第1 審査について
令和2年4月21日付け沖防第2056号により送付された普天間飛行場代替施設建設事業に係る埋立地用途変更・設計概要変更承認申請書(以下「変更承認申請書」という。)については、公有水面埋立法(以下「法」という。)への適合について、沖縄県が行政手続法第5条に基づき定めた審査基準への適合性について審査を行ったところである。
審査にあたっては、事業者が普天間飛行場代替施設建設事業(以下「本件事業」という。)の実施にあたり、技術的・専門的見地から客観的に提言・助言を行うことを目的に設置した普天間飛行場代替施設建設事業に係る技術検討会に提出された資料(以下「技術検討会資料」という。)及び普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会に提出された資料(以下「環境監視等委員会資料」という。)についても、令和2年9月18日付け土海第697号により沖縄県から沖縄防衛局あての文書において、補完資料として使用することを伝えたところ、令和2年10月7日付け事務連絡により沖縄防衛局から、「変更承認申請書について、これらの資料と実質的に異なる記載はないものと考えております」との回答を得ており、技術検討会資料及び環境監視等委員会資料についても、変更承認申請書の補完資料として審査を行った。
第2 不承認の理由
1 変更承認申請に「正当ノ事由」があると認められないこと
(1) 審査事項「変更の内容・理由が客観的見地から、やむを得ないと認められるもの」に次の理由により適合しないと認められること
埋立地の用途及び設計概要の変更にいたった理由については、客観的見地からやむを得ないと考えられるが、下記2「埋立の必要性」(1)~(4)及び4「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮」(3)、(4)に記載しているとおり、変更内容について、やむを得ないとは認められない。
2 「埋立の必要性」について、合理性があると認められないこと
(1) 審査事項「埋立ての動機となった土地利用が埋立によらなければ充足されないか。」に次の理由により適合しないと認められること
変更承認申請書による用途(「普天間飛行場代替施設建設のための造成用地」は除く)及び土地利用に変更はないものの、埋立承認後に実施した土質調査を踏まえた地盤改良に伴い、工程の変更を含め、大幅な見直しとなっている。
地盤の安定性等に係る設計に関して最も重要な地点において必要な調査が実施されておらず、地盤の安定性等が十分に検討されていないことから、災害防止に十分配慮されているとは言い難い。
このようなことなどから、埋立ての動機となった土地利用が可能となるまで不確実性が生じており、普天間飛行場の危険性の早期除去にはつながらないため、「埋立ての動機となった土地利用が埋立によらなければ充足されない」ことについて、合理性があるとは認められない。
(2) 審査事項「埋立ての動機となった土地利用に当該公有水面を廃止するに足る価値があると認められるか。」に次の理由により適合しないと認められること
変更承認申請書による用途(「普天間飛行場代替施設建設のための造成用地」は除く)及び土地利用に変更はないものの、埋立承認後に実施した土質調査を踏まえた地盤改良に伴い、工程の変更を含め、大幅な見直しとなっている。
地盤の安定性等に係る設計に関して最も重要な地点において必要な調査が実施されておらず、地盤の安定性等が十分に検討されていないことから、災害防止に十分配慮されているとは言い難い。
このようなことなどから、埋立ての動機となった土地利用が可能となるまで不確実性が生じており、普天間飛行場の危険性の早期除去にはつながらないため、「埋立ての動機となった土地利用に当該公有水面を廃止するに足る価値」があることについて、合理性があるとは認められない。
(3) 審査事項「埋立地の土地利用開始予定時期からみて、今埋立てを開始しなければならないか。」に次の理由により適合しないと認められること
変更承認申請書による用途(「普天間飛行場代替施設建設のための造成用地」は除く)及び土地利用に変更はないものの、埋立承認後に実施した土質調査を踏まえた地盤改良に伴い、工程の変更を含め、大幅な見直しとなっている。
本件事業の埋立ては既に開始されているものの、土地利用開始予定時期は、地盤改良の追加等に伴い延伸されることとなっている。
また、地盤の安定性等に係る設計に関して最も重要な地点において必要な調査が実施されておらず、地盤の安定性等が十分に検討されていないことから、災害防止に十分配慮されているとは言い難い。
