朝ドラ「ちむどんどん」と併走したSNSアカウント 豆知識の投稿、人気のスペース…「中の人」たちの思い【WEB限定】


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沖縄本専門店「まめ書房」のアカウントでSNSに投稿した「ちむどんどんまめ知識」のサムネイル

 沖縄を舞台にしたNHKの朝の連続テレビ小説「ちむどんどん」が9月30日、最終回を迎えた。SNS上では「#ちむどんどん反省会」のハッシュタグができるなど、賛否が分かれるストーリー展開だった一方で、ドラマに登場する沖縄の民具や料理を紹介したり、独自の楽しみ方を共有しながら全125話を併走したSNSアカウントがあった。(デジタル編集グループ・田吹遥子)

 

■料理から民謡、背景に写る民具まで「沖縄を知ってほしい」

暢子が立つ台所に、いつも丸っこいカゴが吊り下げられていたのにお気づきですか?実はあれは…

「サギジョーキ」といって冷蔵庫が無かった時代に、食べ物を保管するために用いられた竹のカゴ。

蒸した芋や茹でた豚肉などを入れ、床に置かずに吊るす事で、ネズミや蟻から守ったのです。

 神戸市東灘区岡本にある沖縄本専門店「まめ書房」のアカウントでは、ドラマに登場した沖縄の民具や料理、歌、行事に関する解説や歴史的背景を「#ちむどんどんまめ知識」として投稿した。アカウントの主は店主の金澤伸昭さん(56)。Twitter、インスタグラム、Facebookでほぼ毎話ごとに投稿を続け、最終回までに100回を超えた。

ちむどんどんまめ知識の投稿を続けた「まめ書房」店主の金澤伸昭さん

 商品紹介などで利用していた店のアカウントを使い「まめ知識」の投稿を始めたきっかけの一つは、店で仕入れている沖縄の「北谷竹細工」の工芸品だ。その工芸品がドラマ内で使われると知り、紹介をしようと考えたという。「ほかにも工芸品や料理が出てくるだろうから、ドラマでは説明されないことも解説して、ドラマが盛り上がれば。そして朝ドラから沖縄を知ってお店にも来てもらえればと思いました」。
解説には、おすすめの本や文献の紹介もあり、興味を持った人がさらに深く知るための仕掛けがされている。

 毎回の投稿スケジュールはこうだ。毎朝起きて朝ドラを見て、沖縄に関連する物や場面が写ったら、その画面をスマホのカメラで撮る。そして店までの通勤途中に内容を考える。店内で関連する本を探し、店番をしながら文章やサムネイルを作成する。お昼過ぎまでの投稿を心がけているが、午後までかかることもあるという。「本を探しに定休日でも休日出勤することがありましたよ」と苦笑いする。

 詳しく分かりやすい投稿に、SNSでの反応は上々で、Twitterのフォロワーは1500人増。投稿のいいね数やRT数が3桁を超えることもしばしばだった。「勉強になりました」「初めて知った」「楽しみにしています」という、投稿を待ち望んでいるリプライも多く寄せられるようになった。 

 それにしても、この「沖縄を紹介したい」という思いの原動力はなんだろう。

 沖縄との出合いは「小学生の頃」という金澤さん。子守歌「耳切坊主」の独特の明るさに「面白い」と思ったことがきっかけだ。学生時代にはオキナワンロックや民謡などにハマった。歌詞を調べるうちに、沖縄の世界にのめり込んでいった。「歌詞に出てきた『ちんぬくじゅーしー』が何だろうと調べるうちに沖縄の料理のことを知り、それを食べる行事も知る…沖縄の歌や工芸は単体で存在していないんです。全部つながっているんです」

 調べていくうちに日本で唯一の地上戦となった沖縄戦や米軍基地負担の問題にも「自然と行きついた」(金澤さん)。そして「沖縄県外にいる自分たちが沖縄に基地負担などの状況をもたらしている」と思った。同時に「多くの県外の人に沖縄の問題を自分の問題として知ってほしい。無知からくる誤解があるならそれを解消するようなことをしたい」との気持ちが高まったという。 

まめ書房の店内(金澤さん提供)
まめ書房の店内。竹細工も販売している。(金澤さん提供)

 25年勤めた会社を辞め、2015年に念願だった沖縄本専門店「まめ書房」をオープン。沖縄のことを多くの県外の人に知ってもらいたいと考えていた金澤さんは、沖縄が舞台の朝ドラは「普段沖縄に関心がない人にも届くいいチャンスだ」と思ったという。それもこれまであまり光が当たらなかった復帰前後の沖縄が舞台。「どんな作品になるかなと期待感がありました」。

