大浦湾北側で石材の投下が始まった10日午後0時15分ごろ。東京・市谷の防衛省にもその様子は間断なく伝えられた。着工の知らせを受け、防衛省の「普天間代替施設建設事業」に携わる担当者たちの執務室は安堵(あんど)と緊張が入り交じる空気が漂った。関係者によると、予定を前倒ししての着工が「成功」したことに拍手も起こった。
防衛省幹部の一人は「10日を起点として工期の9年3カ月が始まった。一歩前進したという気持ちと同時に、工期に沿って進めないといけないという緊張感がある」と胸を張った。
だが、軟弱地盤の改良工事に従事する作業船が最大で1日当たり100隻程度になる過密なスケジュールを組んだ上での工期だ。現実的にその船数を確保できるのか、停泊する海域のゆとりがあるのか疑念が残る。土砂の搬入も間に合うのかなど課題は多く、さらに工期は長期化する可能性がある。
見直しは予算面にも及ぶ。防衛省は軟弱地盤の発覚前の2014年、辺野古の総事業費を3500億円と説明していたが、地盤改良工事の追加で約2・7倍の9300億円と算定し直した。
さらに事業費の増大が予想される。大浦湾の着工前の22年度末で既に、半分に近い約4312億円を支出しており、防衛省が総事業費として掲げる9300億円に収まるのか不透明だ。県独自の試算では約2兆5500億円かかると見込む。政府関係者の一人も「再算定はこれからだが、軽く1兆円は超えるだろう」との見方だ。
当初は把握していなかった軟弱地盤の発覚と、それに伴う事業費や工期の膨張。
「通常の公共事業なら立ち止まってもおかしくない」(県関係者)にもかかわらず、政府は史上初の代執行をしてまで、工事を強行した。
政府関係者はこれまで費やしてきた予算や対米交渉のエネルギーを踏まえ「ここまで進めて、今から日米で(移設計画の)見直しを合意するのは厳しい」と語る。
こうした国の姿勢に先の県関係者は「大きすぎてつぶせない事業になっていないか」と疑問を口にした。
県政与党議員は「政府はさっさと着手して終わった問題としたいのだろうが、事業が続く10年以上、この問題のいびつさが(国民に)知られないまま時が過ぎるはずがない。誰が責任を取れるのか」とけん制した。
(知念征尚、明真南斗)