このようなことなどから、埋立地の土地利用開始時期にも不確実性が生じており、普天間飛行場の危険性の早期除去にはつながらないため、「埋立地の土地利用開始予定時期」について、合理性があるとは認められない。
(4) 審査事項「埋立をしようとする場所が、埋立地の用途に照らして適切な場所と云えるか。」に次の理由により適合しないと認められること
本件事業の埋立計画は、集落等の上空を避け環境問題や危険性の回避、既存の施設の一部を利用するなど「埋立地の用途に照らして適切な場所」であることに、一定の合理性は認められるものの、「埋立をしようとする場所」については、法第4条第1項第2号の審査結果でも記載しているとおり、埋立予定地に軟弱地盤が確認されたことを踏まえ、設計概要変更申請が行われているが、災害防止に十分配慮した検討が実施されていないことから、「埋立をしようとする場所」について、合理性があるとは認められない。
3 「国土利用上適正且合理的ナルコト」(法第4条第1項第1号)の要件を充足しないこと
(1) 審査事項「埋立ての規模及び位置が、適正かつ合理的か。」に次の理由により適合しないと認められること
本件事業の埋立計画は、集落等の上空を避け環境問題や危険性の回避、既存の施設の一部を利用するなど「埋立地の用途に照らして適切な場所」であることに、一定の合理性は認められるものの、「埋立をしようとする場所」については、法第4条第1項第2号の審査結果でも記載しているとおり、軟弱地盤が確認されたことを踏まえ、設計概要変更が行われているが、災害防止に十分配慮した検討が実施されていないことから、「埋立ての位置」について、合理性があるとは認められない。
4 「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮」(法第4条第1項第2号)の要件を充足しないこと
(1) 審査事項「護岸、その他の工作物の施工において、周辺の状況に対応して、生活環境への悪影響、水質の悪化、有害物質の拡散、にごりの拡散、水産物等への悪影響、大気汚染、騒音、振動、植生・動物への悪影響、自然景観への悪影響、文化財天然記念物等への悪影響、交通障害等の防止、その他環境保全に十分配慮した対策(護岸等の構造の選定、作業機器の選定、工事工法の選定資材等の運搬の手段及び経路、その他)がとられているか。」に次の理由により適合しないと認められること
ア ジュゴンへの影響について
(ア) 本件事業の実施がジュゴンに及ぼす影響について適切に情報が収集されておらず、よって適切な予測が行われていない。
a 公有水面の埋立て又は干拓の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令(以下「省令」という。)第24条において、調査の手法を選定するに当たっては、事業特性及び地域特性を勘案し、並びに地域特性が時間の経過に伴って変化するものであることを踏まえ、当該選定項目に係る予測及び評価において必要とされる水準が確保されるよう選定しなければならないとされている。
b 国指定天然記念物であるジュゴンは、環境省において平成19年8月にレッドリストの絶滅危惧ⅠA類に追加され、令和元年12月に公表された国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて、日本の南西諸島に生息するジュゴンの地域個体群が絶滅危惧ⅠA類にあると評価されており、可能な限り、本件事業の実施がジュゴンに及ぼす影響についての情報を収集するとともに、実行可能な範囲内において、ジュゴンへの環境保全措置を実施する必要がある。
c ジュゴンについては、平成30年9月以降嘉陽海域を主要な生息域としていた個体Aが確認されない状況が続いており、また、令和2年2月から6月、8月にジュゴンの可能性の高い鳴音が施行区域内で録音されるなど地域特性が変化していることから、海上工事による水中音の調査・解析や評価基準、環境保全措置を検証する必要がある。
d ジュゴンへの工事による影響については、海中土木工事及び作業船を予測対象工種とし、具体的には、杭打ち工事の杭打ち船や土砂を運搬する作業船(ガット船、土運船)等から発生する水中音を対象としている。
e 水中音の予測は、リーフによる仮想障壁の設定や、浅海域における吸収・反射の影響を強く受けると考えられるとして、海況や底質に依存する近距離音場の不規則性による効果を考慮しているが、大浦湾は、水深が20m以上の個所が存在するなど地形が複雑であることから、不確実性が含まれると考えられるが、変更前と同様な予測となっている。
