制服や学用品、給食費など、家計で負担する教育費はたくさんある。特に、小中学校では「義務教育なのになぜ、こんなにお金がかかるのか」と思う読者は少なくないのではないか。必要な物をそろえるため、少しでも費用を抑えるためにどのような手段があるのか。保護者の率直な声を聞いた上で、家計の参考になる選択肢や教育費の動向、背景などについて、シリーズ企画で紹介する。(隔週金曜掲載、次回は「高校までいくらかかる?」をテーマに9月29日公開予定)
沖縄本島中部に住む男性(47)は、長女が今年、地元の公立中学校に入学した。入学説明会で配られた冊子を男性が開くと、制服や体育着、体育館シューズなどの値段が細かく記されていた。必要なものを合計していくと、学校指定の着衣や履物などだけで約10万円に上った。大学1年の長男や小学3年の次男もいるが性別も年齢の差などもあり「お下がりも難しい」という状況で、負担の大きさを実感したという。
10万円の主な内訳は次のようになる。まず夏用セーラー服(上着)が7700円、夏用スカートが7550円で上下で計1万5250円。毎日、洗濯しながら交互に着ていくとしても1着では足りない。最低限の2着を購入すると、夏服だけで合わせて3万円余。
さらに夏服に合わせたネクタイが950円。これにネーム入りジャージ1万350円、水着5千円や帽子640円、スリッパ1670円、体育館シューズ3050円、体育着は上着の半袖を2着、長袖を1着とズボンを買い、約1万2千円で、年度初めまでに6万円余を出費した。
加えて8月から9月までの間に、制服の冬服も注文する必要がある。冬用セーラー1万500円と冬用スカート8750円を2着買い、冬用のネクタイを合わせると冬服だけで合わせて約4万円が必要になるという。
制服のリサイクル店も広がっているが、子どものことを思うと「知らない誰かが着たものを子どもに着せるのはちょっと(はばかられる)」と感じ、冬服も新品を購入する予定だ。
費用は抑えたいが、子どものことを思うと、中古品には手を出しづらい心境になる場合や、制服のリサイクル店の情報を、どこで得たらいいのか分からないという人もいる。
制服の価格動向はどうなっているのか。公正取引委員会が2017年にまとめた「公立中学校における制服の取引実態に関する調査報告書」では「入学に当たって準備する品目の中でも比較的高額」「制服の販売価格は近年、上昇傾向にある」と指摘する。
同報告書は「学校も制服の購入者たる生徒の保護者の経済的負担を軽減させる観点から取り組みを行っている」と記す。しかし、調査した学校の中には「複数の取扱販売店が連名で統一販売価格が記載されている制服の販売に関する案内文書を作成し入学説明会で配布している事例」もあったとして、価格競争が働かず、価格が高くなる恐れがある例も確認されたという。
新品制服の価格は近年、高くなる傾向がある中、制服リサイクル店では、どうだろうか。沖縄最大の約2万点のリサイクル制服の品揃えがあり、多くの中学・高校の制服をカバーしている「学生服リユース・リサイクルショップ ゆいまぁる」(浦添市)を訪ねた。
店内に入ると、山内中学校、港川中学校、豊見城高校、コザ高校、前原高校など、中学校や高校の名称ごとに制服が所狭しと並んでいた。新品なら約2万円の学生服が、3千円~5千円での値段で購入できる。利益が目的ではなく、少しでも家計を支援したいと考え、新品の制服の価格が上がっても、なるべく価格を維持するように努力している。
同店は、代表の與那城寿恵子さんが2016年に浦添市内のアパートの一室で始めた。自らも子育てをする中、沖縄の子どもの貧困についての深刻な報道に接し「自分にできることを模索した」結果、学生服のリサイクル店を開業した。不要になった制服の買い取りや寄付を受け付け、洗濯や刺しゅう外し、手入れなどをして、きれいな状態で販売している。
