(後編)脱観光業「宿泊客ゼロでいい」ヤンバルホステルは人生を提供する<コロナ禍の挑戦・インタビュー>


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ホステルの1階にはコワーキングスペースも設けている

 ■沖縄ヴィンテージを作りたい

 Q:国頭村に来たのは。以前から興味があったのか

 A:全くなかった。初めての沖縄が国頭だった。妻の里帰りに同行したら、すごく良いところで、積極的に里帰り推進して年に3回くらい帰ってきていた。必要なものしかないところが、むちゃくちゃいいなと思った。年間300件デザインしているといつもお金追いかけているようで、誰のために生きているのか分からなくなっていた。ここは必要なものしかないところが最高だった。シンプルな生活に触れて、いつかはこういうところで仕事できたらいいなと思った。最初に来た時からすぐに思った。全部解放されたような感じだった。

 Q:廃業したホテルの存在を知ったのは。

 A:初めて来てから3年目くらいに、このホテル(ホテルみやしろ)が廃業していることを知った。国頭村の夏祭りで、このホテルが廃業していることを聞いた。いろいろな人に手伝ってもらって、購入することができた。数年前からするとここにこうしているのが考えられない。運命的だと思う。夏祭りでたまたま話しかけられてからこうなった。自分の潜在意識が求めていたところにたどり着いたのだと思う。
 
 Q:ホテルを見て、だいぶ古いなとは思わなかったか。

 A:最高と思った。このボロボロな感じが。沖縄ヴィンテージを作りたいと思っていた。村を盛り上げるためには新しいものでは景観が壊れる。今あるモノをどう生かすかを優先して考えた。

 ■ブランドが大事、宿泊客ゼロでもやれる

 Q:ホテルの魅力は。

 A:デザインをなりわいにしていると、ホテルは空間もそうだけどサービスとかコミュニティーも含めて、デザインをしている人間のちょっとした集大成。いつかはやりたいと思っていた。

 人が集まって、県内の人、県外の人やどういう若者が集まるかを想像しながらカウンターの厚みや家具一つ一つを考えるところがいい。沖縄は、こんなに歴史深くてヒストリーのある場所なのに、京都ほど決まったスタイルがない。そういうものを作りたい。それには非常にやりがいを感じる。

 Q:企画は全て自分で考えているのか。

 A:そう。元々人の成長を掲げて、このホステル自体が最終的には地域興しの象徴と言われるようにしたい。世界中から必要とされる未来を目指してビジョンを立てている。そこから逆算して、1~2年の計画を立てて、3カ月に1回くらいのイベントを企画して、その間は社会情勢や売り上げみて弱点を解決するためにはめ込んでいく。数字も大好きなので、売り上げみて、ビジョンから逆算して、一番良いバランスで企画出す時が一番楽しい。

 Q:ホテルの特徴は。

 A:デザインのスタイルは沖縄ヴィンテージ。元々のホテルは20室で全部個室だったので、1室に2人入っても40人程度だった。建物が古かったので、高級ラインは元々頭になかった。ちょっとあこがれ持つようなデザインにして、集う人は若い子という想像はできていたので、価格を下げるためにキャパシティーを上げて、ドミトリー入れて価格下げた。112人入れる。沖縄ヴィンテージという象徴を一番北に造り、そこにいろいろな人が来るイメージを持っている。飲食はあえてホステル内に入れず、村で食べてもらって消費してもらう。112人でレストランつけなければ村にしっかり落ちるなと考えた。

うっそうと広がる亜熱帯樹林を流れるやんばるの清流=2019年12月、国頭村内(又吉康秀撮影)

 Q:今後、ホテルはどうやっていくべきか。

 A:ホテルである前にブランドであれと思っている。観光客ゼロ、宿泊客ゼロでやっていけると思っている。ホテルがブランドであることで、カフェができてビールができて、イベントが生まれる。ブランドであれば、ホテルを超える価値を生み出せる。このホテルがブランドで、コミュニティーができて新たなブランドにつながっていくから。何を提供したいのかちゃんと考えるべきだし、ホテルを作る時にどういうビジョンを持つかを見直す時だ。ヤンバルホステルは、来たことのない人が集まって、ここから何かが生まれる場所と想像していた。自社ブランドを強化する=ブランドを輩出することと思って、今ブランドを強化している。

