新型コロナウイルスの影響で、沖縄独自の食文化であるヒージャー(ヤギ)料理に携わる業者が苦境にあえいでいる。沖縄では新築祝いなど慶事の際にヒージャー汁の鍋を大勢で囲むのが定番だが、コロナ禍で人が集まる機会が激減し、消費が落ち込んでいるためだ。汁物や刺し身を振る舞う居酒屋も、長らく休業や時間短縮営業を強いられている。精肉店は「注文が入らない」と嘆き、生産農家からは「価格は下がる一方だ」と窮状を訴える声が上がる。
7日、糸満市の南部家畜市場で2カ月に一度のヤギの競りがあり、160頭が取引された。この日の1キロ当たりの平均単価は773円。この2年で最低だったという8月の636円からは上がったものの、コロナ前の2019年10月の876円と比較すると約12%減少している。
本島南部に畜舎を構える男性は「うちは千円前後が相場だが、昨年から価格は3割落ちている。愛情込めて育てたのに報われないよ」と肩を落とす。
鶏や豚肉などに比べ、ヤギ肉を調理する家庭は少ないため、外出自粛に伴う「巣ごもり需要」は限定的だ。主な買い手である精肉店や飲食店の需要が激減したため、競り価格は低迷する一方だという。
男性は「地元の人は汁、観光客は刺し身を好む。一日も早くみんながヒージャーを楽しめる日が来てほしい」と願った。
八重瀬町の生産農家、中村学さんは納得のいく価格が見込めないため、競りへの出品を見送った。昨年4月頃から価格低迷が続いているといい、「刺し身が取れる若いヤギは高く売れるが、出品のタイミングを逃せば収入に響く人もいる」と指摘する。それでも「少しずつ経済活動は再開している。12月の競りには期待したい」と語った。
ヒージャーを調理する側も頭を抱える。うるま市の精肉店「仲松ミート」はヒージャー汁の大型注文が毎月4~5件、安定的に入っていたが、昨年後半から徐々に減ってきた。今年は9月に40人前の注文が1件あった以外は、全く受注がないという。
売り上げを少しでも伸ばそうと、ヒージャー汁のレトルト商品を11月から全国販売することを決めた。仲松ミートの仲本和美総務・経理統括部長は「沖縄の食文化を守るためにも、今は試行錯誤しながら耐えるしかない」と前を見据えた。 (当銘千絵)
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