「かめしまパン」を知らない那覇市民はいないのではないか。そう思ってしまうほど、那覇で名の知られる老舗「かめしまパン」。那覇高校の前にある「二中前店」もオープンから40年近くになる老舗だ。安くてどこか懐かしい味わいに、現在でも多くのファンが通う。那覇を中心に展開するかめしまパンの知られざる歴史と、街並みがめまぐるしく変わる中、多くの那覇高生を見守り続ける「二中前店」を取材した。(田吹遥子)
■沖縄のパン業界を席巻する?亀島一族のパン屋
かめしまパンの始まりは卸業だったと言う。前島本店によると、先代が始めたという卸業を含めると70年の歴史があるそうだ。そして今から45、46年前にその先代の長男の亀島賢三さん、次男で那覇市議会議長も務めた賢優さん、三男の賢持さんの3兄弟で久茂地に店を構えた。当時の店舗によく通っていたという50代の男性は「メロンパンがとびきりおいしかった」と振り返る。
しかし、その店舗は立ち退きにあい、3兄弟がそれぞれ別の店舗を持つことになった。賢三さんは那覇市前島に前島本店、賢優さんが若狭に若狭店、賢持さんが泉崎の那覇高校前に二中前店をオープンする。
その後も「かめしまパン」は、那覇市田原に田原店だけでなく、豊見城市に豊見城店、中城村に南上原店と那覇市外にも広がった。さらに浦添市の老舗「ひろし屋パン」も亀島家の親戚だという。沖縄県内の老舗パン屋は亀島一族関係の経営なのでは、と思ってしまうほどの席巻ぶりだ。
ところで、かめしまパンと言えば、あんパン、メロンパン、食パンとおなじみのラインナップから始まり、たまごサンドなどのサンドイッチ類、ウインナーロールなどの総菜パン、チョココロネなどのおやつパン…と、とにかくパンの種類が豊富。
複数のかめしまパンを訪れたことがある人は「前島店にあるパンが二中前店にはない(その逆も然り)」というような経験をしたことがないだろうか。現在、二中前店を切り盛りする亀島貴一さん(43)によると、どこの店舗にも共通なのが創業の店舗からあるメロンパン、あんパン、カレーパン、食パンなど。残りのほとんどのメニューが各店舗で異なるという。
「いとこたちとの模合でメニューを決めたり、勉強会をしています」と貴一さん。「次は米粉を使ったパンを作りたいですね」と静かに意気込みを語る。
親戚の模合でもパンの話題が出るのは、「パンの一族」ならではなのかもしれない。
■激変する「二中前」の通り
さて、二中前店の歴史に戻ろう。先に説明したとおり、二中前店は久茂地の店舗から立ち退くタイミングで、三男の賢持さんが37年前に那覇高校の正門向かいにオープンした。今は息子の貴一さんが店を引き継いでいる。「二中」とは那覇高校の戦前の呼び名「県立第二中学校」の略。貴一さんによると、かめしまパンが入っている建物は元々銀行の支店で「二中前店という支店名だった」という。
多くの生徒を有する那覇高校の前、さらに近くには裁判所や県庁などの公的機関もあるため、かめしまパンが並ぶ「開南せせらぎ通り」はかつては「ランチ激戦区」でもあった。しかしその街並みはこの数年で激変した。那覇高校の卒業生に聞くと、揚げパンが人気の「長嶺商店」や「二中前ストア」などそれぞれに思い出の店を挙げるが、もう全て閉店してしまったのだ。
現在、通りで30年以上営業を続けている店は、丁寧な手作り弁当が人気の喫茶店「ダージリン」と、この「かめしまパン二中前店」のみだという。
■高校時代のけいたりんさんが食べたパンは
二中前店の朝は早い。午前6時にオープン。6人の従業員が調理場で忙しくパンをこね、焼き上げる。香ばしい香りが店内に漂い続ける。
7時頃には、早朝講座を受ける前の高校生が代わる代わる店を訪れる。那覇高校では、10年ほど前から生徒が昼食時に校外に出ることを禁止したこともあり、校外に出られないお昼時よりも登校前に立ち寄る生徒が多いらしい。
多くの生徒が手に取るのは、男性のこぶし大ほどの球体のパン「ホールスター」だ。早朝のレジに立つのは先代の賢持さんの妻で、貴一さんの母・初美さん(72)。ホールスターを選ぶ生徒に「きなこもつける?」と優しく問いかける。きなこをまぶすと大きな団子のような見た目になる。タピオカの粉が入っていて、もちもちした食感が楽しめる。
初美さんに高校生から人気の商品を聞くと、やはり「ホールスター」が挙がる。ほかに「ヌーベルですね」と教えてくれた。ヌーベルとはスポンジケーキのようなパン。しっとりとしたスポンジは甘さ控えめで、こちらも懐かしい味がする。「確か、粉を卸している業者の人から教えてもらって、みんなで勉強して作ったはず」と初美さんは思い出したように語った。
卒業生にも思い出のパンがたくさんある。
那覇高校49期卒業生である、お笑い芸人のけいたりんさんも、高校生時代はかめしまパンに通った。好きだったのはチョココロネだ。「なるべく先っちょまでチョコが詰まってるチョココロネを選ぼうと、血眼になって探しました」と教えてくれた。「カレーパンはなぜカレーが浸みてないのか、ずっと不思議でした」とも。
那覇高校を卒業した27歳の女性は「牛乳パンが人気だった」と振り返る。牛乳パンは直径15㎝ほどの、ふかふかした丸いパンだ。「朝に買いに行かないとお目当てのパンが買えないから0校時(早朝講座)の後に行っていました。でも牛乳パンはすぐ売り切れて結局1~2回くらいしか食べたことがないです」。
■安さの理由は先代の思い?
それにしても、どのパンもほぼ100円台と安く、高校生でも買い求めやすい。貴一さんは「『お腹いっぱい食べてほしい』という思いがあったのかもしれない」と先代の賢持さんの思いを推し量った。
賢持さんは2021年に73歳で亡くなった。引き継いだ2代目の貴一さんは、先代から伝えられたことは「特にはないです」と淡々としながらも、「安心安全に気をつけながらやっていくということですかね」と話す。そばにいる初美さんも「これからも続けていければ」と優しい笑顔を見せた。
高校生が授業に向かった後も、客は絶えない。午前8時頃、高齢の女性がトレイにたくさんのパンを載せてレジに向かった。揚げパンや総菜パン…「揚げパンは中に何も入ってなくて、かえってそれがいいのよ」と女性。娘に持っていくらしい。よくこの店に通うというこの女性は「おいしいから来る」と話した後で初美さんに目をやり、「この人の感じがいいからよ」とにこっと笑った。
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あなたが高校時代、お昼休みや放課後に通っていたお店はどこですか?思い出の「高校前メシ」を記者が訪ねました。WEB限定の連載です。
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