f 埋立工事が行われ多数の船舶が航行していること等水中音を発する工事が実施されていることからすれば、水中音調査を実施し、予測値と実測値を比較し、必要に応じて、予測値の補正を行う等してより精度の高い水中音等を予測し、当該予測に基づき環境保全措置を検討することも実行可能である。
g ジュゴンについては、承認後の令和元年12月に公表された国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて、南西諸島に生息するジュゴンの地域個体群が絶滅危惧ⅠA類に評価されている。ジュゴン保護の重要性や水中音を発する船舶が航行するなど地域特性に変化が生じていること、水中音の予測に不確実性が含まれることを鑑みると、水中音の調査を行わず、予測値と実測値の比較が行われていないことは、調査の手法について必要な水準が確保されているとは言えない。よって、本件事業の実施がジュゴンに及ぼす影響について適切に情報が収集されておらず、適切な予測が行われているとは言えない。
(イ) 本件事業の実施により生じ得る環境への影響を回避又は軽減するために採り得る措置が的確に検討されておらず、措置を講じた場合の効果が適切に評価されていない。
a ジュゴンに対する水中音による影響について変更後の環境保全図書では、「ジュゴンが高い頻度で確認されていた安部から嘉陽地先西側の範囲においては、瞬時の音により障害や行動阻害を引き起こす影響はなく、累積する音による障害や行動阻害の影響もないと考えられます。」としている。
b また、沖縄県からの質問に対して事業者は、「変更後においても、変更前と同様に、初めて杭打ち工事を行う際に水中音を測定し、予測した音圧レベルを超過する場合やジュゴンの生息範囲における水中音圧レベルが評価基準以上となる場合には、杭打ち工事から発生する水中音を低減する対策を検討することが適当と考えています。この場合には、水中音の低減策を検討する中で、必要に応じて、水中音の測定を継続することを考えています。他方、水中音の測定の結果、予測した音圧レベルを超過せず、かつ、ジュゴンの生息範囲における音圧レベルが評価基準を下回る場合は、ジュゴンへの影響は軽微と考えられるため、水中音調査を継続して実施する必要はないと考えています。」としている。
c ジュゴンについては、平成30年9月以降嘉陽海域を主要な生息域としていた個体Aが確認されない状況が続いており、一方で、令和2年2月から6月、8月にジュゴンの可能性の高い鳴音が施行区域内で録音されるなど地域特性が変化しており、安部から嘉陽地先西側の範囲への水中音の影響に加え、ジュゴンが来遊した際の影響を考慮し、環境保全措置を検討する必要がある。しかしながら、変更前と同様な手法で、安部から嘉陽地先西側の範囲においては、瞬時の音による障害や行動阻害を引き起こす影響の予測・評価となっており、ジュゴンの生息域に変化が生じていることを踏まえた環境保全措置となっておらず、的確に環境保全措置が検討されているとは認められない。
d また、事業者が設定しているジュゴンの水中音の評価基準(障害:230db re:1μpa等)については、2019年の論文において、当該評価基準よりも低い値が新たに提案されていることからすると、水中音によるジュゴンへの影響については、研究の進展によっては、更に低い値で影響を及ぼす可能性もあり、不確実性があるものと考えられる。
e 事業者は、事後調査において、水中音の測定の結果、予測した音圧レベルを超過せず、かつ、ジュゴンの生息範囲における音圧レベルが評価基準を下回る場合は、ジュゴンへの影響は軽微と考えられるため、水中音調査を継続して実施する必要はないとしている。
f 省令第32条第2項第2号では、「事後調査を行う項目の特性、事業特性及び地域特性に応じ適切な手法を選定するとともに、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能となるようにすること。」とされている。
g ジュゴンの水中音の評価基準に不確実性があることやジュゴンの生息範囲に変化が生じているにも係わらず、水中音の調査は、変更後においても、変更前と同様に、杭打ち工事の実施時期まで水中音の調査を実施しないとしており、更に、ジュゴンの生息範囲における音圧レベルが評価基準を下回る場合は、ジュゴンへの影響は軽微と考えられるため、水中音調査を継続して実施する必要はないとしている。
