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算数セット、習字セット、彫刻刀… 数回の利用で自宅に眠る<比べる!備える!家計から出る教育費>(3)小学校の学用品


算数セット、習字セット、彫刻刀… 数回の利用で自宅に眠る<比べる!備える!家計から出る教育費>(3)小学校の学用品
この記事を書いた人 Avatar photo 古堅一樹

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 算数セットや習字セット、裁縫セット…。小学校の授業で使用し、卒業後は使われないまま自宅に眠る学用品がある人も多いだろう。家計から出る教育費について考えるシリーズの3回目となる今回は、小学校で使う学用品について考えた。

学校の教室(資料写真)

「全員購入を」の注意書き

 今年1月。本島南部の小学校で、4月に入学する新1年生の保護者向けに配布されたA4用紙にまとめられたお知らせ。学用品販売については「算数セット2800円」とあり、注意書きとして「※全員購入をお願いします」と記されていた。算数セット用の名前シールは、希望者が購入する形式だ。

 大学1年の長男、中1の長女、小3の次男がいる本島中部の男性は自宅に、子どもたちの進級・進学に伴い、使わなくなった学用品がたくさんある。長女が小学校で使った習字セットや鍵盤ハーモニカは次男へお下がりで使用することができた。

 しかし、大学1年の長男が小中高校で使うために購入した算数セットや習字セットは、長女や次男とは年が離れてセットの内容も少しずつ違ってきたため、お下がりとして使用できずに残っている。授業でも使う数が少なく、新品同様に見える彫刻刀セットもある。

 男性は「 単年しか使わない物は購入する必要があるのだろうか。学校でそろえて、備品としておいてくことはできないか」と疑問を投げかける。 

算数セット、15年で1700円→2800円に

 学用品の価格は上昇している。プラスチック製品などの原材料の高騰や、運送費送料の値上げなどに伴い、メーカー定価が値上がりしている状況だ。県内業者によると、例えば算数セットは15年前は約1700円だったが、現在は約2500円~約2800円に上がった。鍵盤ハーモニカは15年前は約3700円だったが、現在は約4800円に上がったという。

 こうした中、学用品の購入について、少しでも保護者の負担軽減につなげようという取り組みも始まっている。学友館(宜野湾市)は2022年8月から、子どもが進級・進学するなどして、いらなくなった算数教材を家庭から回収し、小学校低学年の学級に無償で貸し出す仕組みを始めた。

 保護者が来校する授業参観日や図書販売時などの際に回収したり、小学校へ協力を依頼して教室に回収箱を設置したりして、不要になった算数教材の提供を呼びかけた。小学校1年生の授業で使う算数セットのうち、時計や竹ものさしなどを回収した。回収にあたっては、算数教材の提供した場合、交換品として小学4年生の算数で使う分度器と交換すると告知し、協力を促した。

不要になった算数教材の回収へ協力を呼びかけた案内文
不要になった算数教材の回収へ協力を呼びかけた案内文

 回収した算数教材の貸し出しを始めたのが2023年4月だ。那覇市や浦添市、読谷村など約20の小学校へ時計や竹ものさしなどの教材を貸し出した。

 この取り組みを提案したのは、学友館の取締役・営業部長の島袋悟さん。きっかけは、テレビのニュースで、那覇市長選の立候補予定者に向けた、小学4年生の児童による質問を聞いたことだった。

 児童は「入学の時に、算数セットとか鍵盤ハーモニカなどを一つ一つ買ってくださいって言われる。しかし、2年生までしか使わない。もったいないと思うが、どう変えていこうと思いますか?」と聞いた。小学4年生の質問に対し、立候補予定者らは貸し出し制度やリサイクルなどを活用していく大切さを語っていた。

 島袋さんは「この時の子どもからの意見を聞いて、何かできないか」との思いを強くし、玉城聡社長に相談すると賛同を得て、取り組むことになった。同社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みを進めることを2022年8月に宣言したことも踏まえ、社員に提案した際も前向きに取り組みたいとの反応でスムーズに進めることができたという。

 学校側からも需要を実感し、島袋さんは「思った以上に、反応は良かった」と話し、継続していきたいと語る。算数セットは全てそろった商品なら約2500円~2800円だが、一部を貸し出しで利用することで、約500円~1000円の節減につながるという。

貸し出し導入で1000円節減も

 実際に再利用品の貸し出し制度を活用する学校の反応はどうか。ある県内小学校は、2022年度まで、1年生が購入する算数セットには時計や数え棒などを含め、約10種類の教材が入り、2650円だった。

2022年度までの1年生が購入した算数セット(右)と、貸し出し制度を利用するため、購入する教材を3種類に絞った23年度の1年生の算数セット
2022年度までの1年生が購入した算数セット(右)と、貸し出し制度を利用するため、購入する教材を3種類に絞った23年度の1年生の算数セット

 一方、23年度の1年生は、貸し出し制度を活用するため、算数セットとして購入するのはよく使う計算カード、色板・数カード、ブロックの3種類だけにとどめ、購入額は1650円と1000円減った。購入していない時計や数え棒、ホワイトボードなどは貸し出し制度を活用して授業を進める予定だという。

 1年生の担任教諭らは「毎年、保護者の負担を減らすためにいかに安く買えるか考えている。先生方も子どもがいるので、保護者の気持ちが分かる」と明かす。貸し出し制度については「良い取り組みだと思う」と話し、家計負担の軽減につながる取り組みの継続や広がりにも期待した。
(古堅一樹)

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