価格は例えば1着約2万円の学生服やブレザーが3千円~5千円、約1万円のズボンやスカートを2千円、約4千円のワイシャツを700円で販売するなど、定価の約2割前後の安さで購入できる。制服が傷まないように温度や湿度を保つため、閉店時もエアコンで空調を管理する。
中高校の冬服の注文は8~9月までに受け付けることが多い。取材中も、冬用の学生服などを買い求める利用客の姿があった。中学校1年生の息子と一緒に初めて来店した50代の女性=那覇市=は「毎日着けるワイシャツは、傷むのも早いので、3枚目、4枚目を(リサイクル品で)検討して、見に来た。(1人息子なので)きょうだいからのお下がりもない」と話す。同店代表の與那城さんからの説明を聞きながら、商品を手に取り「きれいな状態だね」と品定め。その日は購入せずに持ち帰って検討するという。
同店を切り盛りする與那城さんは「まずは気軽に見にきてもらえたらと思う」と話す。利益優先の企業ではないため、リサイクル店同士の連携は比較的やりやすい。
手軽な値段で提供して家計を支援することが目的のため、県内のリサイクル店同士で情報を共有して自店に在庫がない場合は他店を紹介し、互いのホームページでも店舗情報のリンク先を掲載し合うなど、つながっている。
県内各地にそうしたネットワークが広がりつつある。その一つ、名護市環境企業組合が取り組む「学生服リユース(再利用)事業」の拠点「名護市エコステ3Rなごころ」は、名護市内の小中高校を卒業する児童・生徒の制服や式服の寄付を募り、手軽な値段で再利用し販売している。毎年、協力した小中高校へ感謝状や寄付金を贈り、還元している。
沖縄市には「学生服リユース子ども応援団 笑びん」や「ROCO(ロコ) 制服リサイクル」がある。本島中部を中心に、中高校の制服をリサイクルし、低価格で販売している。豊見城市には、学生服の買取販売店「すまいる」が2020年に開店し、豊見城市の中高校を中心に本島南部のリサイクル制服を扱っている。
子育て中の女性らが運営して全国に約60店舗のパートナーを構え、制服のリサイクルに取り組む「さくらや」というネットワークがある。沖縄県内では、2022年7月に宮古島市の宮古ガスが「さくらや」とパートナー契約し「さくらや宮古島店」を開業した。さらに本島内に「さくらやおきなわ1号店」を開店する準備も進む。
各店で利用客は1着は新品で購入し、2着目をリサイクル品にする組み合わせの買い方が増えているという。国連のSDGs(持続可能な開発目標)の考え方の普及もあり、中古品を着ることへの抵抗を感じる生徒が減っているとの声も各店から聞かれた。
小規模で地域密着の店舗もある。その一つ「学生服リサイクル 大和商会」は那覇中学校の正門のすぐ近く。那覇中や同校を卒業した生徒が多く進学する高校の制服に特化した再利用の制服販売に取り組む。那覇中学校卒業生でもある上原隆さん、慶子さん夫妻が営み、アットホームな雰囲気が特徴。駄菓子や缶詰の食料品なども販売し、子どもたちや地域住民らが気軽に立ち寄る憩いの場にもなっている。隆さんは「制服リサイクル店が地域に一つずつあれば、うまく連携できると思う。体が続く限り、続けたい」と思いを語る。
2020年以降の新型コロナウイルス禍に伴い、人の交流が減る中で「(親せきや友人、知人らの)お下がりのネットワークも減っている」実感があると話す「リサイクルショップ ゆいまぁる」代表の與那城さん。県内で最も多い制服リサイクルの在庫があるが、それでも「すべてのサイズがあるわけではないが、問い合わせいただけたら、他の店舗の情報も紹介できる」と呼びかけた。(古堅一樹)
県内の制服リサイクル店
(2023年9月現在)
