民具の本物の価値を伝える
月桃やトウヅルモドキの籠、焼き物、琉球ガラスなど、古くから暮らしの中で使われてきた民具。古川順子さんは、時代とともに消えてゆく暮らしの道具の魅力を知ってもらおうと民具の専門店「りゅう」を2014年にオープンした。沖縄を中心に世界の手仕事を紹介する他、琉装「ドゥジン(胴衣)」の展示販売や料理会などのイベントや本格的な体験ができるワークショップも展開している。
読谷村古堅の高台にある「りゅう」。オーナーの古川順子さんがセレクトした沖縄の民具や工芸品、雑貨などが店内に並ぶ。展示会やイベント、本格的なワークショップなど、多岐にわたる活動を通して手仕事の魅力や価値を伝えている。
りゅうが展開するワークショップはそのユニークさが支持されている。工程のほとんどを占める下準備から体験するため、「どれだけの時間と手間がかかっているのかが分かるんです」。これまで石獅子、トウヅルモドキや月桃の籠、アダン葉の草履や帽子、クバの葉の民具作りなどのワークショップを企画してきた。
ユニークなワークショップを行うのは、体験型観光施設で働いていた時に抱いた「モヤッとした」感情が原点だ。「短時間で最後の工程だけを体験した人たちの『簡単だよね』という声を聞いて。『違うじゃん』っていうのを知らしめたかったんです」
苦労も味わう体験
トウヅルモドキの籠のワークショップは、ツルをナタでただひたすら裂くという1日がかりの下準備から取り掛かる。朝から晩までの作業を数日かけて作るものもある。「『私の作ったものは不細工だけどかわいい』と大切に思ってもらったり、自分で直せるようになったりします。本当の価値を知り、作り手に敬意を払うためのワークショップなんです」。参加者同士で集まって植物を見つけに行ったり、講師の所に個人的に習いに行ったりする人もいる。「そういうつなぐ場になれば」と期待している。
時には作り手の営業役も買って出る古川さん。陶器市などで、「2つ買うから1000円負けて」と言われて、苦労に見合わない価格で妥協してしまう作家や話すのが苦手な人たちを見てきた。「そんな時、おしゃべりおばさんが登場して、こういう苦労があってやっとできたんですと説明すると納得して買ってくれる」と話す。
伝統的な手仕事は「絶滅危惧種」だと危機感を抱いている。「なるべく作り手が暮らせるような値段付けをしています。先祖たちの知恵を自分たちの手で再現して、誇りをもって臨むには、食べていけるようにしないと」と力を込める。後進が育たず、作り手がいなくなれば、途絶えてしまう。「何とか1分でも長く伝えたいし、つなげたい」と言う。
よそ者だから分かる魅力
東京出身の古川さん。移住した当初は、名字を言うと県外出身と線引きされるような感覚があった。今はその立場を武器だと感じる。「よそ者だからこそ良さが分かる。地元の人たちがつないできたものに光を当てるのが役目だと思っています」
今後はアイヌと沖縄をつなげるような企画や食に関わる冊子の構想を立てている。民具を通してさらなるつながりが広がっていきそうだ。
(坂本永通子)
(2023年11月9日付 週刊レキオ掲載)