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(5)ローソン、パルコ… 県外大手との協業で開く新規分野 コロナ禍の課題


この記事を書いた人 Avatar photo 玉城江梨子

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開業イベントに集まった多くの買い物客=2019年6月27日、浦添市西洲のサンエー浦添西海岸パルコシティ

 2019年6月27日、県内最大規模の商業施設「サンエー浦添西海岸パルコシティ」が開店した。沖縄初出店94店舗を含む全250店舗というテナント数に開業前から県民の期待は大きく、約4000台収容の駐車場は平日にもかかわらず開店から3時間で満車になった。

 「開発を受けるにあたっての宿題はサンエーとしての『浦添西海岸シティ』を作るのではだめですよ、ということだった」。サンエーの豊田沢取締役はこう明かす。

 近隣には那覇メインプレイス、宜野湾コンベンションシティ、マチナトショッピングセンターなどサンエーの大型店が複数あるほか、北中城村にイオンモール沖縄ライカムも開店したばかり。県内市場の飽和感が指摘される中、サンエーが差別化戦略のパートナーとして選んだのが商業施設デベロッパー大手のパルコだった。

 県内で半世紀近く事業を展開してきたサンエーの経営資源と信用力、パルコの都市型ファッションビル運営のノウハウ、センスを掛け合わせ、新たな商業施設を創り上げようと両社は16年に合弁会社「サンエーパルコ」を設立。開発から現在の運営に至るまで一緒に行っている。「サンエーでは相手にしてもらえないようなブランドも、パルコさんだからこそ呼べた。私たちが思いつかないような奇抜な提案もある。パルコさんの知見を学ばせてもらっている」

新たなニーズ

県内最大クラスの売り場面積、250店舗が入居する大型商業施設「サンエー浦添西海岸パルコシティ」=2019年6月27日、浦添市西洲

 パルコシティの店舗面積は約6万平方メートル。那覇メインプレイスの倍だ。サンエーの大型店の面積がどんどん大きくなっていることについて豊田取締役は「時代に応じてお客さまのニーズは変わっている。その中で弊社ができる範囲のことをした結果、店舗の器の方を大きくしていかないといけなかった」と説明する。広い駐車場を備え、1カ所でいろんなことができるのが客のニーズとしてある。他方、企業規模が大きくなり、フランチャイズ(FC)を複数抱えるサンエーは、自社で出店コントロールができる業態が増えたほか、「出店したい」というナショナルブランドからの要望もある。

 県内小売流通業界の変化も影響している。かつて県内には3つの百貨店があったが、そのうち山形屋、沖縄三越が閉店し、今はデパートリウボウが唯一の百貨店だ。「那覇メインプレイス以降は、都市型の店舗に対してお客さまが求めるものはハイクラスなものになっている。一方、百貨店まではいかないが、ファッションビル、駅ビル的なものに出店したいが売り場がないというブランドも多い」と県民、ブランド双方のニーズも挙げる。

サンエーで買えるローソンオリジナル

サンエーに並ぶローソンオリジナルの沖縄限定商品

 パルコとの協業でファッションビル業態に進出したサンエーだが、もう一つ本土資本との協業で新規分野に取り組んでいるのが、ローソン沖縄だ。

 サンエー食品館の陳列棚にはローソンのプライベートブランド(PB)商品「ローソンオリジナル」も並ぶ。全国チェーンのローソンと合弁でエリアフランチャイズの「ローソン沖縄」を設立し、サンエーがコンビニ業態へ進出したのは2009年。以降コンビニとスーパー、それぞれの強みを掛け合わせた展開を図っている。

 一般的に消費者にはスーパーよりもコンビニの方が価格が高いーというイメージがある。しかし、ローソンオリジナルはサンエーとローソンで同じ価格で売られている。「サンエーの店頭でローソンオリジナルの商品を知って購入。その後は近くのローソンで買っているというお客さまは多い」とローソン担当役員でもある豊田取締役は話す。

 ローソンオリジナルは主婦やシニア層をターゲットに作られたもの。それが本当に主婦層に受け入れられるのか、という実験も客に主婦が多いサンエーなら可能だ。

 13年からは県内企業と組んで、沖縄そば、島豆腐といった沖縄限定のローソンオリジナルを開発し、県内のローソン、サンエーで販売している。ローソンオリジナルが地域限定発売されるのは全国初。これはサンエーの数量があるから可能だった。

 サンエー側の最大のメリットは独自商品を作れることだ。サンエーは加盟するニチリウグループのPB商品「くらしモア」を扱っているが、そこでは沖縄独自の商品の展開は難しい。一方で、コンビニは自社で商品を開発する力がある。「コンビニは味や品質の管理基準が厳しく、ベンダー(卸売業)とのやりとりにも慣れている。サンエーが独自でPB商品を作るよりずっと早くいいものができる」と話す。

 FC事業や合弁事業。2000年代以降のサンエーは本土企業との提携を積極的に進め、本土資本の経営資源をうまく活用するほか、ノウハウを吸収し成長してきた。食品や衣料スーパーとして一定の規模に達したサンエーが、新規分野に取り組むには、FCや合弁が合理的な方法ではあるが、先代社長で創業者の折田喜作氏が沖縄の日本復帰時に本土企業との資本提携を断り、自主独立路線を取ったことからすると、これは上地哲誠社長体制の特徴の一つとも言える。

コロナ禍とサンエー

衣料品などがある2階へのエスカレーターが止まり、食料品などの売り場のみ営業したサンエー那覇メインプレイス=2021年6月

 規模が拡大し続けるサンエーだが、通期決算はコロナ前の2019年から増収減益が続いている。背景には県内同業他社との競争激化、県内の労働力不足に伴う人件費上昇のほか、浦添西海岸パルコシティの減価償却費の影響があった。

 さらに新型コロナウイルスの世界的流行が追い打ちを掛けている。大規模投資したパルコシティは開業1年目でコロナ禍に。地元客だけでなく海外からの観光客(インバウンド)も見込んでいたが、インバウンドはゼロになった。そして、緊急事態宣言に伴い、一部の店舗は土日・祝日の休業や時短営業となり、経営に大きく響いた。

 沖縄国際大学の宮城和宏教授は、コロナ禍でのネットスーパーの拡大など食料品の巣ごもり需要への対応は迅速だった一方で、利益率の高い衣料品、外食の売上減への対応の弱さを指摘する。「さらなる差別化のため、サンエーでしか買えないもの、体験できないことが必要。パルコシティでどれだけイノベーションを起こせるのかも鍵だ」とみる。さらに顧客とサンエーの接点となるリアルの店舗、ECサイト、SNS、カタログ、ローソンなどをそれぞれ連結させユーザーにアプローチする「オムニチャネル」への対応も必要だと展望した。

(玉城江梨子)

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