大宜味村が村塩屋の埋め立て地「結の浜」で進めてきた大型リゾートホテルの建設と、人工ビーチを有する海浜公園整備事業に陰りが見え始めている。ビーチ利用者の約9割はホテル宿泊客が占めると推定されており、両事業は一体となって進められてきた。だが、2023年度中に予定されていたホテルの着工は、資材の高騰などから「具体的なめどが立っていない」(ホテル側)という。一方で村は、10月にも公園整備に取りかかる方針で、村民からは「ホテル建設が進んでいないのに、海浜公園整備を進める意味があるのか」などといった声が上がっている。
村は素通り観光から滞在型観光への転換を図ろうとリゾートホテルの誘致に取り組み、18年にルートインジャパン(東京都、永山泰樹社長)とホテル建設の協定を締結した。23年10月に示された計画では、168室を備えた3階建ての客室棟のほか、レストラン棟やプールを備える。村の担当者は「雇用や人口の増加、産業の活性化につなげたい」と期待感をにじませる。
「極めて困難」
着工の遅れについてルートイン側は19日、本紙の取材にメールで回答した。「社会や経済情勢の変動により建設コストが大幅に増大した。23年当時の建設計画を進めることは極めて困難な状況となり、計画の大幅な見直しを余儀なくされている」と説明している。村側の複数の関係者によると、建設費は当初の約50億円から75億円に膨らんでいるという。
同社が石川県輪島市で運営するホテルが、今年1月の能登半島地震で被害を受けたことも間接的に影響しているとみられ、友寄景善村長は「能登半島地震でホテルの建物が傾いたことから、埋め立て地に建設することを不安視していた」と話す。「計画が頓挫した訳ではないが、当初とは違った形になるだろう」と見通しを示した。
ルートイン側は取材に「対象の土地のボーリング調査を実施している」とし、その上で「ホテル建設計画変更の検討を進めている段階だ。現時点では、(着工)時期の具体的なめどは立っていない」と回答した。
利用者9割が宿泊客
村は「結の浜海浜公園整備事業企画書」で、海浜公園の利用者を年間約3万1120人と見込み、その約9割がホテルの宿泊客と想定する。そのため公園整備事業とホテル誘致は一体であった。にもかかわらず、ホテル建設の見通しが立たないまま、公園整備の準備だけが進んでいる。村が9月19日に塩屋公民館で約1年ぶりに開いた住民説明会では、村と請負業者が工事概要図や工程表などを用いながら、10月から着工する計画を示したという。
工事期間中の安全性についても不安視する声が多い。現在、大宜味小中学校隣の敷地に人工ビーチ造成用の砂が保管されており、業者の説明によると、工事が行われる来年2~3月の1カ月半ほど、学校前の道路を1日あたり約300台のダンプカーが往来する。村民から安全対策について問われた村は「運転手に安全運転を徹底させる」などと答えた。
昨年10月の住民説明会で村は、海浜公園の維持に年間約393万円が必要と推定し、村が負担すると説明していた。事業に反対する市民らでつくる「結の浜人工ビーチ事業を検証する会」の山本大五郎さんは「ホテルが完成しない中、利用者が1割も見込めず赤字は膨らむだろう」と指摘。「工事が始まる前にもう一度考えるべきではないか」と訴える。
友寄村長は「コロナ禍も落ち着きインバウンド(訪日客)や民泊利用者、修学旅行生なども増えている。ホテル建設が遅れていても、村内でマリンレジャーが楽しめるように、ビーチは必要だ」と強調する。
(玉寄光太)