米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古への新基地建設について、政府は10日に同市大浦湾側での工事に着手した。
工事予定の12日から2日の前倒しに、県内では驚きや憤りが渦巻く。市民からは基地そのものへの反発に加え、大浦湾の生物多様性の豊かさから、自然環境への影響を懸念する声も。県民の不安を置き去りに軟弱地盤に対する納得できる回答を示さないまま、新基地建設を巡る動きは重大な局面に入った。
10日午前9時過ぎ、早朝から降り続いていた雨は収まったが、重たい雲が空を覆っていた。確たる情報はないものの、埋め立て開始への警戒感が高まる中、ヘリ基地反対協議会海上行動チームの船が出港した。
汀間漁港から約10分、大浦湾に到着すると、工事用に張られたオレンジと黄のフロートが豊かな海を分断していた。
ちょうど、フロートの間から、土砂運搬船5隻が列をなして工事海域へと入ってきた。「軍艦みたいだな」。その姿に市民の一人がつぶやく。監視活動をしてきたチームのメンバーによると、年始から土砂運搬船の数が一気に増えたという。
ただ、前日に実施された汚濁防止膜の設置など準備作業は見られない。悪天候の影響で市民らのカヌーでの抗議行動も中止となっていた。工事に向けた準備作業も中断したかに思えた。
異変があったのは取材を開始し、30分ほど経過した頃だった。タグボートに導かれるように大型の船が進入してきた。
船体側面には「第八十八ひなた号」の文字。重機2台を登載し、他の土砂運搬船とは違う形状だ。船の名前を確認した市民は「(本部町の)塩川で昨日、石を積んでいた船だ」と視線を向けた。船内が一気に張り詰めた。
海域を旋回し、アンカーで船の位置を固定した、ひなた号。船に登載された物体が石材であることは、明らかだった。
「海を殺すな」と叫ぶ市民の声と、ひなた号との間に割って入った海上警備艇が海域から離れるように警告する声が交錯する。警備艇の背後では、ひなた号の上で慌ただしく作業員が船内を動く。同じくタグボートが引っ張ってきた汚濁防止枠が、ひなた号の右舷につけられた。
午後0時15分過ぎ、風が強まってきた海で重機がゆっくりと動き出した。首を振り、石材を持ち上げると、次々と枠の中へと投下していった。
県民が大きな関心を寄せ、反対意見も強い中、作業はちゅうちょなく始まった。作業は3時間以上、淡々と続いた。漁港へと戻る船の上、波しぶきと風は、ひどく冷たく感じた。
(池田哲平)