 実際に見た「ちむどんどん」では「珍しい沖縄料理の紹介や魔除けの『サン』などの風習、民具などがたくさん画面にちりばめられていました」と振り返る。一方、それらの説明はほとんどなかった。「その分、結果として投稿の価値は確かに高まってやりがいはあったかも。でもドラマでもうちょっと説明してほしいというのもありましたね」とも語る。

 復帰前後の沖縄の描き方は想像したものと異なっていた。「復帰の日の描き方が簡潔だったこと、米兵の影も形もないことに違和感を感じました」。1970年のコザ騒動、1975年の海洋博…同じ時代を舞台としているのにもかかわらず、ドラマにはほとんど登場しなかった歴史的な出来事も「まめ知識」では紹介した。

ドラマで描かれたなかったコザ騒動についてもSNSで紹介。
ドラマに登場しなかった海洋博覧会についてもSNSで紹介した

 このような沖縄の描き方に脚本を批判する声も多いが、金澤さんは「『期待外れ』という言葉はよくないかなと思っている」と言う。「テレビ側は視聴者が見たいと思っているものを描いている。(その結果であれば)それは僕たち見る側に関心がないということで、それなら責められるのは回りまわって主に県外の僕たちかもしれない」。

 

■余白を楽しむ「二次創作」的空間

 毎週金曜日の午後10時以降「テーレッテレッテ―」明るい声でドラマのBGMを歌うところから始まるーーー。Twitterアカウントホリーニョさん=大阪府=がホストを務める、ちむどんどんについて語り合うスペース(=Twitterの利用者が音声を使って作り上げるコミュニティ)も好評だった。

 ホリーニョさんと共にスピーカーを務めるのは、朝ドラフリークの盛岡やまちさん=岩手県、漫画家のなかはら・ももたさん=千葉県。朝ドラ「あまちゃん」のオフ会でつながった3人で、毎週のストーリーを振り返りながら語る内容になっている。

10月2日に配信した全話のまとめ回はなんと5時間。アーカイブも含めて6日時点で5300人以上が再生している。

 ホリーニョさんは、沖縄の戦中〜戦後の白黒写真をカラー化し、Twitterで投稿し続けている。沖縄の現状を本土の人に知ってほしいとの思いで続けている中、朝ドラの舞台が沖縄になると聞き「沖縄のことを学ぶきっかけになる」と喜んだ。「復帰前後の沖縄の歴史を学ぶきっかけになってほしい。(多くの人に広がるよう)愛されるキャラクターになってほしい」。さまざまな期待を持ってドラマを視聴したが、実際のストーリーは予想と違った。「沖縄の歴史よりドタバタコメディーという感じで、期待とちゃうやつが始まったと思いました」。

 自分が当初「ちむどんどん」に抱いていた期待は、果たして正しかったのか。朝ドラを見続けている友人に「朝ドラのルール」を聞いて、考えたいと思って始めたのがこのスペースだった。

 当初は印象的な場面のみを振り返っていたが、1週間内に起承転結があるストーリー展開の早さに「なぜこうなったのか」と疑問に思うことが増えた。そこで「細部にこそ不自然さが出る」と考え、全てのセリフをなぞりながら丁寧に分析し「楽しくツッコミを入れる」スタイルに。「毎日、朝ドラを2度見ながら、セリフを書き起こすんです。1話分でA4の紙3~4枚くらいになりました」とホリーニョさん。そこから分析、登場人物の声まねの練習などを経て、毎回スペースの日を迎えていた。

ホリーニョさんがセリフを読み上げるために書いた全125話分のメモ。

 開始当時リアルタイムで20人程度だったリスナーは、最終回には深夜0時前後でも200人以上が聞いていた。「ナレーションや俳優のセリフをまねるなど、解像度を上げたのもあってリスナーが増えたのかもしれません」(ホリーニョさん)。

 リスナーが増えると楽しいのは双方向性だ。
 3人の疑問にリスナーがリプライ欄で答えたり、分析や妄想に加わったりする。それを読み上げ、さらに広がる―――。ストーリーを丁寧に共有することで、同じ空間でおしゃべりをしている感覚になる。

 その盛り上がりに、ホリーニョさんは「物語の余白を想像してみたら二次創作のようになったのかも」と話す。30日の最終回は4時間、10月2日には全話を振り返る5時間にも及ぶスペースを配信。リスナーから「スペースロスになりそう」と終了を惜しむ声も上がった。

 「ちむどんどん」について、ホリーニョさんは、これまで沖縄のドラマで語られてこなかった、戦後の沖縄にハワイから豚が送られたエピソードや、沖縄料理の数々が登場したことは「とてもよかった」と話す。一方で「歴史の紹介は弱かった」と指摘。「ドラマで描かれなかったことも含めて沖縄を学ぶきっかけになっていたらうれしい」と語った。


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