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「奨学金」が必要、何から始めれば? 沖縄の民間企業5団体が実施するものも<比べる!備える!家計から出る教育費>(9)


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 家計で負担する教育費について取り上げるシリーズの第9回は「奨学金」について考える。

 昨年12月上旬、浦添市社会福祉センターで開かれた「給付型奨学金セミナー」の会場は、約250人の参加者が来場していた。参加者は主に県内高校1、2年生とその保護者ら。今後の進学に向けて奨学金が利用できるよう、選考で採用される理由書のコツ、面接時の注意点などの説明に真剣に聞き入っていた。

 北谷町から訪れた50代女性は「(大学は)貯金だけでは無理なので、奨学金の情報を学校などから収集している」と話した。一緒に訪れた高校2年生の息子は「県外の大学を目指している。(奨学金を)給付してくれる民間団体があることをセミナーで初めて知ることができた」とほっとしたような表情を見せた。

 高校2年生の娘のために会場に駆けつけた別の40代女性は「娘が0歳の時から学資保険に加入して100万円をためているが、大学進学の費用にしては足りない。給付型(奨学金)がもらえたら一番うれしい」と語った。

奨学金セミナーで熱心に情報収集する県内高校生やその保護者ら=2023年12月、浦添市

 県統計課が実施する毎月勤労統計調査の2022年平均は、物価上昇を加味した実質賃金の変動率が2年連続のマイナスとなった。

 沖縄県内の高校生の進学率は上昇基調にあるものの、増えない収入の中で子の進学に伴うさまざまな支出をどう賄っていくのか、家計の悩みは尽きない。全国各地で奨学金講演会を開催する奨学金アドバイザーの久米忠史さん(まなびシード代表)は「多くの家庭は、子どもの学費の負担が家計の限界を超えている」と話し、その上で「大学進学のためにもはや『奨学金』はなくてはならない存在だ」と指摘する。

 では、そもそも「奨学金」にはどんな種類があり、仕組みはどうなっているのか?返済の必要がない「給付型」を中心にまとめてみた。

「奨学金」のタイプ

 奨学金の実施主体は、大きく分けて「公的」なものと「民間」のものがある。公的なものは、国や県、市町村の行政などが行っている奨学金。民間は、公益財団や企業、またはその創業者などの資産をもとに基金を設立したり、寄付金などで運営されていたりする奨学金のことだ。

 さらに奨学金には返済が必要な「貸与型」(実質的に学生ローン)と返済の必要がない「給付型」の2種類に分かれ、そのうち貸与型には返済時に利息の付くものと付かないものがある。

 一般的に、奨学金の採用は学業の成績と家庭の収入をもとに審査されるが、採用基準は奨学団体でさまざまだ。

 奨学金アドバイザーの久米さんによると、奨学金の中でもっとも多くの人が利用しているのは、国の「日本学生支援機構」(JASSO)の奨学金だという。

■国の「日本学生支援機構」

 「日本学生支援機構」は2004年に国の奨学金事業を「日本育英会」から引き継いで設立された文科省所管の独立行政法人だ。2017年度から給付型が導入され、20年度にはその内容が大きくリニューアルした。高等教育の「修学支援新制度」として生まれ変わり、給付型奨学金に加え、進学先の入学金と授業料の減免も併せて行われるようになった。

 ただし、支援の実施主体はそれぞれ異なり、給付型奨学金による支援は「日本学生支援機構」が実施するが、入学金と授業料の減免は進学先の大学などを通して国や地方自治体が行う。

 この新制度を受けるには、まず同機構の給付型奨学金に採用されることが条件だ。給付型奨学金や入学金などの実施主体は異なるため、それぞれに手続きも必要となる。

 日本学生支援機構が公表した大学などの奨学生採用候補者数(2022年度進学予定者)によると、沖縄から同機構の給付型奨学金を利用している学生は4157人。文科省の資料によると22年3月の沖縄県内の高校(全日制、定時制)を卒業後、大学や短大、専門学校などを併せた進学者数は9701人となっている。

 奨学金アドバイザーの久米さんは「日本学生支援機構の給付型奨学金では、沖縄県の申請者の4割以上が採用されているのではないか」と推測する。

 奨学金に関する講演を県内で年間約70回実施しているという久米さんは「沖縄の給付型奨学金の採用割合は全国の中で最も高い」とする。その理由に「ひとり親家庭や所得の低い世帯が多い」ことを挙げ、加えて「沖縄の高校は他県と比べて奨学金の案内に熱心な傾向がある」と指摘する。

