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先攻と後攻、甲子園ではどちらが勝てる?「先取点ジンクス」・・・あの名監督にも直撃してみた


この記事を書いた人 Avatar photo 大城 周子
2010年に史上6校目の春夏連覇を達成した興南=2010年8月21日、阪神甲子園球場

 8月は高校球児にとって夢の舞台、甲子園で熱戦が繰り広げられる季節。県代表の試合中は「国道から車が消える」といわれるほど沖縄県民の高校野球好きは有名だ。かくいう私も、1990、91年の沖縄水産の2年連続準優勝をきっかけに県勢の戦いには注目し続けているし、2010年の興南の春夏連覇のときに現地で見た歓喜のウエーブは忘れられない…。

 さて、野球に興味がない人も(多分)一度は持ったことがあるであろう疑問「先攻と後攻は実際のところ、どちらが有利なのか」。沖縄県勢の戦績を基に考えてみた。

(大城周子)

■もう一つの戦い「じゃんけん」

 まず、表に攻撃をする「先攻」と裏に攻撃をする「後攻」はどうやって決めているのか。  

 高校野球では五回裏、グラウンド整備の時間になると、次の試合のチームの主将がバックネット裏に呼ばれる。そして、先発メンバーを記入したオーダー表の交換と、主将同士のじゃんけんが行われ、勝った方が先攻か後攻かを選ぶ。

先攻か後攻か、選ぶ権利を決めるじゃんけん

 沖縄県高野連前理事長で、長く球児のじゃんけんを見守ってきた又吉忠さんによると「ほとんどが後攻を選ぶが、チームカラーにもよる」とのこと。一般的に野球は先攻よりも後攻が有利とされている。同点で最終回を迎えた場合にサヨナラ勝ちのチャンスがあること、相手の出方に応じて作戦が立てやすいなどが理由に挙げられる。

 今年の沖縄大会を制した沖縄尚学の比嘉公也監督は「エースが投げるときは後攻め、2番手投手のときは先に点を取ってあげるという意味で先攻めがいいかなぁ…。でもトータルで考えたらやっぱり後がいいと思います。先制さえされなければこっちの展開になり、サヨナラ勝ちできる安心感もあるので」と言う。
 1999年春に沖尚が県勢初の甲子園優勝を達成したときのエース投手でもある比嘉監督。「自分が投げるときは後攻がいいです。(初回に)きれいなマウンドで投げられるんで」
 
 果たして本当に後攻は有利なのか、実際の試合データから検証してみた。

 まず調べたのは2000~2023年の沖縄大会決勝。計24試合のうち先攻のチームが勝ったのは14回、後攻が勝ったのは10回。勝率は.583(5割8分3厘)と.417(4割1分7厘)となり、23年間の決勝の数字だけでみると「先攻のほうがやや有利」といえる。

 意外な結果だったので、半信半疑のまま次は甲子園での成績を調べてみた。

 2000~2022年の夏の甲子園で、沖縄勢の戦績は48戦27勝21敗となっている(2020年は新型コロナのため中止)。27勝のうち先攻だったのは10試合、後攻は17試合。前述した県大会決勝の分析とは逆に「後攻が有利」との結果だ。つまり、先攻と後攻のどちらが優位か、二つのデータからは断言できないということに…。

 だが、ここで別の数字が気になった。先取点を挙げたチームの勝利が目立つことだ。

 2000年以降の沖縄大会決勝の結果をみると、24試合中16試合で先制点を奪ったチームが勝利しており、勝率は6割を超えている。そこで出てくるのが新たな疑問だ。
 
 「“先手必勝”は定石なのか」

■先取点で勝率7割に!

 夏の甲子園での沖縄勢の成績はどうだろうか?過去22年間の全48試合で先取点を挙げたのは27試合で、そのうち20試合で勝利を挙げている。
 さらに、勝利試合だけに焦点をあてても、同じように27勝のうち20試合が先制していた。
 つまり先に点を取った試合では実に7割超の高い確率で勝利しているということになる。

 史上6校目の春夏連覇を達成した2010年の興南も、決勝までの6試合のうち4試合で先取点を挙げていて、ベスト4入りした2008年の浦添商は準々決勝までの4勝全てで先取点を奪っていた

 ちなみに、今年の沖縄大会決勝は一回に1点を先制した沖尚が四、八回にも追加点を奪い3-0で勝利を収めている。まさに「先制ジンクス」を証明した形だ。 
 沖尚の佐野春斗主将は「先攻か後攻かに関係なく『先制点を取る』というのは大事にしています。先に点をとって気持ちが楽になった状況で、自分たちの野球ができるからこそ自分たちの流れになってくる」と言う。

 決勝で惜しくも敗れたウェルネス沖縄の五十嵐康朗監督は「先攻と後攻はどちらが有利か」の問いには「絶対後攻ですね」と即答。理由は失点を計算しやすくなるからだそう。

 ただ、今回ウェルネスは後攻だったものの、ホームベースが遠く完封負け。やはり先制されたのが痛かったのか? 五十嵐監督は「後攻なので初回の失点は気にならなかった」と言う。そして「次の1点をどちらが取るかというときに先に取られて流れを渡してしまった。(沖尚)エースの東恩納君を動揺させられなかった」と敗因を挙げた。

甲子園出場を決め、喜ぶ東恩納蒼投手(中央)ら沖尚の選手たち=2023年7月16日、那覇市の沖縄セルラースタジアム那覇(小川昌宏撮影)

 今回の取材で、先攻と後攻の優位性について断言できるほどの明確な差は表れなかったが、先制点は大事な要素といえることが分かった。ただし、チーム状態や相手の戦力、グラウンドコンディションなどさまざまな条件が加わることで展開は変わってくる。

 甲子園は今大会から五回終了時に暑さ対策のため「クーリングタイム」が設けられ、ベンチ入りできる登録選手も従来の18人から20人に増えた。数多くのドラマが起こる夏。沖縄の球児たちがどんな記録を刻むのか、ちむどんどん(わくわく)しながら熱戦を見守りたい。

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