店名 | 住所 | 情報発信 | 電話番号 | 対応地域・学校 |
名護市エコステ3Rなごころ | 名護市大東1ー1 | ブログ インスタ FB | 0980(43)0254 | 本島北部 |
学生服リユース子ども応援団笑びん | 沖縄市美原1ー18−1 | HP LINE FB インスタ ラジオ | 090(6860)3755 | 主に本島中部 |
地域協力店 笑びん2ちゅー | 沖縄市上地1-8-13 | LINE | 090(8392)8816(照屋) | コザ中、安慶田中、山内中、越来中、コザ高、球陽高 |
制服リサイクル・リユースROCO(ロコ) | 沖縄市泡瀬2ー42ー20 | インスタ | 090(3795)1314 | 主に本島中部 |
学生服リユースリサイクルゆいまぁる | 浦添市宮城5-6-2きたなはマンショ105 | HP LINE インスタ FB | 080(2790)4982 | 中南部を中心に本島全域 |
学生服リサイクル 大和商会 | 那覇市松山2ー25ー8 | HP | 098(868)8131 | 那覇中、上山中、那覇商業高、那覇高、小禄高、那覇工業高、那覇西高 |
学生服の買取販売店すまいる | 豊見城市嘉数489ー11 | インスタ | 070(3800)4360 | 豊見城中、伊良波中、長嶺中、豊見城高、小禄高、那覇高、向陽高、糸満高、南部農林高 |
さくらや宮古島店(宮古ガス) | 宮古島市平良西仲宗根2−39 2階 | インスタ ブログ | 0980(72)4935 | 宮古島市内の中学・高校 |
さくらやおきなわ1号店 | 実店舗を準備中(本島中部に予定) | HP | 080(2344)0761 | 本島中部 |
私自身、5歳と2歳の息子がいる。子どもたちが今後、幼稚園や小中高校などへ進学していく中、教育費がどのぐらい必要で、どんな風に準備した方がいいか。自分の中の疑問や不安が取材のきっかけになった。
初回で取り上げた制服は、誰もが「高い」と思いつつ、入学したら家庭で購入しなければならないものの一つ。安く購入できる選択肢の一つとして、制服リサイクル店が一目で見られるようにまとめた情報は少ないなと感じ、「じゃあ、調べてまとめてみよう」と思い、一覧表を作成してみた。まだ紹介できていない制服リサイクル店もあるかと思う。ぜひ情報を寄せていただければ、一覧の情報に追加・更新したい。
このシリーズ企画では今後も、保護者の疑問や困りごとなどを出発点に取材を進める。家計負担を軽減する選択肢も紹介すると同時に、そもそも現状の仕組みについての課題や改善できる点などへの問題提起も含めて記事化していきたい。
比べる!備える!家計から出る教育費 記事一覧
- (1)【制服リユース店の一覧表あり】中学入学時、制服や体育着など計10万円 リサイクル品は8割安も
- (2)幼小中高の学習費は最高水準 変える一歩は100円から
- (3)算数セット、習字セット、彫刻刀… 数回の利用で自宅に眠る
- (4)「子どもの夢」と「親の懐事情」 こんなにかかる!?義務教育後の教育資金
- (5)進むICT教育 1人1台購入、最大5万4000円 高校の学習端末
- (6)通学に「困る」 バス代負担、進学先選びに影響も 沖縄県の支援策とは
- (7)英検、数検、漢検・・・過熱する「検定ブーム」 検定料は右肩上がり 市町村ごとの補助はばらつき
- (8)国家試験「技能検定」受検料が6200円→1万5200円 高校生ら減免対象外に
- (9)「奨学金」が必要、何から始めれば? 沖縄の民間企業5団体が実施するものも
- (10)わが家に適した奨学金、どう選ぶ? 情報の入手先と注意点とは
- (11)一大イベントも、保護者にとっては大きな負担 行き先は中学校で九州、関西へ