玉城デニー知事は平和宣言で「戦争につながる一切の行為を否定」し、沖縄が「世界の恒久平和に貢献する国際平和創造拠点となるよう、全身全霊で取り組む」と宣言した。例年よりも強い表現となった背景には、国の意思による「抑止力」強化によって、かえって緊張が高まっている現状への危機感がある。
知事は2年連続で、安保3文書改定による自衛隊の急激な増強に対して、沖縄戦の記憶と相まって県民が強い不安を抱いていることを指摘した。式典後、知事は記者団に対して、在沖米軍の整理・縮小が進まない一方で政府による自衛隊の「南西シフト」が急速に推し進められていくことへ「県民からすると、受忍限度を超えている」と表現した。
玉城知事は専守防衛の組織としての自衛隊を認めるが、県民の安全や生活を最優先する立場から配備拡張による住民生活への影響や、自衛隊が反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つようになれば抑止力の増強がかえって緊張を高めるのではないかという懸念を持っている。価値観の違いを受け入れるという沖縄の精神文化を基に、地域外交を通じた平和の確立を目指すのは、地上戦の惨禍を経験した沖縄にとっては高望みではなく、平和の実現に向けた現実的な方策と言える。
一方、岸田文雄首相はあいさつで、辺野古新基地建設や自衛隊の増強による新たな基地負担には触れなかった。何よりも毎年のことではあるが、沖縄を本土決戦の「捨て石」にした日本政府の責任と反省については一切言及がない。「新たな戦前」の恐れさえ指摘されている今、なぜ沖縄戦が起きたのかを政府がどう分析・認識し、反省しているかを発信することが「次の沖縄戦」を防ぐために重要なメッセージとなるはずだ。
住民を守るとはどういうことか。「戦後最も複雑で厳しい安全保障環境にある」(岸田首相)というのならなおさら、政府は沖縄戦の反省に真摯に向き合わなければならない。
(沖田有吾)