「お母さん、お父さんと呼ばせよう」異なる姓と「ママ」の存在<記者、里親になる>4


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>>【連載1回目】子育ての経験ないまま・・・子の受け入れ突然に(https://bit.ly/3qvyVsu)

 

 

公園でケイ(仮名)と記者と妻=沖縄本島内

 人事異動で仕事の拠点が本社(那覇市)に戻った2020年、長期の見込みとなるケイ=仮名=を受け入れることになった。

 それまでに別の打診も数件あった。仕事で単身赴任だったり、妻が闘病中だったりと、受託のタイミングが合わなかった。子どもの状態を聞き、気後れして断ったこともあった。断った罪悪感はとげのように残っている。

 ケイに関する打診を受け、妻と2日ほどかけて話し合った後、受け入れると伝えた。

 受託の方針が固まると、夫婦で施設を訪れ面会を重ねた。入浴や身の回りの世話などを職員から学んだ。私が仕事で赴けない日、妻1人が訪問した。打診から約3週後、3人の生活が始まった。

 児童相談所で受託式もあった。子どもの権利を守るという宣誓書を職員と共に読み上げた。

 ケイの住民票を私たち世帯に異動する必要があった。その手続きが役所で円滑に進むように、児童相談所の職員が妻に同行した。住民票のケイの欄は「同居人」と表示された。

 児童手当を受け取るため口座も開設した。私たちとケイとは姓が異なる。里親と里子の関係であるという書類を提出した。手続きをした妻によると、銀行の窓口で対応した行員は里親制度を知らなかったようだ。

 「氏名は子どもにとってアイデンティティー」と児相の職員が強調した。氏名は実親との結び付きを示すもので、留意するよう言われた。私たちが実親でないこと、血縁関係がないことを伝える「真実告知」も、いずれしなければならない。

 予防接種のために訪れた病院では、保険証に記された本来の姓で呼ばれる。実際に暮らす里親と姓が異なることを里子はどう受け止めるのか。学校などの公の場でも、実親、里親のどちらの姓を使用するか。本来の姓の場合もあれば、学校側と相談して通称を使う場合など、里親家庭それぞれの判断に委ねられる。

 ケイの場合、実親との定期的な面談もある。実親との関係性を説明しないわけにはいかない。影響を見定め、告知をしていくことになる。姓をどうするか、今後ケイと話し合って決めたい。

 親族以外の近所や同僚などには、私たち夫婦が里親で、里子を迎え入れたことを説明した。実子がいる家庭と同じように、ケイのことで仕事への調整も発生するかもしれない。子どものプライバシーに関わることを除き、一般的な里親の活動を語ることについて児童相談所が制約することもない。周囲もケイに会うと、かわいがってくれる。

 琉球新報社は社員に「家族手当」を支給している。ためらいながら書式に里子であることを記して申請すると、支給された。周囲がケイと私たちを家族と認めたようで、うれしかった。担当者は「社内で初の事例では」と言った。

 託されたケイの資料をめくると、実親に関する表記は「ママ」とあった。妻が言った。「この子にはママがいる。私たちのことはお母さん、お父さんと呼ばせよう」。そう決めた。
 (島袋貞治)

▼<記者、里親になる連載1の下>託された命、抱きしめ考える 「子の一番の幸せ」とは…

▼<連載2>救える子ども、この手でも…大震災が契機に

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