那覇市議会前議長の久高友弘被告(75)や大物総会屋として名をはせた男(80)らが逮捕、起訴された贈収賄事件は、那覇市おもろまちやその周辺にある土地が舞台となり引き起こされた。戦後の混乱期に市に所有権が移行してしまったとする90代女性の訴えの下に集った被告ら。所有権“奪還”後の巨額の土地取引に向けて膨らむ期待で成り立った共闘態勢は、計画がもくろみ通りに進まなかったことから瓦解(がかい)し、県警の強制捜査を招く格好となった。
■商機見いだし
収賄罪で起訴された女(71)の被後見人の90代女性は、近年めざましい発展を続ける那覇市新都心地区周辺の1万数千平方メートルに上る市上下水道局関連用地の所有権を主張する。
ただ、その一部の土地については、すでに最高裁が女性の訴えを退ける判決を下している。「所有権が認められれば大手企業も触手を伸ばす一等地。手に入れば巨万の富を生むが、市が容易に認めるとは考えにくい」(関係者)。この土地を巡っては、現状は市有地であるにもかかわらず、ここ十数年の間だけでも土地取引の話が何度も湧いては消えた。そんな中、被告らは商機を見いだした。
今年1月に久高被告らに拠出した5千万円の返還を求めるため、元物総会屋の男=贈賄罪で起訴=が那覇簡裁に提出した調停申立書。2020年12月の話として、不動産コンサルタント会社元代表の男(73)=同罪で起訴=から「(女性への所有権移転後に)私と(元総会屋の男の)2人の名義で取得し、その物件を第三者に転売するというスキーム(計画)での事業」などと、久高被告らへの資金提供を持ち掛けられたとの記載がある。
関係者によると、所有権移転達成後には、資金提供の見返りに不動産コンサルタント会社元代表の男らから元総会屋の男らに少なくとも20億円の供与が約束されていたという。
調停申立書には、提供された資金が、この土地に関する市議会への百条委員会設置に向けた議会工作に使われることを、贈収賄の双方が了承していたことをうかがわせる会話記録もつづられている。
■あやつり人形
資金提供を通じて一時は蜜月関係にあった久高被告側と元総会屋の男側。だが、90代女性の後見人の被告が「久高氏は(元総会屋の男の)あやつり人形になっていた」との印象を受けるほど、元総会屋の男の発言力が増大。期待された政治上の進ちょくが見えなかったことも重なり、メンバー間の関係は急速に悪化していったという。
関係者によると、それに拍車を掛けたのが、元総会屋の男らよりも多くの出資を約束する「金主」の登場だ。久高被告らは、元総会屋の男や不動産コンサルタント会社元代表の男らに話を伏せたまま、新たな「金主」に乗り換えて元物総会屋の男側との関係性を断とうとする動きを見せた。結局、新たな資金提供の話は立ち消えたものの、乗り換えの動きが両者の決裂を決定的にしたという。
最終的には資金の一部使い込みを責められた不動産コンサルタント会社元代表の被告が、久高被告らとの現金授受を世間に公開する方向に動く。議長室での現金授受疑惑が報道されたのは今年3月初旬のことだった。
この土地について久高氏とは距離を置いて長年にわたり調査をしてきた男性は「女性は戦後の混乱期に、行政によって不当に土地を奪われたと訴えている。実際に行政処理に瑕疵(かし)があったのかが本来は焦点になるべきだが、今回の一件でいわく付きの土地と見られている」とため息をつく。
その一方でこう強調した。「沖縄の戦後処理の話だ。このままうやむやにしてほしくない」
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