魚なのに水中に入らない
埋立地や港には、よくテトラポッドの積まれた護岸があります。自然の岩場と比べて、あまり生きものの姿が見られません。コンクリートでできたテトラポッドの表面はつるっとして、強い波が当たると、多くの生きものは洗い流されてしまいます。でも、なぜかこんな場所にピンポイントで住むのが、今回の魚、ヨダレカケです。
黒っぽい体に白い点々模様、中には縞模様が目立つこともあります。魚なのに水中が嫌い。かといって陸上生活でもなく、波しぶきがかかる濡れた岩の上にいます。皮膚呼吸をするので、乾いた場所には住めません。時折くるっと寝返りを打つような仕草をするのは、皮膚が乾かないよう、常に体を濡らしているんです。
この魚、岩にひっついて口をもぐもぐさせています。食べ物は、岩やテトラポッドの上に生える苔のような藻類。こんなところに来る生きものは他にほとんどいないので、ヨダレカケには食べ放題…。なおこの名前は、あごの下にあるラインがまるで赤ちゃんのよだれ掛けみたいだから。下唇が吸盤状で、岩にくっつくと言われています。斜めの岩場に顔を下にしていることが多いです。大きい波が来ると瞬間的に逃げるので、ちゃんと波を見ているのかな?
干潮の時は、岩場の奥に隠れているのか、全然姿が見えません。毎日、潮が満ちてきたら岩に乗り、くるっと体を回してもぐもぐ。波が来たらさっと逃げる。わりと忙しそうな、でも暇でもあるような、何とも愛嬌のある魚です。
Vol. 70 ヨダレカケ
Andamia tetradactylus
● 目:スズキ目 Perciformes
● 科:イソギンポ科 Blenniidae
● 属:ヨダレカケ属 Andamia
動画撮影:
ヨダレカケ 2023年10月25日、29日(嘉手納町 水釜)、26日(浦添市 港川)
タマカエルウオ 2023年10月25日(嘉手納町 水釜)
しかたに・のりかず 琉球大卒、東大大学院修了、博士(農学)。広島に生まれ、海に憧れて1981年に沖縄へ。専門はカニなどの甲殻類。生き物の形とはたらきの関係に興味がある。最近は、沖縄の貝殻を削って磨くシェルクラフトを行っている。
しかたに・まゆ 東洋大、琉球大卒、福井県立大大学院修了、東大大学院中退。東京に生まれ、20代半ばでサンゴ礁に興味を持ち、1993年に沖縄へ。2003年より、しかたに自然案内として県内で海の環境教育を始める。しかたに自然案内代表。沖縄の海辺を考える「里浜22」や、温暖化対策に取り組む「ゼロエミッションラボ沖縄」でも活動中。