辺野古新基地建設の土砂搬出に使われている名護市の安和桟橋で起きた死傷事故から2カ月が過ぎた9月4日。県警の機動隊員の言動によって精神的苦痛を受けたとして、名護市の西浦昭英さんが県に慰謝料を求めている訴訟で、現場責任者だった警察官が那覇地裁に出廷した。
この警察官は2020年、拡声器で抗議活動中の市民の名前を呼び捨てにして注意する行為を重ね、問題になった。
証人尋問に臨んだ警察官は、市民の抗議活動について「危険」と繰り返し、傍聴席から「ウソをつくな」と怒声が飛ぶ場面もあった。
ただ、この警察官は「県警も(車両出入り口の)片道横断は許している」と述べた。証人尋問後、安和で「片道牛歩」の抗議手法を定着させた女性は振り返る。「呼び捨てなどの問題はあったが、話が通じない人ではなかった」
民意を無視した新基地建設への抗議を「牛歩」という非暴力の手法で表現する市民の権利と、現場の安全をいかに両立するか。警察官や警備員、ダンプカーの運転手らは、市民と水面下で話し合い「暗黙のルール」を作ってきた。
しかし、沖縄防衛局はそのルールを認めない。「工事を急ぐ防衛局の意向が伝わるたびに、現場が荒れて安全が揺らぐ」(ダンプカーの運転手)。死傷事故後はさらに強硬になった。
9月26日には、防衛局職員が直接、抗議活動の70代女性を止めようとして、女性と防衛局職員が転倒する事故が起きた。
その際、防衛局職員が近くにいた70代男性を差して「胸部を両手で押された」と申告したため、県警が逮捕した。
現場で2人の転倒を目撃していた名護市の中村吉且さん(72)は「(逮捕された男性は)つえをついて歩いているし、両手で押し倒せるような状況ではなかった」と指摘。「防衛局は『抗議活動をしている人は怖い人たち』という印象を広めようとしているのかもしれないが、防衛局の言うがままに逮捕するなんて、軍事独裁国家か」と疑問視する。
目立つのは「安全」を名目にした市民の抗議活動への嫌がらせだ。
中村さんによると、安和の死傷事故後、辺野古のゲート前でも県警の機動隊員が、日陰で休んでいる高齢の市民を「危ないから」と言って、炎天下へ移動させるようになった。「ダンプカーが通る部分ではなく、これまでも危険はなかった」と指摘しても対応を変えないという。
そもそも3月に変わった辺野古の搬入口は、抗議活動の拠点のテントから約800メートル離れた場所に設置された。前の搬入口は国道の直線部分にあったが、今は見通しの悪いカーブにダンプカーが列を作る状況になっている。
中村さんは話す。「県警のメンバーも『ここは危ない』と漏らしていた。結局、安全より市民の抗議つぶしを優先している」
これまで工事を支えてきた警備員や運転手などからも防衛局の問題を指摘する声が出ているが、防衛局は「事故につながるような指示等は一切していない」と主張している。
ただ、事故の背景や要因を検証するため、沖縄平和市民連絡会の北上田毅さんが8月に行った警備業務の契約書や仕様書の開示請求に対し、防衛局は9月12日、特例を使って12月27日まで開示決定を延長すると伝えた。過去の同様の文書は2カ月以内に開示されており、情報隠しも強まっている。
(南彰)