沖縄出身の3人組バンド「HOME」が、2023年8月の「Lucy」発売以降、台湾や韓国やシンガポールのフェスに出演するなど国内外から注目を集めている。5月15日にはシングル「Plastic Romance(プラスティック・ロマンス)」を配信する。クラブミュージックとロックを掛け合わせた楽曲は、近年のインディポップを継承しつつ、80年代のUKロックや歌謡曲の雰囲気もまとう。結成3年、21歳の3人が作り出す唯一無二の音楽性はどこからくるのか。かつてのミュージシャンが“上京物語”を歩んできた中、「東京以外」を目指す理由とは。
(聞き手・田吹遥子)
【HOMEのメンバー】
Vo:seigetsu(セイゲツ)
PC:o-png(オーピン)
Guiter: shun(シュン)
■UKロックにヒップホップ、レベッカ…解釈のズレが生んだサウンド
―結成はいつ。
o-png:2020年に結成した。全員高校3年生でした。
―ボーカルとギター、PC(DJやデザインなど編集まわりを担当)の3人という今の構成は当初から。
shun:ベースがいたり、でもすぐ抜けてその1年後に今度は鍵盤が入ったりしたけど、すぐ抜けて結局3人で。なんとなく3人が収まりいいようになりました。元々は、もうちょいメロウなバンドのつもりで始めたというか、最初オーピンの構想の段階ではそういう方向にいくはずだったけど。
o-png:もう少し家で聞けるような感じになるかなと思っていた。
shun:メンバーそれぞれ好きな音楽が散らかっていて、実験しつつ徐々にダンスミュージックの感じだったり、オルタナロックとかパンクという要素を持ち込んでいったり。その中でseigetsuはどんどん歌が上手くなっていく。
―それぞれ影響された音楽は。
shun:80年代のイギリスのバンドです。ザ・スミス、キュア、ストーンローゼス、あの辺にめちゃくちゃ影響受けました。陰鬱(いんうつ)なバンドではあるんですけど、(HOMEでは)打ち込みがベースにある中で、僕が持っている手札はロックなのでその中で折衷点を見いだすには、ニューウェーブやポストパンクが一番合うと思ったのでめちゃくちゃ参考にしましたね。
o-png:俺はグリッチヒップホップとか好きで、フライング・ロータスとか、Laurel Haloが好きで、結構そういうグリッチの音作りとか空間っぽいところを担当していますね。メインの音作りというよりは音楽を取り巻く編集というところをそういうアーティストからアイデアをもらっている感じです。
seigetsu:R&Bとかソウルとか。日本の歌謡も好きで。そのミックスな感じがします。レベッカも好きで。
―みなさんそれぞれ好きなジャンルが違っていて提案したらこうなった。
o-png:でも認識が3人ともちょっと近いかも。ノイズとその中のきれいなものの美学というか。
shun:今音楽の三要素って、長らくリズムとメロディと和声と言われてきたけど、今の音楽って音色がすごく重要になって、四要素になりつつあると思っていて。特にオーピンからその意識を強く感じます。
―影響されたアーティストが幅広い。
shun:どう受け取れるかもそれぞれ違うからそこがまた楽しい。解釈のずれがこのバンドの層を一層厚くしていくような感じがします。チャンプルーな感じ。
―ロックとクラブミュージックは別ものというイメージがあったが、HOMEの音楽にはそこがシームレスになっている。カギになるのは音色なのか。
shun:「HOME EP」聞いてもらったら分かりやすいですけど、どういう曲をやるにしても固有のリバーブ感みたいなのはあるような気がしています。
o-png:ボーカルエフェクトが(バンドとクラブミュージックを)結構つないでいる感じはあります。エフェクトで中和されているというか、どっちにも寄りすぎていない感じでできるかもしれないですね。
―seigetsuさんのボーカルは空気をつくる。とても印象的。
seigetsu:歌を歌うのは小さいときから好きでした。
shun:元々うまかったけど、バンドの人の歌い方になっている。
seigetsu:マイクを通したことがなくて、でも慣れてきました。
■台風の日にバズった「Lucy」 デモはスマホで作成
―「Lucy」が配信された日は台風で、家で聴いて衝撃だった。SNSで同じように衝撃を受けている人がたくさんいた。どうやってあのような楽曲を生み出したのか。
shun:「ガレージバンド」というアプリでデモをスマホで作ったんですよ。ドラム、シンセベース、シンセで作って。ギターは最後。コードだけギターで作って、それを全部シンセに打ち直して。ギターで空間(音の間)を埋めるようなことは極力やらないようにしています。単純にギターを録音する術をもってないから。それがかえって面白い。「常時」とかもそういう作り方。「lululu」はオーピンがデモをパソコンで作って持ってきて。「あいのうた」はseiの弾き語りから。最近はみんなで集まって何もないところからセッションして作ることもあります。
■「新ジャンルを作りたい」現在地と目指すところ
―東京や大阪でもライブをする一方、海外でも活動している。昨年は台湾、韓国、シンガポールに出演した。かつてはミュージシャンで売れるなら上京して活動するというバンドが多かった。HOMEはどこに視点をおいて活動をしているのか。
shun:東京以外っすね(笑)。東京という一つの場所に文化が過剰に集中している状況はあまり健全じゃないと思っている。沖縄も素晴らしい音楽ある。十分豊かなものがある。われわれなりにその幹を太くして行けたらうれしいなと思っていて。だから東京だけを目指すというのも今の時代は結構やぼだと思う。台湾とか東京よりも沖縄から行った方が早いし。沖縄から世界へみたいな。
o-png:世界中の人がバンドを知って、(HOMEの地元の)沖縄ってここなんだって認知してくれたらうれしい。
shun:ベタだけど、沖縄が琉球王国時代に貿易のハブだったように、そのネットワークが一つ複雑になった形を作れたらいいなって。
―沖縄で生まれ育ったことが音楽に影響していることはあるか。また、沖縄の特徴は。
shun:中学生くらいから沖縄のライブハウスに通いまくっていたんですよ。その中でローカルのライブを見て、かっこいい先輩たちいるなーって。先輩たちのライブに(影響を)食らって、それで今僕のライブのスタイルってすごいパンク的なものを嗜好(しこう)している。そこは沖縄にいたからこそだと思う。
o-png:沖縄はジャンルにとらわれない、バラバラなファッションでも許してくれるゆるさがある。東京は渋谷系とか街によって格好が違っていて、似たような音楽が集まる。沖縄では全然違うジャンルの人が集まっているけどリスペクトしている。受け入れる幅が広いと感じます。
―今後の目標は。
o-png:ジャンルを作りたい。新しい音楽のジャンル。クルーザーミュージックって名付けようかなと思う。海に浮かんでふわふわした浮遊感もありながら、スピード出せる音楽みたいな。
―5月15日にニューシングル「PLASTIC ROMANCE(プラスティック・ロマンス)」を配信する。これまでの楽曲とも異なるシンセポップになった。
shun:コミカルなシンセリフとオートチューンの掛かったボーカルを洗練されたポップスに落とし込んだ。踊れる楽曲に仕上がったのでクネクネしながら聴いてほしい。