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フォロワー1万人の農産物直売所!「ハッピーモア市場」 コロナ禍で売り上げ40%増の「コンテンツ力」とは【WEBプレミアム】


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
コロナ禍でも売り上げが伸びた農産物直売所「ハッピーモア市場」=2021年1月、宜野湾市志真志

 コロナ禍の2020年に売り上げを40%も増やし、インスタのフォロワーが1万人を数える個人経営の「農産物直売所」がある。沖縄・宜野湾市の「ハッピーモア市場」。無農薬・低農薬の野菜のほか、体に優しいこだわりの総菜や加工品を取りそろえ、市外から通うファンも多い。2月28日には2号店をオープンするなど、勢いに乗る理由は。(田吹遥子)

■巣ごもりで「いいもの」志向に

 沖縄県宜野湾市志真志の住宅街。車がやっとすれ違うことができる細い路地のさらに奥、坂道を下りたところに「ハッピーモア」はある。迷う人も多いという分かりにくい場所にあるが、2020年の売り上げは過去最高の前年比40%増を記録した。

 なぜコロナ禍でこれほど伸びたのか。

 ハッピーモアが売りにするのは「健康」や「安心安全」。作り手の顔が見える野菜の紹介だけでなく、野菜に使われた農薬や科学肥料の程度を色分けしたシールで表示し「公開」する。

遠くから買いに来る常連客も

 カート一杯に野菜を載せていた大城美智子さん(62)は「どの野菜にどのくらい化学肥料や農薬が使われているか一目で分かるから安心」と語る。約20キロ離れたうるま市から通う常連だ。

 野菜だけでなく、総菜や調味料なども少し値が張るが、その分良質な素材を使う。健康志向の人たちや子育て世代、素材にこだわる飲食店などに支持されている。 

農薬や化学肥料の使用程度を色分けしてシールで表示している

 多和田敬子副社長は「元々健康をテーマにした店。コロナの影響で自宅にいる時間が増えたからか『値段が高くても体にいいもの』を求める人が増えた。店とお客さまのニーズが合ったのかも」と話す。現場を見続ける大湾絵梨子マネージャーも「客単価が上がっている」と巣ごもり需要にマッチした可能性を指摘した。

 ただし、多和田副社長も大湾マネージャーも、コロナ禍に合わせて何か特別なことをしたわけではなく「普段通りにやってきたことの積み重ね」と冷静に振り返る。その「普段通り」とは何か。どのようにしてできてきたのか。

■商売に不利な立地・・・赤字経営からの転機は

 「ハッピーモア」のオープンは2007年。社長の多和田真彦さんの父親が、かつてトマトを育てていたビニールハウスを手放すことになったのがきっかけだった。農業経験がない多和田さん夫妻は「作り手になるのには無理がある」と判断し、野菜直売所の経営を思い付いた。家庭菜園で育てている人も含めて地域の小規模農家に「収穫して食べきれない野菜を持ってきて」と声を掛けたのが始まりだ。

売り上げ増を「普段通りにやってきたことの積み重ね」と振り返る多和田敬子副社長

 周囲から「商売には不利」と言われた立地だけあって、当初は集客に苦労した。看板、チラシのポスティング・・・。「自分たちでできるだけのことはやった」(多和田副社長)結果か、近所を中心に客が徐々に増えた。新鮮な野菜が好評で口コミで客が広がり、リピーターに。「お客さんが待ってるよ」と伝えることで農家側も「野菜を持ってくる楽しみがある」と喜んで野菜を作り、農家、売り手、客のいいサイクルができた。それでも最初の3~4年は赤字。主に夏場に野菜の供給が安定しないことが一番のネックとなった。

 転機は2011年。形などが悪く、売り物にならなかった野菜と酵素を使って野菜スムージーを開発したことだ。これが「おいしい」とヒット。その後も総菜や加工品など、野菜以外でも、健康にこだわった商品を仕入れて販売した。それ以降ほとんどの年で売り上げは毎年20%増を達成し、右肩上がりの成長を遂げている。

店舗内の出店も好評。総菜から弁当、スイーツまでさまざま。
ハッピーモア市場オリジナルの総菜も素材にこだわっている

■働く人は「コンテンツ」

 売り上げ増を支えたものに「野菜のフレッシュさだけでなく、人のフレッシュさもある」と多和田副社長は語る。広報を担当する石川廉さんも「ハッピーモアで働く人たちそのものが『コンテンツ』になっている」と話す。

 「野菜がたくさん並んでいても、売る人が笑顔じゃないといけない」。多和田社長と副社長の方針もあり、ハッピーモアでは客とのコミュニケーションを大切にしている。接客のときのたわいない会話、オススメ品の紹介・・・集客に悩んでいた開店当初から続くスタッフとの「距離の近さ」が固定客の獲得につながったとみている。