事業者の行う事後調査では、杭打ち工事前にジュゴンが大浦湾に来遊した際の水中音による影響や、評価基準値以下の範囲内におけるジュゴンへの影響について確認することができず、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能となっておらず、省令第32条第2項第2号に適合しているとは認められない。よって、事業の実施により生じ得る環境への影響を回避又は軽減するために採り得る措置が的確に検討されておらず、措置を講じた場合の効果が適切に評価されていない。
イ 地盤改良に伴う盛り上がり箇所について
(ア) サンドコンパクションパイル工法(SCP工法)の実施に伴う地盤の盛り上がりが環境に及ぼす影響について適切に情報が収集されていない。
a 省令第24条において、調査の手法を選定するに当たっては、予測及び評価において必要とされる水準が確保されるよう選定しなければならないこととされている。
b 事業者は、地盤改良に伴う盛り上がり箇所の調査について、「変更後の海底改変範囲は、変更前と比較して約1%増加したにとどまり、かつ、増加した範囲は変更前の海底改変範囲に隣接していることから、海底状況が大きく変化するものではありません。」としている。
c しかしながら、地盤改良として改良径2m及び1.6mのSCP工法を東側護岸の約1kmに約1万6千本実施することにより盛り上がる箇所は、水深が深くなる斜面部に位置しており、変更前の海底改変範囲に隣接しているとしても、海底改変範囲と異なる環境も含まれており、一般的に環境が異なると、生息している生物も異なると考えられ、また、盛り上がりの面積も1.8haと小さい範囲とはなっていない。
d 辺野古・大浦湾周辺の海域は、陸域から流れ込む河川、特異な地形的特徴を反映し、多様な生態系が狭い水域に組み合わさっており、ジュゴンやウミガメ類などの絶滅危惧種262種をはじめ、5,334種の生物が生息しており、ここ10数年の間に多くの希少種等が発見されている。
e SCP工法の実施に伴い地盤が盛り上がる箇所は、水深が深くなる斜面部となっており、変更前の海底改変範囲と異なる環境が含まれていることを考慮した場合、盛り上がり箇所の調査が実施されていないことについて、調査の手法について必要な水準が確保されているとは言えない。
よって、地盤の盛り上がりが環境に及ぼす影響について適切に情報が収集されておらず、適切な予測が行われているとは認められない。
以上のことから、審査事項「護岸、その他の工作物の施工において、周辺の状況に対応して、生活環境への悪影響、水質の悪化、有害物質の拡散、にごりの拡散、水産物等への悪影響、大気汚染、騒音、振動、植生・動物への悪影響、自然景観への悪影響、文化財天然記念物等への悪影響、交通障害等の防止、その他環境保全に十分配慮した対策(護岸等の構造の選定、作業機器の選定、工事工法の選定資材等の運搬の手段及び経路、その他)がとられているか。」に適合しない。
(2) 審査事項「埋立土砂等の採取・運搬及び投入において、埋立てに関する工事の施行区域内及び周辺の状況に対応して、生活環境への悪影響、水質の悪化、有害物質の拡散、にごりの拡散、水産生物等への悪影響、粉塵・飛砂、悪臭、害虫、大気汚染、騒音、振動、植生・動物への悪影響、自然景観への悪影響、文化財天然記念物等への悪影響、交通障害等の防止、その他環境保全に十分配慮した対策(埋立て工法の選定、作業機器の選定、埋立土等の運搬の手段及び経路の選定、土取場跡地の保全、その他)がとられているか。」に次の理由により適合しないと認められること
ア ジュゴンへの影響について
(ア) 本件事業の実施がジュゴンに及ぼす影響について適切に情報が収集されておらず、よって適切な予測が行われていない。
a 省令第24条において、調査の手法を選定するにあたっては、事業特性及び地域特性を勘案し、並びに地域特性が時間の経過に伴って変化するものであることを踏まえ、当該選定項目に係る予測及び評価において必要とされる水準が確保されるよう選定しなければならないとされている。
b 国指定天然記念物であるジュゴンは、環境省において平成19年8月にレッドリストの絶滅危惧ⅠA類に追加され、令和元年12月に公表された国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて、日本の南西諸島に生息するジュゴンの地域個体群が絶滅危惧ⅠA類にあると評価されており、可能な限り、事業の実施がジュゴンに及ぼす影響についての情報を収集するとともに、実行可能な範囲内において、ジュゴンへの環境保全措置を実施する必要がある。
