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「多少の犠牲」と軽んじられる側で蹂躙されるものは ドキュメンタリー映画「戦雲」公開 三上智恵監督インタビュー


「多少の犠牲」と軽んじられる側で蹂躙されるものは ドキュメンタリー映画「戦雲」公開 三上智恵監督インタビュー 与那国島のカジキ漁師、川田一正さん(映画「戦雲」より)ⓒ2024『戦雲』製作委員会
この記事を書いた人 Avatar photo 明 真南斗

 与那国町や石垣市、宮古島市、うるま市を舞台に沖縄県内で軍事要塞化が進む様子や人々の暮らしを描いたドキュメンタリー映画「戦雲(いくさふむ)」が16日、東京都のポレポレ東中野などで公開された。沖縄県内での上映は23日から那覇市の桜坂劇場と宮古島市のよしもと南の島パニパニシネマで始まる。6年ぶりの作品となる三上智恵監督に映画に込めた思いや伝えたいことを聞いた。

(聞き手・明真南斗)

 ―ハーリーなど地域の祭りや漁の場面に多くの時間を割いていた。
 「過去の作品にある反対運動や集会、体を張った抗議行動のシーンはあえて抑えた。島々で生きている人たちの息吹がなければ、現状や覚悟が伝わらない。まずは生活や誇り、自然の豊かさを分かってもらった上で、何が蹂躙(じゅうりん)されようとしているのかを知ってもらいたいと考えた」

 ―題名の意味は。
 「映画にも登場する石垣島の山里節子さんが歌う叙情詩とぅばらーまの歌詞に由来する。スピンオフ作品の仮題『沖縄、再び戦場へ(仮)』は、戦場になるということを決めつけたようだと反発があった。戦が迫ってきたことを伝える不吉な雲だが、雲だからこそ晴らすことができる。青い空が取り戻せないわけではないという思いを込めた」

映画「戦雲」に込めた思いを語る三上智恵監督

 ―意識した点は何か。
 「与那国は、弱々しい離島というイメージとは全然違い、可能性があふれる島の力を表現したかった。また、宮古島や石垣島で取材していると繰り返し人頭税の話が出てくる。自衛隊配備計画が浮上した後、県内でも中心的な課題として扱われてこなかった悔しさを聞く。山里さんに一部のナレーションを務めてもらうことで伝えたかった」

 ―自衛隊員の姿も描いた狙いは。
 「『全体が助かるためには多少の犠牲は仕方がない』と命が軽んじられている人たちがいる。沖縄はいつも『多少の犠牲』に入っているが、離島に張り付けられている自衛隊員もそうだ。自衛隊を好きになってくれとは言わないが、島でどう生きていこうとしているのかは見てほしい」

 ―映画を通して伝えたいメッセージは何か。
 「最高の登場人物や身を乗り出してしまうほどの祭りなど、魅力的な映画にしたので見に来てほしい。その上で、自分たちが興味を持たないうちに国が誤った方向に進んでいることに気付いてもらいたい」