朴葵姫(パク・キュヒ)ギターリサイタル「BACH(バッハ)」(琉球新報社主催)が11日、那覇市の琉球新報ホールで開催された。アルバム「BACH」に収録された3プログラムのほか、スカルラッティなどの作曲家の作品とアンコールを含め全6プログラムを披露した。バッハを「深い感情がコントロールされている音楽」と解釈する朴は、弦を押さえる指を見つめながら、目まぐるしくも的確な指運びで演奏した。ギターが歌うかのような、途切れることなく抑揚の利いた旋律は、壮大な曲を遺憾なく体現した。
幕開けはバッハと同世代の作曲家スカルラッティ「ソナタK.32、K178、K391」を披露。単一楽章の構成は同じ旋律を繰り返し変化が少ないが、各所に音の装飾がちりばめられている。哀愁や活気といった曲調を、音の大小や強弱、微妙なテンポの違いで聴かせ、朴の音の美しさを観客に印象付けた。朴は「同じバロック時代の作曲家でも作風の違いがある」と説明した。
バッハ「無伴奏バイオリン ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005」は編曲せずに演奏した。「それぞれの成分が動き出し、主題が見え隠れしながら、繰り返される旋律の違いをどう表現するか」と難しさを説明。和声楽器ならではの和音を重ねて表現し、異なる性質が複雑に絡まり合う旋律を巧みに弾いた。
バリオスから「大聖堂」などを演奏した。バッハへの賛歌といわれる「大聖堂」は郷愁、信者の祈りなどがテーマにある。音域の高低差があるハーモニーから、信者が宗教から感じている希望や荘厳さをイメージさせた。
バッハ「シャコンヌ」は、バッハの信仰深さを表現したという説や、妻が亡くなった後で作られたなどの説がある。朴はこれまでの演奏とは変わって、手首を大きく動かし力強さを増す瞬間を入れるなど、感情的な音色を聴かせた。
冒頭の主題と低音の和音が繰り返され、それが伴奏になり、新たな旋律が現れては曲調を変える変奏曲。まるでバッハの心の移り変わりを現すように感じさせた。会場からは特大の拍手が沸いた。
アンコールはF・タレガ「アルハンブラの思い出」を演奏。この曲は、同一音の細かな反復で震えるような旋律を奏でるトレモロ奏法で演奏する。トレモロは宮殿の噴水をイメージしている。美しく響く音の粒を紡ぎ、異国情緒を感じる旋律に観客はうっとりしていた。
(嘉手苅友也)