琉球民族独立総合研究学会(ACSILs)共同代表の親川志奈子さんらはこの1年余り、国連をはじめさまざまな国際会議に参加したり、ニュージーランドの先住民族マオリの若者たちの沖縄訪問をサポートしたりして各地の先住民族と交流を深めてきた。7月18、19日にはスイス・ジュネーブで国連の人権理事会の会合にも初めて参加した。この1年間の国際社会での活動を通して、親川さんは「世界の先住民族とつながることで琉球の私たちは自己決定権を取り戻すことができる」と手応えを語った。
◆「オスプレイが落ちた」重なる境遇
2023年、親川さんは3月にタイ、6月にマレーシアの国際会議に参加したほか、7月はジュネーブでの国連の先住民族の権利に関する専門家機構(EMRIP)に出席。7月下旬には、オーストラリアのNGO主催のシンポジウムに参加し、ダーウィンなど4都市で講演し現地視察した。
沖縄に戻った8月下旬、オーストラリア北部ダーウィン沖にあるメルビル島で米海兵隊の輸送機MV22オスプレイが墜落して3人が死亡する事故が起きた。米軍普天間飛行場にも配備されているオスプレイ。事故は沖縄でも大きく報じられた。
ダーウィンで知り合った友人からすぐに連絡があった。「オスプレイが墜落したメルビルは、ダーウィンのすぐ北にある2つの島のうちのひとつ。オスプレイは中学校のある地域に墜落したんだ」と教えてくれた。
米軍機の墜落事故が起こり続ける沖縄の状況とあまりに重なった。
◆マオリの若い世代と語り合う
今年2月と4月には、ニュージーランドの先住民族マオリの若手グループが沖縄を訪れた。一行は、ニュージーランド政府の奨学金で来日。アイヌの人々と交流した後、沖縄では、マオリの経験した歴史や今の課題、言語や教育、ビジネスなど、幅広いテーマで語り合った。見据えるのは先住民族の未来だ。
糸満市の「平和の礎」を訪れたマオリの若者が植民地主義について触れ、「なぜ沖縄が戦場になり、その後も軍事利用され続けているのか、その不条理を痛ましく思う」と語る姿が印象的だったという。
親川さんは、初めて沖縄を訪れたマオリの若者たちが戦争自体の恐ろしさだけでなく、「他者の土地を侵略し戦場にし、軍事基地を置いて利用し続けている植民地主義の恐ろしさ」にすぐに気づき、語ってくれた姿に心を動かされたという。
◆若い世代へのバトン 「ワッターは強い」
6月には、ニュージーランドでの先住民族のシンポジウムに招かれ、親川さんと、米ハワイへの留学経験のある赤嶺理玖さんが参加した。ワークショップでは、マオリのアイデンティティーやカルチャーを軸にしてビジネスを起こした起業家の話、マオリ語の第二言語として学んだ世代が直面する難しさを乗り越え、言語復興に取り組む話などを聞いた。
土地を奪われ、言葉を禁じられ、同じような歴史をたどった沖縄とマオリの交流。赤嶺さんは「沖縄では『自分たちはこれが奪われた』『これが足りない』『これができていない』というような、嘆きの歴史の話をする風潮があるが、マオリの先住民は問題を抱えていること自体を前向きに捉え、この島で生きる若い世代がどうチャレンジするかを語っている。その姿勢から多くを学ぶことができた」と語る。
「悲しい歴史を語り継ぐことも大事ではあるが、自分たちのルーツの美しさ、強さや、強みになるところなど、ポジティブなエネルギーを持って権力に対して戦うことを、マオリのようにつながっている島の姉妹兄弟と考え、行動をとっていきたい」と語る赤嶺さん。
ポジティブな強さの例として、戦後の沖縄の復興を支え、「沖縄のチャップリン」の愛称で親しまれた演劇人、小那覇舞天さんを挙げる。「ワッターは負けてない、ワッターは強い、ワッターはできる、ということを若い世代と考えて動いていきたい」
◆最も影響を受けるのは先住民族
先住民族の権利が侵害され、奪われる歴史が今も世界各地で続いている。政策決定のプロセスから先住民族が除外され、政府や企業が土地の開発などを続けてきた結果、軍事主義や気候変動で最も影響を受けるのが先住民族であることは、国連も認識している。
今年7月の人権理事会の会合は、国連への先住民族の参加を強化する具体策を議論するために開かれた。数十カ国の政府関係者と、北米、南米、北極圏、太平洋、アフリカ、アジアの全7地域から先住民族の代表らが参加した。
親川さんは今回、国連の基金(ボランタリーファンド)に採択され、渡航費や滞在費、食費などが助成された。今回この助成に選ばれたのは14人、アジアからの参加は親川さん含め2人だった。「世界の先住民族の多くをアジアが占めるが、国連や意思決定の場にアジアの先住民族の参加がまだ難しい現状にあることをあらためて確認した」という。
2日間の会合では、先住民族が自らの権利に影響を及ぼす事柄についての意思決定に、自ら選んだ代表を通じて参加し、意思決定に関われるかなどについて各参加者が声明を発表した。親川さんは「今回は、沖縄が直面する問題について具体的な解決策を求め、声を上げる、というものではなかったが、沖縄、アジアの文脈で必要な視点を盛り込み、声明を作成した」と語る。
◆「知らされない」現実
スイスへの出発前、沖縄で米兵による性的暴行事件が相次いで発覚した。いずれも日本政府は沖縄県や市町村に情報を伝達しておらず、ウチナーンチュの安心安全な暮らしや人権が脅かされる犯罪がウチナーンチュ自身に知らされない現実を露呈した。
「政府は『被害者のプライバシーを守るために情報提供しなかった』というが、隠蔽(いんぺい)でしかない。被害に遭うのは私たちなのに知らせたら面倒だからと日米両政府は知らせないようにした」と親川さんは指摘する。
ジュネーブでの会合では、政府と先住民族が初めて対等に議論の場について意見を交わした歴史的なものだった。
世界で最も不利な立場に立たされているとされる先住民族の権利をどのように守っていくか。国連の場でも各国が知恵を出し合い、活発な議論がスタートしている。「日米両政府の抑圧を受け、自己決定権を奪われ続けている琉球の私たちの問題解決の糸口がここにある」と親川さんは考えている。「この会合に琉球から参加できたことは意義深いと感じている」と振り返る。
◆世界のウチナーンチュの「ホーム」として
アメリカなどにいるACSILsの若いメンバーによる国際会議への参加も相次いでいる。
4月に米ニューヨークの国連本部で開かれた「第23回先住民族問題に関する常設フォーラム」には、3回目の参加となる親川さんのほか、赤嶺理玖さん、米国カリフォルニア大学サンタクルーズ校の大学院生アレクシス大城(うふぐしく)マクラレンさん、マリコ・ミドルトンさん、ブラジルからビクトール金城さんも参加した。「琉球のレジリエンスと復興」と題したサイドイベントも開催した。
7月のEMRIPの会合には、大城さん、オレゴン州立大学院生の酒井莉沙子さんが参加。軍事基地から派生する女性への暴力と、名護市辺野古の新基地建設に反対する声明などを読み上げた。
親川さんらは今後、活動を広げ、世界の先住民族とつながり合うと同時に、世界のウチナーンチュと連携しながら「ホーム」である琉球の若い世代と共に学び合う機会をつくりたいと考えている。「琉球の私たちが直面している問題と向き合い、解決のためのアクションを起こしていきたい」と前を見詰めている。