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拡散した動画「中国が琉球の独立を支持」「沖縄の名称は琉球に」…事実確認できず、誤情報<ファクトチェック>


この記事を書いた人 Avatar photo 呉俐君

 「中国が琉球の独立を支持すると宣言」という趣旨の中国語の動画が4月下旬から動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開されている。中国最大のSNS「微博(ウエイボー)」などでも拡散されている。動画では「沖縄が県名について『琉球』を復活させることを決定したと琉球新報が報じた」との情報も盛り込まれている。琉球新報はそのような記事を出しておらず、虚偽だ。

中国の秦剛外務相を背景に「琉球は日本の領土ではない」のテロップ(「快看資訊」の動画より)

■動画を上げたのは誰?

 SNSで拡散されている動画の出典は、中国人が管理者と思われる「快看資訊(クァイ・カン・ズウ・シュン)」というチャンネルだ。

 「快看資訊」は日本語で「情報をいち早くキャッチ」という意味。2017年9月6日に設立され、国際政治問題などを中心に取り上げている。

 6月9日時点のチャンネル全体の再生回数は3億110万回。冒頭の「中国が琉球の独立を支持すると宣言」という趣旨の動画は4月25日に公開された。

 動画のタイトルは「報應!中國剛剛正式宣布!支持琉球人民獨立建國!日本急瘋:質問中國憑什麼!秦剛亮出聯合國批文,震撼全球!」。

 訳すると、「報復!中国が正式に琉球の独立、国家建設を応援すると発表した!日本は狂っている。中国は何を根拠に応援かと疑う!秦剛が国連の過去の宣言を示し、世界に衝撃を与えた」となる。秦剛氏は中国の国務委員兼外相のことで、動画は6月9日時点で9万3千回再生されている。

照屋副知事と呉大使の面談を報じた琉球新報のニュースサイトを背景に「『琉球』の名称を復活させる」とのテロップ(「快看資訊」の動画より)

 動画は、玉城デニー知事や秦剛外相の写真と根拠不明のテロップを組み合わせた画像を流しながら、機械の音声でテロップを読み上げている。

 内容を一部抜粋するとーー 。

「(中国の)秦剛外相は、ポツダム宣言により、琉球は日本の領土ではないと話した」

「琉球新報によると、2023年3月31日に新任した呉江浩駐日大使は沖縄県の照屋義実副知事と面談した。面談は非公開だった。双方は『沖縄』という名称をとりやめ、『琉球』に復活させると決定した」

「照屋義実副知事によると、玉城デニー知事は今年の7月に中国を訪問したいと示した。(予定通りに訪問が実施されたら)これは非常に驚きの出来事だ。清朝消滅以降、(沖縄県知事の訪中は)なかったことだ。さらに、照屋義実副知事は、沖縄県は地域外交室の設立を準備しているとも明らかにした」

垂れ幕に書かれている内容は「中華民族琉球特別自治準備委員会が中華民族与党に琉球主権の行使を委託する」、テロップの内容は「沖縄県は地域外交室の設立を準備している」(「快看資訊」の動画より)

■台湾でもファクトチェック

 台湾のファクトチェック団体「台湾事実査核センター」(台湾ファクトチェックセンター)は5月2日、いち早く動画を検証して誤情報だと報じた( 記事>>https://tfc-taiwan.org.tw/articles/9092)。

 同センターの検証は以下。

(1)実際に記者が取材した内容がなく、すべて用意された画像に合わせながら機械音声でテロップが読み上げられている。

(2)直近の中国外務省や中国駐福岡総領事館、外務省などの公式サイトに「中国が琉球の独立を支持すると宣言」の情報はない。

(3)琉球新報は「中国と沖縄が県名を『琉球』に復活させると決定」といった報道はしておらず、中国と日本国内のメディア各社でも該当する報道は見当たらなかった。

 これらの検証結果から同センターは、動画はねつ造の内容であり、誤りの情報だと結論づけた。

■沖縄知事の訪中は「驚く出来事」?

 では琉球新報は実際にはどう報じたのか。照屋副知事と呉中国大使との面談を報じた3月31日付の記事では「照屋義実副知事は(中略)今後、玉城デニー知事が中国に訪問する際に中国側の要人との面談について協力を求めた」と記している。

 だが、動画が紹介しているような「中国と沖縄が県名を『琉球』に復活させると決定」との記載は一切ない

▼沖縄県副知事が駐日中国大使と面談、デニー知事の中国訪問に協力要請(3月31日の記事)

 沖縄県交流推進課は琉球新報の取材に対し、照屋副知事と呉大使の面談で「中国が琉球の独立を支持や県名を『琉球』へ改名と決定」した事実はないと否定した。また沖縄県としても「琉球」への改名を決定した事実もないとした。

友好県省締結20周年を祝し会談する翁長雄志知事(当時)と干偉国書記兼省長=2017年11月10日、中国・福建省

 動画では「玉城デニー知事は今年の7月に中国を訪問したいと示した。これは非常に驚きの出来事だ。清朝消滅以降、(沖縄県知事の訪中は)なかったことだ」との箇所もある。だが、玉城知事の前にも翁長雄志氏や仲井真弘多氏ら、歴代の沖縄知事が何度も中国を訪問している。

 ここまで挙げた誤認について、本紙は5月12日、動画の管理者とみられる「小快(シャアォ・クゥアイ)」の公式フェイスブックへ事実関係の確認と見解を求めたが、6月9日時点で返答はない。

 さらに中国駐福岡総領事館にも「中国政府は琉球の独立を支持」と「中国政府と沖縄県は県名を『琉球』に復活させると決定」という動画の内容について、5月29日から数回に渡り見解を求めたが、こちらも6月9日時点で返答はなかった。

 本紙は6月9日までに中国外務省や中国駐日本大使館、中国駐福岡総領事館の公式ホームページを確認したが、中国政府として琉球の独立を支持したとする記述は見当たらなかった。

(呉俐君)

注:中国駐福岡総領事館は本紙が指定した6月9日までの期限内に返答がありませんでしたが、返答が届き次第追記します。

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