c ジュゴンへの工事による影響については、海中土木工事及び作業船を予測対象工種とし、具体的には、杭打ち工事の杭打ち船や土砂を運搬する作業船(ガット船、土運船)等から発生する水中音を対象としている。
d 水中音の予測は、リーフによる仮想障壁の設定や、浅海域における吸収・反射の影響を強く受けると考えられるとして、海況や底質に依存する近距離音場の不規則性による効果を考慮しているが、大浦湾は、水深が20m以上の個所が存在するなど地形が複雑であることから、不確実性が含まれると考えられる。
e 承認後は、埋立工事が行われ多数の船舶が航行していること等水中音を発する工事が実施されていることから、水中音調査を実施し、予測値と実測値を比較し、必要に応じて、予測値の補正を行う等してより精度の高い水中音等を予測し、当該予測に基づき環境保全措置を検討することも実行可能である。
f ジュゴンについては、承認後の令和元年12月に公表された国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて、南西諸島に生息するジュゴンの地域個体群が絶滅危惧ⅠA類に評価されている。ジュゴン保護の重要性や水中音を発する船舶が航行するなど地域特性に変化が生じていること、水中音の予測に不確実性が含まれることを鑑みると、水中音の調査を行わず、予測値と実測値の比較が行われていないことは、調査の手法について必要な水準が確保されているとは言えない。
よって、事業の実施がジュゴンに及ぼす影響について適切に情報が収集されておらず、適切な予測が行われているとは言えない。
(イ) 事業の実施により生じ得る環境への影響を回避又は軽減するために採り得る措置が的確に検討されておらず、措置を講じた場合の効果が適切に評価されていない。
a ジュゴンに対する水中音による影響について変更後の環境保全図書では、「ジュゴンが高い頻度で確認されていた安部から嘉陽地先西側の範囲においては、瞬時の音により障害や行動阻害を引き起こす影響はなく、累積する音による障害や行動阻害の影響もないと考えられます。」としている。
b また、沖縄県からの質問に対して事業者は、「変更後においても、変更前と同様に、初めて杭打ち工事を行う際に水中音を測定し、予測した音圧レベルを超過する場合やジュゴンの生息範囲における水中音圧レベルが評価基準以上となる場合には、杭打ち工事から発生する水中音を低減する対策を検討することが適当と考えています。この場合には、水中音の低減策を検討する中で、必要に応じて、水中音の測定を継続することを考えています。他方、水中音の測定の結果、予測した音圧レベルを超過せず、かつ、ジュゴンの生息範囲における音圧レベルが評価基準を下回る場合は、ジュゴンへの影響は軽微と考えられるため、水中音調査を
継続して実施する必要はないと考えています。」としている。
c ジュゴンについては、平成30年9月以降嘉陽海域を主要な生息域としていた個体Aが確認されない状況が続いており、一方で、令和2年2月から6月、8月にジュゴンの可能性の高い鳴音が施行区域内で録音されるなど地域特性が変化しており、安部から嘉陽地先西側の範囲への水中音の影響に加え、ジュゴンが来遊した際の影響を考慮し、環境保全措置を検討する必要がある。しかしながら、変更前と同様な手法で、安部から嘉陽地先西側の範囲においては、瞬時の音による障害や行動阻害を引き起こす影響の予測・評価となっており、ジュゴンの生息域に変化が生じていることを踏まえた環境保全措置となっておらず、的確に環境保全措置が
検討されているとは認められない。
d また、事業者が設定しているジュゴンの水中音の評価基準(障害:230db re:1μpa等)については、2019年の論文において、評価基準よりも低い値が新たに提案されていることから、水中音によるジュゴンへの影響については、研究の進展によっては、更に低い値で影響を及ぼす可能性もあり、不確実性があるものと考えられる。
e 事業者は、事後調査において、水中音の測定の結果、予測した音圧レベルを超過せず、かつ、ジュゴンの生息範囲における音圧レベルが評価基準を下回る場合は、ジュゴンへの影響は軽微と考えられるため、水中音調査を継続して実施する必要はないとしている。
f 省令第32条第2項第2号では、「事後調査を行う項目の特性、事業特性及び地域特性に応じ適切な手法を選定するとともに、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能となるようにすること」とされている。
