prime

【動画あり】見せ方で売り上げが10倍にも 棚に置くと全く売れない商品って何?<ビッグワン「おもしろさ」の秘密>(3)売り場づくりのコツ


【動画あり】見せ方で売り上げが10倍にも 棚に置くと全く売れない商品って何?<ビッグワン「おもしろさ」の秘密>(3)売り場づくりのコツ 買い物客の目を引くような売り場作りに励む店内=那覇市鏡原町のビッグワンアクロスプラザ小禄店(大城直也撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 古堅一樹

 店へ入るとすぐ、にぎやかな音が聞こえる。「ビッグワンへりっかりっか~♫(ビッグワンへ行こうよ)」「すごいでしょ~!」。商品棚ごとに、目立つ場所へテレビ画面を設置し、社内タレント、いしみね店長が商品の特徴を伝えている。カラフルな文字のPOPも目に入ってくる。歩いて眺めるだけでも楽しめる店内。沖縄各地に展開するディスカウントストア「ビッグワン」(久保田安彦社長)は、社を挙げて売り場作りに力を入れる。商品をどう見せるかによって、売り上げが2倍、3倍と増え、ときには約10倍もの違いが出るという。どんな秘訣が隠されているのか。早朝から始まる作業の舞台裏に迫った。

開店2時間前の店内は・・・

 朝7時、ビッグワンのアクロスプラザ小禄店(那覇市鏡原町)。開店の2時間前だ。外はまだ薄暗く、入り口は閉まったまま。店内には明かりが見える。

 

開店2時間前。表の看板は消え、自動ドアもまだ開いていない中、店内に明かりがともる=那覇市のビッグワン・アクロスプラザ小禄店

 ドアを手動で開けて店内へ入ると、営業時間のにぎやかさは一切ない。シーンと静まりかえった店内で黙々と作業をする社員の姿があった。

 売り場の最も高い2メートル余の場所には、カラフルな文字で「お菓子 バルーン&レイ」と書かれたパネルを掲げた。取材したのは卒業式シーズン直前の2月下旬。沖縄では卒業生への贈り物として毎年恒例となっているお菓子を詰め合わせたレイ(首飾り)などを陳列していた。

買い物客にどの角度からでも商品が見えるように工夫を凝らして売り場を作る新垣和幸さん=那覇市鏡原町のビッグワンアクロスプラザ小禄店(大城直也撮影)

 作業を進めていたのは小禄店の売り場作りを担当するビッグワン販促課の新垣和幸さん。卒業式シーズンの目玉商品として、店に入ってすぐに目に入る位置を選んだ。棚の側面にも商品を置き、利用客が入店するときも、逆に買い物を終えて出て行くときも見えるように工夫して配置した。慣れた手つきで、次々に商品を並べていく。

 1時間余をかけて完成させた後、売り場ごとに設けられたテレビ画面の電源などを一斉に入れた。すると、いしみね店長らのCMも流れ始め、一気ににぎやかになり、開店の準備は万全に整った。

仲間だけど、ライバル?

 ビッグワン直営の沖縄本島内7店舗には、新垣さんのように販促課の売り場作り担当者が1人ずつ配属されている。店舗ごとの担当者らは、連携する仲間でもあり、刺激し合えるライバルのような関係でもあるという。

 他店の担当者が作った売り場で好成績が出たら参考にすることもある。一方、自分で考えた売り場のアイデアで売り上げが伸び、他店でも参考にされるようになると、やりがいにつながる。どこかの店舗で大がかりな売り場を作る際には、各店舗から集まり、協力して陳列していく。

買い物客の目を引くように作り込む店内=那覇市鏡原町のビッグワンアクロスプラザ小禄店

「なぜ売れない・・・」と悩んだ末に

 例えば、新垣さんが手応えを感じ、他店でも取り入れた売り方の一例が、浴室を出た後の脱衣所で使う「珪藻土バスマット」だ。オリジナル商品として開発し、店頭に並べたものの、当初は売れ行きが伸びなかった。なぜ売れないのだろうー。悩み、考えた末に、新垣さんは、あるアイデアを思いついた。

 出発点は、利用客に商品の特徴が伝わっていないから売れないのだろうという発想だ。それならば「水を珪藻土バスマットにかけてすぐに乾く」ということを利用客に体験してもらおうと試みた。売り場に置いたスプレーで水をかけて効果を試してみるように、分かりやすく案内する「POP」を作ってほしいと本社へ依頼したのだ。

 本社から届いたPOPには、親しみやすいイラストと一緒に大きな文字で「ぜひ!試してみてね」と記されていた。これを商品の見本に張り付けて展示すると、利用客の反応が一変した。実際にスプレーをかけて吸水力を実感する利用客が増え、1週間の売り上げは前週の約3倍にもなったという。

POPの設置で売り上げが伸びたというバスマットを紹介する新垣和幸さん=那覇市鏡原町のビッグワンアクロスプラザ小禄店(大城直也撮影)

 売る商品によって、置き方に注意が必要だ。POPをつけて、利用客に分かりやすく伝える商品もあれば、山積みにして「ボリューム陳列」をする商品もある。

山積みに適した商品とは

 CM制作に加え、商品企画や売り場づくりなども統括する大城智史常務は「ウエットティッシュなどの日用品は棚に置いても全然売れない」と強調する。「山積みでボリューム陳列されていない店舗と、山積みでボリューム陳列している店舗では10倍ぐらい差が出ることがある」と話し、見せ方で劇的に売れ行きが変化することを明かした。

 各店舗での売り場づくりを効率的に進めるため、社を挙げた仕組みが出来上がっている。商品の魅力を分かりやすい文字やイラストで伝えるPOPは、本社で一括して作成し、各店舗へ配る。売り場づくりに使う素材は本社で作成して効率化する一方、それをどう売り場へ生かすのかは各店舗で違い、腕の見せどころだ。

本社の販促部で作成する素材などを活用し商品をPRする店内=那覇市のビッグワン那覇店

 いったん売り場を完成させても、そこで終わりではない。むしろ、そこからが勝負。どう改善できるかも真剣に見極めていく。営業開始後、利用客は店内のどこを歩いて、何を見て、何を手に取るのか。利用客の反応を見つめる。その上で、売り場を改善するためのアイデアを思いつき「こんな素材がほしい」と、現場から本社へ逆に発注することもある。

せっかく完成しても崩して・・・

 売り上げにつながる商品の見せ方は、店舗周辺の地域性、利用客の特徴によっても違ってくる。例えば、小中高校が近い店舗は、学校行事に合わせた商品を並べていくことを意識する。ペットフードがよく売れる店舗は、ペット用品を充実させていく。

 せっかく苦労して作った売り場でも成果が出ないという場合は、躊躇(ちゅうちょ)なく、いったん崩して作り直す。

いつも新たな試みを模索し売り場づくりを進める新垣和幸さん=那覇市鏡原町のビッグワンアクロスプラザ小禄店(大城直也撮影)

 陳列の手法は、これまでに蓄積してきたパターンがいくつかあるが、型通りを前提にしない新垣さん。「(すでにやり方がある)テンプレで作ってしまうこともあるが、できるだけ新しいやり方を探す。常に何か(試みを)を加えていきたい」と模索している。県外から大手の競合店も入ってくる中、地元客の需要を最も近くで捉え、それを反映した見せ方の工夫が競争が激化するディスカウント業界での生き残りにもつながっている。(古堅一樹)