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英検、数検、漢検・・・過熱する「検定ブーム」 検定料は右肩上がり 市町村ごとの補助はばらつき <比べる!備える!家計から出る教育費>(7)


英検、数検、漢検・・・過熱する「検定ブーム」 検定料は右肩上がり 市町村ごとの補助はばらつき <比べる!備える!家計から出る教育費>(7)
この記事を書いた人 Avatar photo 熊谷 樹

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家計で負担する教育費について取り上げるシリーズの第7回は、英検などの各種検定の受験料について考える。

英語検定や数学検定、漢字検定は、小中学生にとって最も身近な検定だろう。高校入試や大学入試で有利になると考え、取得に意欲的に取り組む生徒も少なくない。

一方で、検定料は上昇傾向が続いている。特に近年の値上がりが著しい英検は、2024年度の検定料が200~700円値上げされることが11月に発表された。2002年度に900円だった5級の検定料は24年度から4100円に、2級は02年度の3500円が9100円になるなど、この20年間で2~4倍に跳ね上がっている。

市町村によって検定料の一部補助もあるが、ばらつきがある。加熱する「検定ブーム」の裏で、費用に頭を悩ませる保護者は少なくない。

挑戦10回、すでに出費は10万円超

沖縄本島内の私立高校2年の男子生徒は中学生の時に英検2級を取得した。入学した高校は英語に力を入れており、大学受験までに「英検準1級取得」が義務だ。入学から1年半、準1級の受験回数は10回を超えた。学校開催の試験だけでなくコンピュータで受験できる英検S-CBTも活用し、受験機会を増やしているが、まだ合格できていない。検定料は一般受験、英検S-CBTともに9800円。対策講座の受講も含めるとこれまでに出費は軽く10万円を超えた。

「2級まで問題なく取得できたので、2年もあれば準1級も取れるだろうと楽観視していた」50代の母親は話す。息子が進学を希望する大学は、英検準1級を取得していたら英語試験が免除となる。検定取得を応援しているが、結果発表の度に落ち込む息子を見るのは忍びない。検定料もばかにならない。「高校の方針を知っていて入学したし、受験で有利になるのも理解している。ただ高校生の大切な時期をここまで英検に費やすのはどうなんだろう…」とため息が混じる。

近年、私立大学を中心に大学入試での英検活用が広がっている。日本英語検定協会のホームページによると全国482校で英検を活用している。入試の統合選抜や学校推薦では出願資格として採用される例が増加。一般選抜でも取得級によって英語の試験を免除されたり、試験の点数に加点されたりするケースもある。高校入試では、特に推薦入試の自己表現の枠で資格取得等の活動の一つとして評価される。

識者からは、公平性を重視しなくてはならない入試制度で、地理的・経済的な理由によって受検機会の不公平が生じる民間資格である英検が活用されることを問題視する声も上がる。しかし受験戦争の中、英検はすでに「なくてはならない資格」となっているのが実態。生徒や学校側の取得にかける熱は高まる一方だ。

高騰する検定料 20年で4倍になった級も

各種検定とも受験料は上昇傾向にある。特に英検はここ数年の値上げが著しい。24年度は2級は9100円(同6900円)、準1級は1万500円となり、2002年時点では2級が3500円、準1級が4500円だったことと比較すると、約20年で2倍超の値上がりだ。5級に至っては900円から4倍以上の4100円になっている。

高校の推薦入試で実績として評価されるのは英検・漢検・数検ともに3級以上。それぞれ検定料(23年度)は英検3級が6400円(準会場4700円)、漢検3級、準2級ともに3500円(準会場2500円)、2級が4500円(同3500円)。数検は3級4900円、準2級5600円、2級6500円となっている。

受験機会は英検と漢検は年3回。数検は年間十数回の日程が設定されているが、団体受験は3回とする学校が多い。さらに英検の場合は、コンピューターを使用したCBT方式も2週に1度のペースで開催されている。入試対策として、できる限り受験したいと考える生徒も多い。だが、1度の検定で数千円から1万円以上の負担は保護者にとってばかにならない。

