タツノオトシゴよりもタツっぽい ~イシヨウジ~ <沖縄・海の生き物たち Vol. 72>


タツノオトシゴよりもタツっぽい ~イシヨウジ~ <沖縄・海の生き物たち Vol. 72>
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頭を持ち上げて、ゆらっと泳ぎ出す

2024年は辰年。海の生きものでタツといえば、もちろんタツノオトシゴですが、今回取り上げるのはこれに近い仲間、ヨウジウオです。

タツノオトシゴは体を縦に起こして泳ぐ、魚の中では変わり者。尻尾の先には尾びれがなく、海藻などにつかまりやすい形に変化しています。メスが卵をオスに託して、オスのお腹の育児のうという袋で赤ちゃんが育つのはよく知られていますね。

それに対してヨウジウオは、つま楊枝のように細長い魚です。大きな丸い目に突き出した口はタツノオトシゴと似ていますが、体を立ててはいません。尻尾の先には丸い扇型の尾びれがちゃんとついています。実はヨウジウオとタツノオトシゴは同じ「ヨウジウオ科」の仲間で、ヨウジウオは、いわばタツノオトシゴになる一歩手前の魚、と言えそうです。

そして、卵をオスが預かる、というところはタツノオトシゴと一緒。でも、細長い体でどうやって卵を抱えるのでしょう。実は、この卵が付着性で、ちゃんとお腹にくっつくんです。例えばサンゴ礁の浅瀬では、ヨウジウオの一種イシヨウジがペアで泳いでいるところをよく見かけます。そのとき、スレンダーな方がメスで、お腹が少し幅広いのがオス。オスのお腹はタツノオトシゴのように完全な袋にはなっておらず、メスからもらった卵をお腹の下にくっつけて、左右からはさむように抱卵しています。ヨウジウオの種類によっては、単にお腹に卵をむき出しでくっつける種類や、お腹の左右の皮で包み込むように抱える種類もあります。

イシヨウジが少し頭を持ち上げて、ゆらっと泳ぎ出す様子を見ていると、タツノオトシゴよりも、むしろ龍っぽいかも? 小さな赤ちゃん龍ってこんな感じかな、と思わせてくれる縁起物の魚です。


Vol. 72 イシヨウジ

 Corythoichthys haematopterus

● 目:ヨウジウオ目 Syngnathiformes

科:ヨウジウオ科 Syngnathidae

● 属:イシヨウジ属 Corythoichthys


写真撮影: 

イシヨウジ  2012年6月6日、2014年9月9日(浦添市 カーミージー)

撮影・執筆
鹿谷麻夕(しかたに自然案内)

しかたに・まゆ 東洋大、琉球大卒、福井県立大大学院修了、東大大学院中退。東京に生まれ、20代半ばでサンゴ礁に興味を持ち、1993年に沖縄へ。2003年より、しかたに自然案内として県内で海の環境教育を始める。しかたに自然案内代表。沖縄の海辺を考える「里浜22」や、温暖化対策に取り組む「ゼロエミッションラボ沖縄」でも活動中。