ハッピーモア市場のスタッフ。いつも笑顔

 こまめなSNS発信は子育て世代や若者に広がり、客層の拡大に大きく貢献した。Facebookは2~3日に1回、LINE@も週1回投稿している。特にインスタグラムのストーリーは毎日複数回更新。その日のオススメの野菜、商品を紹介しているが、投稿には笑顔で元気なスタッフが必ず登場する。センス良く発信されたインスタはやはり人気で、フォロワーは1万人超えに。特にコロナ禍で外出の機会が減った状況では、インスタを見て「楽しそうだったから」と、スタッフの明るい雰囲気に惹かれ、会いたいと来る人もいるという。

スタッフオススメの商品もポップを使って明るくPR
ハッピーモア市場に野菜を出している農家の取り組みも手作りのポップで紹介

 「フレッシュな人」はスタッフだけはでない。野菜に作り手の名前が記されているのはもちろんだが、ハッピーモアでは、農家自身が直接野菜を棚に並べている光景もよく見る。機会があれば、野菜を育てた人と直接話しながら買うこともできる。

 「人」も前面に出した店に、多和田副社長は「唯一無二の店舗と言われます」と語る。スーパーのように大規模ではなく、かといって専門店のような敷居の高さもない。「どちらにも当てはまらない規模感だからこそ、客と農家の間に立って一緒に楽しめるコミュニティーができている」と推測する。

■アルバイトでも「数字は自分ごと」

「日々客の反応をみながら(フロアの)戦略を変えていく」と語る大湾絵梨子マネージャー

 ハッピーモアには現在、アルバイトから正社員まで合わせて15人のスタッフが働いている。始業前に全員で必ずやることが、前日の売上額とその日の目標額の確認。この「常に数字を意識する」というシビアさが経営をさらに強くしている。

 多和田副社長は「数字をオープンにすることで、売り上げが自分の給料とつながってると意識でき『自分ごと』にできる」と語る。大湾マネージャーは「売り上げとお客さんの反応をみながら、仕入れからレイアウトまで戦略を立てます。日々反応をみながらその戦略を変えていきます」。スタッフによる、おしゃれな売り場作りやポップの書き方なども評判だが、客の反応や数字を意識した戦略に基づいたものだという。

■ボランティアもペンキ塗り…「ずっと未完成でいたい」

 2月28日には2号店「ハッピーモア市場 Tropical店」がオープンする。場所は宜野湾市大山の「JAはごろも市場」が入っていた建物で、売り場面積は今の1・5倍。駐車場は170台と、規模が大きくなる。

ハッピーモア市場2号店「ハッピーモア市場 Tropical店」になる予定の旧JAはごろも市場=2021年1月17日、宜野湾市大山

 1月17日。広い建物内で棚作りとペンキ塗り作業に精を出す人たちがいた。それはハッピーモアのスタッフだけでなく、インスタで店舗改装のボランティアを呼び掛けて集まった人たち。客や農家などつながりはさまざまだ。6年前に沖縄に移住して以来の常連という43歳の女性は「お店が好きだから」という理由で手伝いを申し出た。月に1~2回、スムージーを楽しみに店に来るという46歳の男性も「インスタをみて面白そうだったから」とボランティアに来た。

店舗内の作業に精を出すスタッフやボランティア=2021年1月17日、宜野湾市大山

 大湾マネージャーは2号店について「もっと農家の人を見せて、スタッフもかっこよく見える売り場にしたい」と意気込む。搬入口をあえて見せて農家の入荷作業を見せる。精米器を店舗の中央に配置して精米の音を聞いてもらう。作業台やカウンターキッチンも中央に設置し、袋詰めや料理などの作業も見てもらう。徹底した「見せる」作りだ。さらに「お客さんがバックヤード作業を体験するイベントもしたい」と夢が広がる。農家、スタッフ、客の交わりが活発な店舗を目指している。またハッピーモア手作りの加工品も増やしていく予定だ。

 多和田副社長は本店も含めて「ずっと『動く市場』だと思っている」と語る。「やってみて間違ったらまた変える、ずっと未完成の市場でいたい」。

取材に応じた(左から)広報の石川廉さん、多和田敬子副社長、大湾絵梨子マネージャー=2021年1月6日、宜野湾市志真志

 世界はコロナ禍からまだ抜け出せずにいるが、ハッピーモアのスタッフはやはり明るい。多和田副社長は「スタッフは常に次を考えている」からだという。「前へ前へ、成長していくのが企業ですよね。前を向き『どうやったら実現できるか』だけを常に考えている」。そう力強く語った。

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