g ジュゴンの水中音の評価基準に不確実性があることやジュゴンの生息範囲に変化が生じているにも係わらず、水中音の調査は、変更後においても、変更前と同様に、杭打ち工事の実施時期まで水中音の調査を実施しないとしており、更に、ジュゴンの生息範囲における音圧レベルが評価基準を下回る場合は、ジュゴンへの影響は軽微と考えられるため、水中音調査を継続して実施する必要はないとしている。
事業者の行う事後調査では、杭打ち工事前にジュゴンが大浦湾に来遊した際の水中音による影響や、評価基準値以下の範囲内におけるジュゴンへの影響について確認することができず、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能となっておらず、省令第32条第2項第2号に適合しているとは認められない。
よって、事業の実施により生じ得る環境への影響を回避又は軽減するために採り得る措置が的確に検討されておらず、措置を講じた場合の効果が適切に評価されていない。
以上のことから審査事項「埋立土砂等の採取・運搬及び投入において、埋立てに関する工事の施行区域内及び周辺の状況に対応して、生活環境への悪影響、水質の悪化、有害物質の拡散、にごりの拡散、水産生物等への悪影響、粉塵・飛砂・悪臭、害虫、大気汚染、騒音、振動、植生・動物への悪影響、自然景観への悪影響、文化財天然記念物等への悪影響、交通障害等の防止その他環境保全に十分配慮した対策(埋立て工法の選定、作業機器の選定、埋立土等の運搬の手段及び経路の選定、土取場跡地の保全、その他)がとられているか。」に適合しない。
(3) 審査事項「埋立地の護岸の構造が、例えば、少なくとも海岸護岸築造基準に適合している等、災害防止に十分配慮されているか。」に次の理由により適合しないと認められること。
護岸や地盤の安定性能の照査方法については、港湾法第56条の2の2の規定に基づく港湾の施設に関する技術上の基準(以下「港湾基準」という。)により具体的に規定されており、当該基準については、国土交通省港湾局監修による「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(以下「港湾基準・同解説」という。)において詳細に解説されている。また、技術検討会資料においても、主に、港湾基準を参照し地盤の安定性等について性能照査を行っている。このようなことから、「少なくとも海岸護岸築造基準に適合している等」については、港湾基準への適合状況について審査を行う。
ア 地盤改良箇所の状況
a 改良が必要とされる地盤(「粘性土」と粘性土と砂質土の中間的な性質をもつ「中間土」)は、C護岸から護岸(係船機能付き)付近に分布しており、中でもC-1-1-1護岸のB-27地点付近において、粘性土(Avf-c層及びAvf-c2層)が水面下約90mに達している。また、B-27地点付近は、護岸設置箇所において唯一Avf-c2層が存在しており、一部未改良の粘性土が残置する計画となっているほか、地盤の安定性を保つために使用される軽量盛土の範囲が広範に渡っている。
b B-27地点付近は、港湾法施行規則において規定されている、公共の安全その他の公益上の影響が著しいと認められる外郭施設(外周護岸)(港湾基準・同解説p10)の設置場所となっており、更に、飛行場として運用上重要な、滑走路の延長線上となっている。
c これらのことから、供用後50年の使用を見込んでいる飛行場の安定的な運用を図る上でも、C-1-1-1護岸のB-27地点付近の地盤条件の設定が、災害防止に関して最も重要と考える。
イ B-27地点の力学的試験の必要性について
a C-1-1-1護岸のB-27地点においては三軸圧縮試験等の力学的試験が実施されておらず、同地点付近に存在する粘性土のAvf-c2層のせん断強さについては、港湾基準・同解説p304に示された地盤物性値の推定に示された方法で検討して、S-3、S20、B-58地点の三軸圧縮試験等の力学的試験から類推して求めている。
b しかしながら、港湾基準及び港湾の施設の技術上の基準の細目を定める告示(以下「告示」という。)第13条において「地盤条件については、地盤調査及び土質試験の結果をもとに、土の物理的性質、力学的特性等を適切に設定するものとする。」と規定されており、更に、その[解釈]として「地盤調査に当たっては、技術基準対象施設の構造、規模及び重要度、並びに当該施設を設置する地点周辺の性状を適切に考慮する。」とある(港湾基準・同解説p300)。
