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普天間移設「県・市の決断で辺野古移設決定」はミスリード 衆院選ファクトチェック


この記事を書いた人 Avatar photo 滝本 匠

 31日投開票の衆院選沖縄1区での選挙戦を巡り、候補者のネガティブ情報を広める文書が沖縄県内で出回っている。その中で、これまでも沖縄の選挙で大きな争点の一つとなってきた米軍普天間飛行場移設問題について「県・市の苦渋の選択として辺野古への移設が決定した」との記述がある。これは政府を中心に従来繰り返されてきている誤った言説だ。(滝本匠)

▼衆院選沖縄1区終盤情勢

 かつては沖縄県知事が辺野古移設に合意した経緯もあるが、日本政府はその後、沖縄側と結んだ条件をほごにした上で同じ辺野古への移設を進めているのが現状だ。この経緯から、現在の移設案も地元合意を得て進めているものだと印象づけるのはミスリードだ。かつて菅義偉前首相が官房長官時代に同様の説明をしており、同じような言説が時を経て繰り返されている。

■出どころは不明な文書が広がる
 表題に「『下地ミキオ』氏を自民党にもどせないのは……」と掲げた出所不明の文書は、自民党支持者の間で出回っている。その他、紙のチラシの形でも確認されている。

衆院選沖縄1区で出回っている文書

 普天間飛行場の移設については「世界一危険な『普天間飛行場』の移転は、日本・米国・県・市・地元集落の苦渋の選択として辺野古への移設が決定したのです(SACO)」と記している。

 SACOとは沖縄に関する日米特別行動委員会の英文の頭文字で、1995年に沖縄で起きた米兵3人による少女乱暴事件を受け、日米両政府が沖縄の基地負担の軽減を目的に設置した。96年のSACO最終報告で、普天間飛行場の返還と代替施設を沖縄本島東岸の海上に建設することが日米両政府で合意された。 https://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/saco/saco_final/hutenma.html

 地元の沖縄県の合意を得るのはこの後のこと。当時の大田昌秀知事は県内移設を前提としていることに「厳しい状況だ」と受け入れに否定的だった。98年の県知事選に当選した稲嶺恵一知事が、地元名護市の岸本建男市長(当時)の条件付き同意を踏まえて、日本政府と合意するのに当たって移設先が「軍民共用」と「15年使用期限」の2つを条件に掲げて「苦渋の決断として」受け入れた。2条件は当時の閣議決定にも盛り込まれたが、その後日本政府はこの条件を除いた内容の閣議決定を沖縄県の頭越しで決定した。合意を結んだ当事者である稲嶺前知事は、この地元合意の存在が続いているとの前提で辺野古移設が推進されていることに不快感と反発を表している。
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1250678.html

 チラシの中身は普天間移設の「地元合意」のほか、保革合流したオール沖縄勢力の支援を受ける沖縄県知事を「反日、反体制、自虐史観の左翼知事」と指摘、下地氏については「カデナ統合論とか硫黄島移転など、有事、平時でも通用しない幼稚な思いつきのレベルで騒いでいるだけです。」と批判している。

 その上で「若干の日時は要しても唯一の現実的な解決策は、辺野古移設しかありません。」と、辺野古移設が「唯一の解決策」だとする政府の主張を代弁しながら辺野古移設の推進を強調する。さらに共産党の安全保障の在り方も批判する記述が続く。それから最後に再び下地氏への批判で締めている。

■過去にも繰り返し
 普天間移設の経緯を巡ってはかつて、菅前首相が官房長官時代の2018年11月15日の参院内閣委員会で、日米の普天間返還合意を受けて「(合意から)3年後に地元の市長と県知事が合意し、辺野古について国が閣議決定した」と地元合意を強調した。

 だが、これは、現在の辺野古移設案の合意経緯を丁寧にさらえてみると、正確でないことがわかる。当時もファクトチェック記事として掲載した。

 出所不明の文書に、普天間飛行場の県内移設がSACOで地元合意のもと決定されたように記されているのは、経緯の順番も異なり、現状の事実関係としても不正確だ。日本政府が現在の辺野古移設案を進めようとしているのに、「左翼知事」が妨害して移転事業が遅れているとする展開は、合意形成とそれをいったんほごにした経緯に照らしてみると、ミスリードだ。

 さらに文書は、辺野古移設だけが「唯一の現実的な解決策」だと結論づけているが、移設予定地の大浦湾に当初は想定していなかった強度の弱い軟弱地盤が存在することが判明しているが、それには一切触れていない。防衛省は軟弱地盤の存在を受けて、沖縄県に埋め立て工事の設計変更を申請している。「唯一」で「現実的」な解決策なのかどうかは、多くの専門家も疑問を投げかけており、根拠が揺らいでいるのが現状だ。

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