate Jesus」(前編)

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