c B-27地点付近は、港湾法施行規則において規定されている、公共の安全その他の公益上の影響が著しいと認められる外郭施設(外周護岸)(港湾基準・同解説p10)の設置場所となっている。また、粘性土(Avf-c層及びAvf-c2層)が水面下約90mに達し、護岸設置箇所において唯一Avf-c2層が存在しており、更に、一部未改良の粘性土が残置する計画となっているほか、地盤の安定性を保つために使用される軽量盛土の範囲が広範に渡っている。
d Avf-c2層のせん断強さは、護岸等の安定性能照査に用いられる照査用震度の算出にも関係しており、護岸の滑動、転倒及び支持力などの安定計算にも影響するなど、設計に大きく関わる。
e 事業者は、港湾基準・同解説に基づく設計手法により検討しているものの、軟弱地盤の最深部が位置するB-27地点において力学的試験を行わず、約150m離れたS-3地点、約300m離れたS-20地点、約750m離れたB-58地点からせん断強さを類推しており、地点周辺の性状等を適切に考慮しているとは言い難い。
f 軟弱地盤の最深部が位置するC-1-1-1護岸直下のAvf-c2層のせん断強さは、同一層と判断した他の3地点からの類推ではなく、B-27地点における三軸圧縮試験等の力学的試験等を実施し、その結果をもって設定することが最も適切と考えられ、告示第13条に規定に適合しているとは認められない。
以上のことから、審査事項「埋立地の護岸の構造が、例えば、少なくとも海岸護岸築造基準に適合している等災害防止に十分配慮されているか。」に適合しない。
(4) 審査事項「埋立区域の場所の選定、埋立土砂の種類の選定、海底地盤又は埋立地の地盤改良等の工事方法の選定等に関して、埋立地をその用途に従って利用するのに適した地盤となるよう災害防止につき十分配慮しているか。」に次の理由により適合しないと認められること。
ア 地盤改良箇所の状況
a 上記第2の4(3)アで示したとおり、供用後50年の使用を見込んでいる飛行場の安定的な運用を図る上でも、C-1-1-1護岸のB-27地点付近の地盤条件の設定が、災害防止に関して最も重要と考える。
イ B-27地点の力学的試験の必要性について
a B-27地点において三軸圧縮試験等の力学的試験が実施されておらず、C-1-1-1護岸直下のAvf-c2層のせん断強さについては、港湾基準・同解説p304に示された地盤物性値の推定に示された方法で検討して、S-3、S-20、B-58地点の三軸圧縮試験等の力学的試験から類推して求めている。
b しかしながら、告示第13条において「地盤条件については、地盤調査及び土質試験の結果をもとに、土の物理的性質、力学的特性等を適切に設定するものとする。」と規定されており、更に、その[解釈]として「地盤調査に当たっては、技術基準対象施設の構造、規模及び重要度、並びに当該施設を設置する地点周辺の性状を適切に考慮する。」とある(港湾基準・同解説p300)。
c 事業者は、港湾基準・同解説に基づく設計手法により検討しているものの、軟弱地盤の最深部が位置するB-27地点において力学的試験を行わず、約150m離れたS-3地点、約300m離れたS-20地点、約750m離れたB-58地点からせん断強さを類推しており、地点周辺の性状等を適切に考慮しているとは言い難い。
d 軟弱地盤の最深部が位置するC-1-1-1護岸直下のAvf-c2層のせん断強さは、同一層と判断した他の3地点からの類推ではなく、B-27地点における三軸圧縮試験等の力学的試験等を実施し、その結果をもって設定することが最も適切と考えられ、告示第13条に規定に適合しているとは認められない。
ウ 施工時の地盤の安定性について
a 告示第3条において、「技術基準対象施設の性能照査は、作用、供用に必要な要件及び当該施設の保有する性能の不確定性を考慮できる方法又はその他の方法であって信頼性の高い方法によって行わなければならない。」と規定されている(港湾基準・同解説p24)。
b 施工時の地盤の安定性能照査について、C-1-1-1護岸付近には深い谷地形があり、護岸設置箇所において唯一粘性土のAvf-c2層が存在しているが、C-2-1-1護岸付近には粘性土がわずかしか存在しないなど、護岸毎の地盤条件が異なることから、これらの不確定性を考慮する必要があると考える。
c 事業者は、施工時の安定計算に用いる部分係数は、港湾基準・同解説p749を参考とし、施工中に計測施工を行う前提で、C-1護岸~C-3護岸、護岸(係船機能付き)について、一律に部分係数γs=1.00、γr=1.00、調整係数m=1.10としたとしている。
