(後編)やっぱりステーキ代表「ライバルはラーメン。需要はある」<コロナ禍の挑戦・インタビュー>


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ミスジ肉を使った看板メニューの「やっぱりステーキ」。千円という価格ながら「誰でも食べられるからこそ一番おいしいものを」(義元代表)というこだわりから、肉の味が濃い米国産を使って いる。(ディーズプランニング提供)

 ■ミスジ肉を選んだ理由

 A:ミスジ肉(肩甲骨周辺の部位)を1キロ仕入れても出せるのは620グラムくらい。だからミスジはステーキに使われていなかった。肉屋に聞くと、うちが扱っている量は全国一だそうだ。おいしいけれど扱いづらい肉なので、うちが出した時には他の店ではほとんど見なかった。

 Q:ミスジに注目したのはなぜ。

 A:たまたま。おいしい肉はないかと肉屋に聞いたら、持ってきたのがミスジだった。自分が食べたいのは固まりの赤身肉。手間がかかるからなんだこりゃと言っていたけれど、食べたらうまかった。

 Q:7月からグラムを減らした。

 A:7月からミスジ肉を、180グラムから150グラムに改定した。コロナの影響でアメリカの畜産農家の生産が落ちて、値段がここ20年で一番上がっている。需要はあるけれど、コロナの影響で働く人がいない。外に出られなくて生産量が3割まで落ち込んだ。アメリカは国内消費が一番強い。アメリカのスーパーから牛肉が消えて、輸出用を取ろうとしたら高値を付けられる。ここ20年で一番高い。消費税増税の時も上げなかったけれど、今回のコロナではもう無理。180グラムで提供したら出せば出すほど赤字になる。

 ■プチぜいたく、上限は1000円

 Q:値段はそのままにした。

 A:誰でも食べられるという上限が千円と考えている。ラーメンを食べても千円近い時代で、東京でランチを食べれば、おしゃれだけどパスタで1800円とかする。ランチで出せない。高い。やはり千円がマックス。

 サラリーマン20年やってきて、自分の感覚はやはり貧乏根性というか、感覚として千円がマックスだと思う。ラーメンは東京で食べれば1100円とかになる。こういう形というかこういう価値観なんだとみるために食べてみる。ラーメン店に入る理由は、うちに入るお客さんと客層が一緒だから。ラーメン店に入る客にどう訴求するかを見ている。ラーメンを週に5回食べている人がいる。そのうちの全てではなくて、1回だけうちに置き換えてもらうための戦略を練るために食べ方を見に行く。

 「地域に根差した食堂のような存在になりたい」と話すやっぱりステーキを運営するディーズプランニングの義元大蔵代表=7月、那覇市

 Q:競合店は。

 A:うちの競合はどこかといえば、ラーメン店。ステーキ店ではない。ラーメンくらい気軽に入れるくらいのステーキ店を増やすことが目標。千円ステーキがどんどん増えることはむしろいい。うちはパイオニアなのでそこに不安はない。やってきたことをコツコツ積み上げるだけだ。

 最近は老舗のステーキ店も千円ステーキ始めたけれど、老舗の味やきれいな内装はうちと全然違う。選ぶのはお客さんだし、あちらのようにきれいに店は作れない。沖縄ステーキの文化作ってきたのはすごい。いろいろな老舗が文化を創ってきたところに我々が千円ステーキで突っ込んで、どーんと全国へ広がった。ステーキ文化を変えた自信はある。安いからいいという考え方ではなく、自分は庶民だから、一般の人でいくらなら食べますかという答えが千円だった。ステーキを食べる人を増やそうという考え方だ。

 Q:手の届く贅沢感ということか。

 A:ステーキ、やはり高級食というかプチぜいたくだと思う。ステーキを食べると気持ちはぜいたくになる。食べることがぜいたくで、満足感得られればまた頑張れると思う。

 Q:FC展開は、ミスジ肉を大量に仕入れてコストを下げるためでもあるのか。

 A:そう。必然的にやらないといけない。出すエリアは、必然があれば出すことにしている。FC、待っている人が多い。全部OKすれば100店舗はすぐにできる。来年までに50店舗さらに増やそうと思ったらすぐにできる。でも、オーナーをしっかり見たい。適当な気持ちでやられても困る。やっぱりステーキが大好きで地元に持って行きたいという思いが強い人と組むことにしている。特に何店舗やるというのは決めていない。

 Q:安く提供できる理由は。

 A:出店費用や人件費の圧縮が一番大きい。もちろん仕入れの部分もある。本部が全て輸入するので、一カ月50トンくらい取るのでスケールメリットがある。

 Q:ミスジはアメリカ産以外使わないのか。

 A:ミスジステーキは創業当時からアメリカ産。他の赤身ステーキとかはオーストラリア産を使っている。ミスジ肉はカナダとかメキシコとかもあるが、アメリカが一番おいしい。飼料の差だと思う。関税問題もあってカナダは安いけれど、安ければいいではない。千円だからこそ手を抜かない。千円のものが一番おいしくないといけない。みんなが食べられるものだから。千円にこだわっているから、中身もこだわっている。誰でも食べられるからこそいいものを出したい。