 沖縄県統計課によると、2022年3月に卒業した県内の高校生(全日制、定時制)の大学などへの進学率は44・6%で、調査が始まった1972年以降で最高となった。久米さんは「学力が向上しているほか、高等教育の修学支援新制度も寄与している」と話した。

■民間団体や企業の奨学金

 公的機関以外に、民間の各種団体や企業が募集している給付型奨学金もある。

 琉球新報の調べによると現在、県内の主な民間奨学金には(1)儀間教育振興会(2)久米国鼎会(3)折田財団奨学金(4)オリオンビール奨学財団(5)沖縄セルラー電話―が実施する制度がある。

(1)儀間教育振興会は、沖縄県に本籍または住所を有する者の子弟で、県出身の大学生・大学院生、各種専門学校学生、県内高校生、交通遺児学生(推薦枠)を対象に毎年計40人程度を募集している。

 1人につき月額2〜4万円を1年間分給付する。他の奨学金との併用はできない。募集時期は、年度初めの4月1日〜5月中旬だが、年度によって若干変動もあるという。

(2)久米国鼎会は、県内の高校3年生で、内申書の成績が平均3・5以上/世帯主の年収が500万円以下/他の給付型の奨学金を受けていないーの3条件を満たす学生が対象となる。貸与型奨学金との併用は認める。

 今年も約100人を募集する予定で、募集時期(目安)は5月1日〜6月2日までとなっている。金額は年額15万円。

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(3)オリオンビール奨学財団の対象者は、沖縄県の高校または特別支援学校高等部の卒業を予定して大学(短期大学は除く)に進学を希望する者/家族の年収の合計が年500万円以下で、経済的理由により大学進学が困難と認められる者―が条件となる。

 今年の募集人数は調整中だが、2022年に8人、21年に5人を採用している。募集時期(目安)は9月1日〜10月31日。金額は月額5万円を給付する。

(4)沖縄セルラー電話の対象者は、沖縄セルラー電話の携帯電話契約者/沖縄県内の特定離島中学校在学生および特定離島出身の中学3年生でかつ高校進学希望者/進学時に出身離島を離れ、親権者と別居する生徒―が条件となる。

 募集人数は上限200人で、募集時期(目安)は3月1日〜4月5日。他の奨学金との併用の制限はない。金額は月額5千円で、支給対象期間は高校在学中の3年間(総額18万円)。

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(5)折田財団奨学金は2種類の制度がある。「大学進学育英奨学生」は世帯年収500万円以内、奄美大島以南に居住する学生で、翌年4月に大学に進学する高校3年生を対象とする。24年度の募集人数は36人。募集時期(目安)は9月1日〜10月31日。年84万円(月7万円)を給付する。

 「離島育英奨学生」は高校のない離島から進学する中学3年生を対象とする。24年度の募集は150人。募集時期は2023年12月1日〜2024年1月31日。金額は初年度のみ20万円を給付する。

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面接や論文でのポイント

「民間」奨学金はさまざまあるが、採用されるための“コツ”はあるのか?奨学金アドバイザーの久米さんに聞いてみた。

奨学金アドバイザーの久米忠史さん=2023年12月、那覇市泉崎の琉球新報社

 まず民間の給付型奨学金は、応募者の作文や小論文を見ることが多いという。選考する際のポイントは(1)論理的な思考力と文章の表現力(2)将来の目標(3)現在の取り組みや熱意。

 さらに、作文や小論文の中に「奨学金を何に使うのか」「なぜ当財団なのか」を書くことができれば、「他者との差別化につながるかも」という。「自身の現状」を簡潔にまとめておくのもいいが、経済的な厳しさをことさら強調する必要はないという。

 久米さんは「奨学金の団体が求める人物像に合った作文を書けることは、大学の入試にも役に立つ。成長や将来の就職活動にもつながるだろう」と応募者を励ました。

 作文や小論文のほか、民間の給付型奨学金が重視する面接で面接官がみるのは(1)第一印象がいいか(2)真摯な受け答えができているか(3)誠実さ、素直さ(4)身だしなみ(5)論理的思考―の5点が挙げられるという。

 久米さんは「積極的に各民間団体に奨学金申請を出すのが重要だ。申請しなければ、チャンスはゼロだから」とアドバイスする。ただし「進学は目的ではなく、成長のための手段に過ぎない。何のために進学するのかを家族で何度も話し合ってほしい」と呼び掛けた。(呉俐君)

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