県内31市町村で検定料を補助

子育て世帯の負担を軽減するため、沖縄県内では41自治体のうち31自治体で在住の小学生や中学生に対し、検定料の一部もしくは全額の補助を実施している。補助がない自治体の中にも次年度以降の補助を検討している地域もある。補助のある自治体は全てで、保護者の所得で制限されない支援を実施している。申し込み段階で補助の差額分のみを徴収したり、無料で受験できるようにしたりするなど、より保護者の負担軽減に努める自治体が多い。

「全額補助」を実施しているのは石垣市や嘉手納町、多良間村など11市町村。多良間村や与那国町などの離島地域では3検定ともそれぞれ年に1度以上、全額補助しており受験機会の創出に力を入れている。多良間村では2021年度、中学3年生5人が英検準2級に合格し3級以上の保持者が学年の7割を超えるなど結果にもつながっている。

児童生徒の多い市部でも検定料の補助は行われている。沖縄市では中学生に対して英検・数検の検定料を年に1度半額補助、小学校6年生に対して漢検の検定料を年に1度半額補助している。併せて準要保護、要保護世帯の中学生には英検・数検ともに別途、年に1度、受験料の半額を補助。全員対象の補助と併用できるため「実質無料」にもできる。

北谷町では2011年度から英検を、2018年からは数検・漢検の半額補助を実施している。市町村立校の在籍者を対象とする自治体が多い中、公平性や機会均等の観点から町在住の児童生徒全てが対象だ。担当者は「保護者や学校からも高い評価の声が寄せられている。合否を問わず補助することでより上の級に挑戦する後押しとなっている」と力を込める。

補助の有無や濃淡に不公平感も

北谷町立中学校から県内の高校に進学した女子生徒の保護者は「娘が中学生のときには毎年英検を受験した。半額補助があったので、合格ラインギリギリでも(検定料を気にせず)挑戦するよう促すことができ、ありがたかった」と感謝を口にした。

一方、補助がない「那覇市」に在住し中学2年生の息子がいる40代の女性は「他の市町村に補助があるなんて初めて知った」と驚きを隠さない。息子が中学校に入学後、初めて担任と面談したとき「検定を取得しておくと内申書に書くことができる」と説明を受け、これまでに英検を2回、漢検を1回受験した。「当たり前のように自己負担で受けてきたのに…」と眉をひそめる。「高校入試は校区外でも受験できる。検定結果を内申書に反映するのなら、県内すべての子どもに同じように補助すべきではないか」と疑問を投げかけた。

補助が必要な子へ周知徹底を

沖縄国際大学経済学部准教授の照屋翔大さん

沖縄国際大学経済学部准教授で学校経営学・教育行政学が専門の照屋翔大さんは、英検をはじめとした民間検定の取得がここまで加熱している現状に疑問を投げかける。

「英検をはじめとした検定試験は個人の学習到達度を測るもので、取得のために努力したプロセスや取得級に応じた力がついていることを認め、励みとすることが目的ではないのか。入試での活用が過度に広がることは、級の取得が大学合格のための手段にすり替わってしまう」と警鐘を鳴らす。

自治体による検定料の補助について「市町村で補助内容等にばらつきがあることに、不公平感、不平等感を抱くことは否めない」と保護者の心情に理解を示しつつも「施策の重点は自治体によって異なる。民間検定の取得に対しどこまで行政として補助すべきか、一律な線引きは難しい」と指摘する。

また、照屋さんは「入試は最も公平性が担保されなくてはならない制度」と強調。地理的・経済的理由で受検機会に不公平さが生じうる中で行政が補助することは、結果的に入試における不公平さが拡大する可能性があることも危惧する。

一方で、照屋さんは、所得制限なしに補助を行うことで、低所得層には当たらないが生活は厳しい世帯も活用できることを高く評価する。その上で、教育格差を埋めるための事業と考えるならば、補助がなくては受験できない世帯の子どもが利用できているのか確認する必要があると指摘。「補助が必要な子どもたちやその保護者にはこれらの情報が届いていない可能性がある。活用してもらうためにも、情報の周知徹底が必要だろう」と話した。(熊谷樹)

(隔週金曜日掲載)

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