旧正月を彩るアジアの伝統料理 中華圏の「春節」、ベトナムの「テト」…縁起の良いごちそうの数々を味わう 沖縄


旧正月を彩るアジアの伝統料理 中華圏の「春節」、ベトナムの「テト」…縁起の良いごちそうの数々を味わう 沖縄
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 今年は2月10日に旧暦のお正月を迎えた。沖縄では地域によって今も旧正月の習慣が残っているが、中華圏の「春節」など、アジアの多くの国では旧暦の正月を盛大に祝い、年末年始の大型連休をとるのが一般的だ。新しい年の始まりを迎える特別な日に、アジアの国々ではどのような料理を食べるのだろうか。旧正月を祝う「定番料理」を味わいに、沖縄県内に住むベトナムや台湾出身者の集まりを訪ねた。

(呉俐君、岩崎みどり)

 四角いチマキ「バインチュン」で祖先に感謝―ベトナム

 県内在住のベトナムの子どもたちにボランティアで日本語や勉強を教える「親子日本語サークル」は2月4日、那覇市の若狭公民館でベトナムのテト(正月)に欠かせない「バインチュン(ベトナム風チマキ)」を作るイベントを行った。

 バインチュンは、新年を祝い、祖先への感謝を示して各家庭で作られる伝統料理。就労や留学で県内で暮らすベトナム人や地域住民ら約50人が参加して、バインチュンをはじめフォー(ベトナムの麺)やソイ(おこわ)などを味わった。

ベトナムの正月に欠かせないバインチュンを作る参加者たち=4日、那覇市の若狭公民館

 チマキというと、ササでくるんだ三角形のおこわを連想するが、バインチュンは少し違う。まず形が四角形。数人で切り分けてシェアするほどの大きさだ。使う葉もササではなく、熱帯地域に生息する植物ラーゾンの葉で、バナナの葉に似ている。

 作り方は、四角い木枠の内側にラーゾンの葉を重ねて敷く。葉の上に、もち米、ペースト状にした緑豆、豚肉を重ねる。さらに、緑豆、もち米の順に詰めて、葉で折り畳む。ひもで強く結んだら完成だ。大きさや個数によって、4時間~半日程度ゆでて仕上げる。

すでにゆでられたバインチュン(右)とゆでられていないバインチュン。ゆでるのに4時間~半日かかる

 イベントではゆでる時間がないので、前日にメンバーが調理してくれたものを食べた。さっぱりとした味付け。弾力あるもち米に緑豆の優しい甘さ、豚肉の脂がおいしい。ベトナム語指導者の那須泉さんは「緑豆は作物、豚肉は家畜を表し、ことし1年豊かであることを願う」と教えてくれた。

 ベトナム人の参加者によると、テトには親戚が集まり、にぎやかに過ごす。バインチュンは親戚回りの時の贈り物だ。数日食べ続けることもあり、飽きてきたら加熱して味を変えて食べるという。

 ゆでられ、ラーゾンの葉から取り出された、バインチュンの中身。もち米が葉の色にほんのり染まっている

 この日会ったばかりの人ともバインチュンを分け合って食べながら話していると、自然と親しみがわいてくるから不思議だった。

 イベントでは、もち米は沖縄食糧、ベトナム食材は那覇市のベトナム食材店「ベト那覇ショップ」が寄贈。サークルは参加費を無料とし、代わりに能登半島地震への寄付を呼び掛けた。

 サークル代表で、県内大学でベトナム語を指導するグェン ド アン ニェンさんは「募金を通して石川県を応援する気持ちを届けたかった。ベトナムの子どもたちに沖縄での生活を楽しんでもらい、沖縄の人にベトナムに興味を持ってもらいたい」と話した。

バインチュン作りのイベントに参加した人たち

 皆で囲む「火鍋」で体も心もホカホカに―台湾

 中華圏では「春節」として旧暦の正月を大事にしている。異国の沖縄にいても「正月」を祝いたいと、那覇市内の台湾食品専門店「台湾宝島物産」で2月8日、「小年夜囲炉晩餐(シャイオ・ネイエン・イエー・ウェイ・ルー・ワン・ツァン、日本語で「小晦日の夕ご飯」の意味)」が開催された。

 約40平方メートルの店舗に台湾出身者ら約30人が集まり、台湾の正月に欠かせない定番料理である「火鍋(フゥオー・クゥオー)」などのごちそうを囲んでにぎやかな夜を過ごした。

台湾の旧正月の定番料理「火鍋」(後列左端)に入れる野菜や豆腐など

 「火鍋」は字のごとく、火にかけた鍋でスープと一緒に肉や野菜の具材を煮込んで味わう料理。晩餐会では、食卓の主役となる「火鍋」を囲む形でたくさんの具材が並べられた。同時に2種類のスープを楽しもうと、鍋を2つに仕切る二色鍋「鴛鴦(オシドリ)火鍋」を用意。辛みがきいた四川風スープと、さっぱりした味わいの野菜スープのそれぞれに春菊や大根、キノコ、豚肉、豆腐などの具材が次々と入れられ、寒い夜でも体がぽかぽかとなった。

2種類のスープを同時に楽しめる「鴛鴦鍋」

 火鍋のほか、もち米を使った甘い餅のような「年糕(ニェン・ガオ)」も振る舞われた。中国語で「糕」は「高」と同じ発音をするので、「年糕」を食べると「年々、高くなっていく」、つまり収入や身分が上がっていくという縁起のいい料理として、旧正月でよく食べられるようになった。

「年糕」を調理する周秀玲さん=8日、那覇市内

 イベントに駆け付けた馬夢玲さんは「台湾の実家では正月になると20人ほどが集まっていた。今でもにぎやかに年越ししたいので、きょうは早く仕事を終わらせてきた」と笑顔で語った。

 台湾宝島物産のオーナー、周秀玲(ヂォゥ・ショー・リン)さんは「海外にいても正月をお祝いしたい。この機会を通して台湾出身者の子どもたちに台湾の文化を伝承していきたい」と願った。

 生まれ育った土地を離れても、食を通して故郷とのつながりを思い起こす。冬の季節に親しい人々で囲む正月料理は、体はもちろん心まで温めてくれるようだ。

「小年夜囲炉晩餐」を参加する沖縄在住する台湾出身者ら=8日、那覇市内

 23日に「旧正月祭り」、伝統音楽と食が一堂に―中国

 国土が広大な中国大陸では地域によって春節の定番料理も違うが、餃子やチマキが食卓に上るのが一般的だという。沖縄に暮らす中国出身者でつくる日本沖縄華僑華人総会(東江芝軍会長)は2月23日に「旧正月祭り2024(春節祭)」を那覇市の福州園で開催し、春節を祝う伝統的な音楽や食を紹介する。

「福州園旧正月祭り」をPRする東江芝軍会長(提供)

 イベントは那覇市の友好都市である中国・福州市との交流の一環として催される。福建師範大学音楽学院(福州市)による公演では、中国の民族楽器の琵琶や二胡などを使った歌と舞踊を披露する。会場では餃子や肉まん、チマキなどの販売も予定している。

 東江会長は「中国の文化や中国語に興味がある方にぜひ来てもらいたい」と呼びかけた。

 「旧正月祭り2024」は午前10時〜午後5時。音楽イベントは午前11時〜正午、午後3時〜午後4時の2回公演。入場料は200円。