 Q:格安ステーキ店は増えている。

 A:それはそれでいいと思う。おいしいステーキを安く食べられる店が増えて、ステーキ人口が増えるならば。沖縄ステーキは肉の原価だけでなくて雰囲気がとても良かった。うちみたいに低コストではなく、内装などを含めた雰囲気が良い。やはりアメリカ統治下で始めて、その文化を継承している。そこで雰囲気も含めて食べて満足。それは全然いいと思う。あの老舗の雰囲気はうちみたいな新興勢力にはない。うちとは別世界。だって誕生日にうちに連れてきたらケンカになるよ。うちは食堂だから、そこはTPOにあった店を選ぶのがいいと思う。

やっぱりステーキ吉祥寺店のオープンに集まった客の列=2020年6月17日、東京都武蔵野市

 ■東京、実は安かった

 Q:ウィズコロナ続くが、外食産業でどういう取り組みが求められるか。

 A:お客さんが来ないという前提で物事を考える必要がある。来てくれるだろうと考えるところはつぶれていく。回復はしない。口開けても餌をくれる人はいないから、自分たちで動かないと。テークアウトの需要が増えているのでテークアウトを強化していくとか。今できることを必死にやらないといけない。たぶん前のようには戻らない中でどう商売していくかを考える必要がある。

 正しく恐れていかないと、何でもかんでもだめというのはちょっと違うと思う。店としては最大限できることをやる。手洗いをしてもらって、サラダバーでは手袋して空間除菌して。もう元に戻ることはないのだから、戻らないなりにやっていくしかない。

 Q:新しいことにどう取り組んで売り上げを伸ばしていくか。

 A:変えないといけない。コロナが起こった以上、前向きにとらえて変えていかないといけない。自分も50店舗以上の店に責任を持っている。しょうがないと言ったら終わってしまう。今がチャンス。教育もそうだし、今できること、これまで手が回らなかったことをやっていく。

 Q:店を開けていることへの批判もあったか。

 A:少しあったが、時短営業もしているし、対策もしていますよと伝えて、もしよろしければテークアウトもやっていますよと伝えた。経営している方も生活がかかっていて、雇用もある。店を閉めればそこの店の店員に響くし、その家族に影響がおよぶ。1人だけの責任ではない。本社だけでも200人くらいいて、FCもいれれば600人くらいいる。影響が大きい。

 Q:飲食店のコスト管理をどう考えるか。

 A:野菜など、何もかものコストが上がっているところに対応できない店も多い。飲食店は厳しい。特に居酒屋は食材が多いので厳しい。うちは食材を絞っている。一つのメニューでグラムを変えているし、野菜もサラダのキャベツとかカレーのタマネギとか品数が少ないので影響は限定的。居酒屋はメニューが多くて値上がりの影響をもろに受ける。沖縄は野菜が非常に高い。よく、東京で大丈夫なのかと言われるが、東京は野菜が安い。沖縄というコスト高いエリアで勝ち残っている。東京は家賃などの固定費は高いけれど、変動コストは安い。沖縄はもやしやキャベツなどの野菜が高い。輸送費がかさむので。そこでうちはこれだけ広げている。固定費高いから東京で通用しないと言われるけれど、変動費が安いのでそこまでネックにならない。

 ■沖縄の人が食べればいい

 Q:今後の出店計画は。

 A:東京にも開けるかもしれないけれど、他のエリアにすると思う。今、13都道府県にある。まだ出していないエリアに出していきたい。今後1年でどのくらい増やすとかは決めていない。去年も20店舗開けたが結果的に20店舗になっただけ。今年はあまりやらなくてもいい。去年の20店舗分が丸ごと入ってくるので売り上げは入ってくる。

 コロナで当初の出店スピードがだいぶ落ちたが、新しく考えないといけない部分が出た。飲食店は客側の衛生面に疎いところがあった。客がウイルスを持ってくることもある。手を洗いましょう、というのは当たり前のことだが、大人になるとあまり実践しない。そういう意味では石けんで手を洗う文化が再度当たり前になったのはプラスだったかもしれない。飲食店にとってはコロナ以外の食中毒リスクなどもお客さんが手を洗うだけで大きく減る。
 
 Q:県内の多くの店舗が、観光客減少で打撃を受けている。

 A:土産が売れないなら沖縄の人が食べればいい。沖縄の人がもっと沖縄にフォーカスするべきだと思う。国際通りでどんどん店が閉まって、在庫過多でセールして赤字になってという現状を見ていると、沖縄の物にもっと興味を持って、観光依存を見直すべき時かもしれない。沖縄はバブルで、何でも観光客に依存してきた。そこを見直す時期かもしれない。沖縄の人が、県内だけでも使うようになればいい。

 Q:東京進出の理由は広告塔の効果と。

 A:相当広告効果が出ている。東京の発信力を利用しようと思って、必然性があって出た。東京のテレビ局で取材を受けることで、地方の店舗に効果がかなり出た。北海道は前月比200%、仙台も180%、大阪も130%と上がっている。東京でもはやっているというステータスがほしいだけで、東京で展開するのではない。東京が一番ではない。地方を活性化するための東京。東京の発信力を活用して地方を盛り上げるためだ。

 沖縄の企業が東京に出る時にも、活用するくらいの意味合いでやらないとしんどいと思う。うちは他のエリア固めた上で、必然性があったから出した。うちは必然性で選ぶので出店ペースは遅いけれど、FCに競合はさせない。そのエリアはある程度この人に見てもらいたいという考え方。ドミナントで出すのではなく。他の会社がFCやりたいと言っても、もう他のFCがいるところだとそちらを優先する。店舗数ありきではない。

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<コロナ禍の挑戦・インタビュー>

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