「工期を9年3カ月と示してきたが、本日の工事着手がこの起点に当たるものだ」
10日午前、工事着手を発表した林芳正官房長官は会見で、工期の「9年3カ月」を強調。「普天間飛行場の1日も早い全面返還を実現し、基地負担軽減のため全力で取り組む」と意気揚々と語った。
だが事業の目的は新基地建設自体ではなく宜野湾市にある米軍普天間飛行場の返還だ。
埋め立て工事や飛行場施設の建設、提供手続きが完了し、返還できる環境が整うまでに12年かかるというのが政府の正式な見解だ。
しかし、この計画は着手早々、暗雲が垂れ込めている。
沖縄防衛局によると大浦湾側を含む辺野古新基地建設計画全体で必要となる土砂総量は2017万6千立方メートルが見込まれており、2023年11月末時点での投入量は全体の15・76%にとどまる。埋め立て着手から5年かけ、比較的浅瀬の辺野古側で埋め立てはほぼ終えた。一方、辺野古側で投入した土砂の5倍以上の量が大浦湾に投入されるが、その期間は8年ともくろむ。
だが、水面下90メートルまで達するとされる軟弱地盤の改良など、政府自身も認めるほどの「難工事」(19年9月、岩屋毅防衛相)で工期はさらに長期化する可能性がある。10日夕、記者団の取材に応じた玉城デニー知事は「(今後も)設計変更申請はたくさん出てくると思う」と語り、工事の先行きを困難視した。
一方、首相官邸で記者団の取材に応じた岸田文雄首相は「9年3カ月以内に工事を終えると県民に約束できるか」と問われたのに対し「(防衛省が作成した)工程に従って工事を進めるべく全力で取り組んで行きたい」と述べるにとどめ“約束”しなかった。
(知念征尚、明真南斗)
政府は10日、辺野古新基地建設に伴う大浦湾側の工事に着手した。12年後の移設を目指すとするが「マヨネーズ状」と評される軟弱地盤の改良は難工事も予想され、先行きは見通せない。着工の影響とその波紋を追う。