石破茂首相は所信表明演説で、就任前からの持論である日米地位協定の改定に言及しなかった。改定すべきと考えている内容も判然としない。米兵・米軍属の特権的地位の根拠になっている協定の改定は沖縄が長く求めてきた。改定に言及してきた石破首相に一定の期待も集まっているが、方向性が不透明なまま、さらに取り組みを棚上げするなら期待は落胆に変わる。
石破首相は、沖縄の基地負担の軽減に取り組む考えを示した一方「在日米軍の円滑な駐留」のためには「地元を含む国民」の理解と協力が不可欠と述べた。米軍の駐留について地元沖縄の理解だけでなく、幅広い国民の理解へと広げた。軍事力の効果的な展開が図られるのであれば、米軍の沖縄への負担集中について黙認する考え方まで含んでしまいかねない。石破首相が考える「円滑な駐留」と、沖縄側が求める負担軽減は一致するのだろうか。
辺野古推進を述べた「外交・安全保障」の項目で沖縄振興に触れたことからは基地と振興をリンクさせる姿勢もうかがわせる。
所信表明ではこれまでも「沖縄の心に寄り添い」(安倍晋三氏・菅義偉氏)、「丁寧な説明、対話による信頼を地元と築き」(岸田文雄氏)と、さまざまな言い回しで沖縄への姿勢を示してきた。しかし沖縄が抱える課題は解決していない。石破首相は「沖縄の皆さまの思いに向き合い」とした。地位協定の改定であれば、米軍に特権的な地位を認めた部分に切り込むなど、沖縄の声に向き合った政策を示すことができなければ、県民の信頼を得ることはできない。
(嘉数陽)