 現在は、ステータスが世の中から消えている。無駄がなくなると同時にステータスがなくなっている中で、そのホテルが、企業としてサービスとして社会にどういうメリット作り出すかということが絶対に必要。それを見返して、ブランド化をより進めていこうというところにたどり着いた。そのホテルに行きたいと思わせることができているのかどうかだと思う。景色いいし、沖縄やし安いしきれいやから行こう、あのホテル満室だったしこのホテルテイスト近いからこっちでいいやというような、曖昧な理由しか生み出せないホテルはなくなってしまうと思う。

 Q:どこか泊まる時に、Aが埋まっていたらB、Bが埋まっていたらCというのではなく、ヤンバルホステルがあるから来る、ということ?

 A:そう。人を呼び込むにはブランド力が必要。行きたいと思わせる仕掛けが必要。

 Q:高級ホテルの話でしょ、と考える人が多いのでは

 :値段の問題ではない。本質、何を社会に生み出したいか、それをどこまで掘り下げることができるか。ブランドを作ることがうちのブランドを固めることと思っている。

 ■那覇と真逆、空気が距離を制した

卓球台、ビリヤード台やボルダリングなど、ロビーにはプレイスポットも充実している

 Q:客層は若者が多い。

 A:半数は20代前半。県内の人が多い。

 Q:彼らは何を魅力に感じて集まっていると考えるのか。

 A:何かが生まれているのを見ている。学生カフェが生まれるとか。創造性を刺激できている。新しいことがどんどん生まれている。SNSを通してそれをみんなが見ている。若い子が集まる場所の基準は創造性になりつつある。

 Q:国頭までの距離を超えてくるほどの刺激を与えられていると。

 A:距離が逆に良かったかもしれない。環境が全く違う。建物少なくて那覇と真逆にある。空気が距離を制した。国頭という場所はアドバンテージになっている。また、海外というかグローバルで見ればこの距離はそれほど遠くない。何時間も車乗ることは良くある。いっても1時間半か2時間くらい。ドライブ中にこういうの考えたらもっと楽しいよ、とか教えている。

 Q:1階スペースはシェアオフィスとしての提供を始めている。

 A:今年に入って、コロナの前から始めている。ウィズコロナが浸透したタイミングで、マッサージとか散髪を入れたい。エントランス入ったらお金かかるような複合施設にしていきたい。体験は無料で、DJを常駐させてミュージシャンがギター弾いて歩いているような、そういう価値を提供したい。それを成功させたら、那覇にも作ろうと思っている。ファッションブランド入っていたり、生活する上で全てそろっているような、生活も休養もできて、人生を提供するようなホステルを作りたい。

 Q:今後の展開は。

 A:ホステルから生まれるブランドを自立させる。宿泊客ゼロでも利益が立つようにして、ホステルがアミューズメント化していく。成功したら沖縄内で浸透させる。このホテルに来るために沖縄に来る、というお客様もいる。すごくうれしい。最終的には、ホステルを通じて地域を活性化していけるように、もっともっと成長していきたい。

インタビュー前編はこちら

 

<コロナ禍の挑戦・インタビュー>

▶「リピート率9割」の移動豆腐店 元美容師・3代目の再生術とは(10月2日掲載)

▶やっぱりステーキ代表「ライバルはラーメン。需要はある」(10月3日掲載)
(後編)

▶ターゲットは地元、世界を巻き込む 北谷のアパレル「Chocolate Jesus」(前編)

(後編)

…前後編とも10月5日午後5時アップ予定

▶逆境を克服する人材活用術とは? 求人情報を無料化したプロアライアンス(前編)
(後編)

…前後編とも10月6日午後5時アップ予定