在住外国人から見える沖縄~県知事選を機に考える【WEB限定】


この記事を書いた人 アバター画像 慶田城 七瀬

 沖縄県知事選や首長選、統一地方選が9月11日に投開票される。多くの課題を解決しようと有権者が票を投じるが、沖縄には投票権を持たない外国人も多く暮らしている。あなたの同僚や友人にも投票権のない人がいるのではないだろうか。彼らには沖縄社会はどのように映り、彼らの声を政治や行政に反映していくにはどうすればよいだろうか。

(慶田城七瀬、呉俐君)

 

「外国人向けの相談窓口がどこにあるか分からない」(韓国出身女性)

「日本語ができない人に英語の説明書など配慮を」(ネパール出身男性)

 これらの声は昨年11月に那覇市の若狭公民館で開かれた「グローバルパラソル市民会議」での参加者からの報告だ。「市民会議」では県内在住外国人の困りごとを共有しようと、生活の中で感じる疑問や改善策を話し合った。

 

外国人も地域に暮らす一員

 2020年の国勢調査によると、沖縄に住む外国人の数は約2万人。在沖米軍基地への駐留経験者や、戦前戦後に海外に移民した人の子孫などのほかにも、近年は、沖縄科学技術大学院大学をはじめとする大学への留学生、技能実習生も増えている。コンビニや飲食店ので働く外国人もよく見かけるようになり、地域住民と外国人が接する場面は増えている。

 19年10月末時点で過去5年間の外国人労働者数の増加率は、沖縄県が1位だ。那覇市の資料によると、総務省が公表している2015-20年まで5年間の外国人人口増加率では、那覇市が日本の全市区町村の中で15位。ネパールや中国、ベトナム国籍の人が多い。
 

ネパール交流イベントでネパール語での「かぎやで風節」を披露する演者=2019年4月14日、那覇市若狭

 多くの外国人が地域社会に暮らしている中、那覇市若狭公民館では、市民なら誰もが活用できる公民館を拠点に、外国人との交流を始めた。これまで在沖ネパール人との交流会を開いたほか、コロナ禍での留学生への食料支援、行政や医療関係者との情報交換などに取り組んできた。
 

 >>ネパールの文化に触れよう 沖縄・若狭公民館でイベント
 

 同公民館の宮城潤館長には、外国人と政治や行政につなぐことに関心を持ち始めたきっかけがある。

 2020年にコロナ禍で実施された沖縄県議会議員選挙の告示前に、子どもたちが立候補予定者に質問するYouTube配信を行った時のことだ。

 沖縄に住むドイツ人の友人が視聴し「面白い」と感想を寄せた。沖縄社会の課題や政治にも関心のあるこの友人に「外国人向けにもやってほしい」と要望されたという。

 宮城館長は「地域社会の一員として働き税金も納めている。政治に関心があり、問題意識もあるが投票権がない外国人と議員らをつなぐ場をつくれないかということだった」と振り返る。その後に実施されたのが冒頭で紹介した「グローバルパラソル市民会議」だ。
 

オンライントークイベントの様子=2020年5月

 >>小中高生がZoomで立候補予定者に質問「政治家の仕事って何?」 県議選向けオンラインイベント 

 

 国政選挙では外国人参政権が話題になるが、まずは地域で暮らす外国人が何に困っているかをざっくばらんに聞いてみようというのが趣旨だった。国籍や在留資格もさまざまな文化的背景を持つ外国人と、地域住民や那覇市議会議員にも参加してもらい、課題を共有した。

 「日々の暮らしの中で政治の影響を受けるのは投票権のない外国人も同じ。地域社会に暮らすのは有権者だけではない」と宮城館長は外国人の声を拾い上げることの必要性を語る。

「有権者以外にも市民はいる」と語る若狭公民館の宮城館長=2日午後、那覇市若狭

 ある選挙では、当選した候補者のあいさつに、ひっかかりを感じたこともある。「自分に投票していない全ての有権者の分まで頑張ります」という言葉だった。「『有権者』以外にも市民はいる。悪気はないと思うが、自分たちがつい意識の外に置いてしまう人たちがいるということに、意識的になってもらう必要がある」と指摘した。

 

「投票権はないけれど」

  琉球新報社の同僚にも台湾出身の呉俐君(ウ・リジュン)記者がいる。大学時代に留学のため来県し、卒業後に新聞社に就職した。

 「台湾人は選挙に熱く、私も非常に関心を持っている」と話す呉記者。沖縄に住むようになってからも、母国台湾で選挙があるたびに帰国し、投票しているという。台湾では立候補者が開く集会へ演説を聞きに行く「選挙ツアー」もあり、支持する立候補者が著名な政治家と登壇する。その様子はまるで「人気アーティストのコンサート」(呉記者)。会場周辺に屋台も集まり、好きな食べ物を食べながら演説を聴くという。

台湾出身の呉俐君記者

 同じく外国籍を持つパートナーと子育てしながら新聞記者の仕事に励む日々。沖縄の生活では困ったことも多く経験しているという。役所の手続きでは窓口で何度も書類を求められることも。そのほかにも車社会で常に激しい渋滞、公共交通機関の問題など、日本の投票権は持たないが、生活者として沖縄社会の課題にも関心を寄せる。

 県内の研究機関に勤める呉記者のパートナーも外国籍で日本の選挙権はないが、沖縄県知事選には「関心がある」という。注目する候補者の政策は子育て。「沖縄の子どもたちにもっと教育の機会を与えてほしい。好きなことを学べば、新しい世界が開ける」と期待する。

 呉記者にも、沖縄に住む外国人の声を取材してもらった。

 香港出身で県内で飲食業を営むエイミー・ダンさん(45)。16年に家族3人で沖縄へ移住した。エイミーさんは、沖縄が観光業に依存しすぎだと感じているという。

香港出身で沖縄で飲食業を営むエイミー・ダンさん(左)=北谷町

 「中央政府に依存しすぎるとリスクが高い。たとえば、香港はかつて中国本土からの観光客に依存しすぎだった。中国からの投資や、中国本土から観光客が来なくなると、香港経済がすぐ困難に陥る」と出身地を引き合いに指摘した。

 沖縄県への要望として「県は沖縄物産などへの開発にもっと投資してもらいたい。スタートアップにももっと注目して欲しい。新たな商品開発は、沖縄の観光業や地元経済に刺激を与えそう」と話した。

 交通に不便を感じたり、教育機会の広がりに期待したり、沖縄の経済発展を願ったり。地域で暮らす有権者が感じていることは、そこに住む外国人も同じだ。「多文化共生」が進む中、社会をよりよくするために、投票ができない人たちの声とどう向き合うのか。多くの選挙が行われる今、もう一度考えてみたい。


【参考】

・若狭公民館の活動 報告:グローバル⛱市民会議

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