d 事業者に対し、安定計算に用いる調整係数mを一律に下限値の1.10とするのではなく、護岸毎に地盤条件や施設の重要性を勘案し、合理的な値を設定する必要がある旨を確認したところ、事業者から、①引用元の論文を参考文献とした上で、それでもなお、港湾基準・同解説において計測施工を実施する場合は、1.10以上とすることができるとされている、②「道路土工 盛土指針(平成22年度版)」に情報化施工を適用する場合には盛土施工直後の安全率を1.1としてよいとされている、③第6回技術検討会において、動態観測を行うのであれば調整係数を1.10とすることは妥当との意見が委員から述べられている、との説明はあったものの、護岸毎の地盤条件や施設の重要性の勘案についての説明はなかった。
e 一方で、事業者は、完成時(永続状態)においては、港湾基準・同解説p1,070に基づき、粘性土の変動係数等で区分して部分係数、調整係数を設定している。
f 港湾基準・同解説p13には、「具体的な性能照査の手法の選択や許容される安全性余裕を表す指標及び変形量等の限界値の設定は、設計者の判断を尊重している」とされているが、事業者からは、性能照査にあたって地盤条件等の不確定性をどのように判断し、調整係数mを1.10と設定したか明確に示されていない。
g 調整係数は、地盤条件の不確定要素を調整するための係数であり、B-27地点の力学的試験の必要性にも関わってくる。軟弱地盤の最深部があるB-27地点が、地盤の安定性について最も危険な断面であり、B-27地点の地盤条件を力学的試験等により適切に設定することが、不確定性を考慮できる方法の1つであると考える。
h したがって、B-27地点の地盤条件を適切に設定しておらず、地盤の均一性や地盤定数の信頼性等の区分についても合理的な説明がないため、どのように不確定性を考慮したか不明であり、告示第3条への適合について判断できない。なお、B-27地点で力学的試験等を実施した場合のせん断強さの値は変わる可能性があり、それに伴い、完成時の作用耐力比の値も変わる可能性がある。
エ 地盤改良工法の実績(地盤改良深度をC.D.L.-70mまでとし、約20mの未改良部が残ること)について
a 告示第43条において準用する第39条において準用する第49条第1項において「主たる作用が自重である永続状態に対して、地盤のすべり破壊の生じる危険性が限界値以下であること。」と規定されている。
b 事業者は、SCP工法について、韓国において改良径2mと1.6mを深度C.D.L.-70mまで実施した実績があるとしており、本事業においては、深度C.D.L.-70m以深の粘性土約20mが未改良部で残るとしている。
c 深度C.D.L.-70m以深の地盤改良については、これまでに施工実績がないことから、現時点における技術力では施工できないものと考えられる。
d 一方、事業者は、地盤の円弧すべりについて、地盤改良箇所を通過するすべりと、地盤改良せずに軟弱地盤が存置する箇所を通過するすべりを検討し、どちらも作用耐力比が1.0未満であることから、安定性能照査基準を満足するとしているため、約20mの未改良部が残ることが、設計上問題があるとは言えない。
e しかしながら、作用耐力比の算出には地盤のせん断強さが関係することから、B27地点の力学的試験の必要性にも関わってくる。C-1-1-1護岸のB-27地点付近に存在する粘性土のAvf-c2層のせん断強さは、同一層と判断した他の3地点からの類推であるため、B-27地点で力学的試験等を実施した場合のせん断強さの値は変わる可能性があり、それに伴い、作用耐力比の値も変わる可能性がある。
f 軟弱地盤の最深部が位置するC-1-1-1護岸直下のAvf-c2層のせん断強さは、同一層と判断した他の3地点からの類推ではなく、B-27地点における三軸圧縮試験等の力学的試験等を実施し、その結果をもって設定することが最も適切と考える。また、B-27地点の力学的試験を実施していないことについて、性能照査にあたっては、適切に不確実性を考慮する必要があると考えられる。
以上のことから、審査事項「埋立区域の場所の選定、埋立土砂の種類の選定、海底地盤又は埋立地の地盤改良等の工事方法の選定等に関して、埋立地をその用途に従って利用するのに適した地盤となるよう災害防止につき十分配慮しているか。」に適合しない。
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