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幼小中高の学習費は最高水準 変える一歩は100円から<比べる!備える!家計から出る教育費>(2)高校までいくら?


幼小中高の学習費は最高水準 変える一歩は100円から<比べる!備える!家計から出る教育費>(2)高校までいくら? 学費〔イメージ)
この記事を書いた人 Avatar photo 古堅一樹

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 家計で負担する教育費について取り上げるシリーズの2回目。今回は、子どもが幼稚園や小中高校へ順次、進級・進学していくと、そもそも家計で負担する費用の金額はどのぐらいになるのかを取り上げる。国の調べによると、授業料や学用品代、給食費、学習塾代などを合わせた「学習費」は公立、私立ともに上昇し、何と過去最高の水準になっているのだという。費用を工面する子育て世代にアンケートするとともに、「隠れ教育費」にまつわる問題を指摘する識者に話を聞いた。

公立高1年は62万円、公立中1年は42万円

 文部科学省「子供の学習費調査」の直近の結果(2021年度)によると、幼稚園から高校まで全て公立校に通った場合、授業料や学用品代、給食費、学習塾代などを合わせた「学習費」は総額574万円。前回調査の18年度(541万円)より33万円増え、06年度以降で過去最高となった。

 一方、幼稚園から高校まで、すべて私立校に通う場合は1838万円で、すべて公立校に通った場合と比べて1264万円高く、3・2倍の費用がかかる。前回調査の18年度(1830万円)より8万円増え、こちらも過去最高だった。

 調査は、沖縄を含めて全国から抽出した保護者約2万7千人へのアンケートを基に、21年度の1年間に支出した学習費の学年ごとの平均額について15年分を合計した試算だ。

 学年別の学習費は、公立小学校の1年生は37万9539円、公立中学校の1年生は53万1544円、公立高校1年生は62万9459円など。入学当初の学年は制服や学用品など準備する物も多く、中間の学年よりも高くなる傾向がある。

 文科省調査の学習費の総額には、塾代など学校外教育費も含まれる。では、そうした学校外教育費は除いた形で、年間に負担する学校教育費と学校給食費の合計はいくらか。1年間の負担として、公立小学校で10万4984円、公立中学校で17万19円となった。

 すべて公立校に通い、塾などには通わなかったとしても、毎年生じる家計にとっての負担は少なくない。子どもが増えるとそれだけ負担も増す。

制服、給食費の軽減を求める声が多数

 家計負担の中で、特に軽減してほしいのはどんな部分だろうか。琉球新報は、無料通信アプリLINE(ライン)の公式アカウント登録者らを対象にアンケートを実施した。対象は小中高校生の子どもを持つ保護者。65人から回答を得た。

 「家計で負担する学校教育費の中で、最も負担を軽減してほしいと感じるのは?」との質問に、最も多かった回答は「制服」26.2%、次いで「給食費」20%となり、この二つで半数近くを占めた。

 「学用品(授業で使う筆記用具、絵・習字用具、算数セット、パソコンなど)」10.8%、「交通費(バス代など)」と「通学用品費」(ランドセルなど)がいずれも7.7%ずつだった。

 最も多かった制服について軽減してほしいと回答した保護者からは、ブレザーなどのおしゃれなデザインになり、従来の学生服が使えなくなってきていることが、お下がりや再利用を難しくしているとの声が聞かれた。

 中3、高3の子どもがいる50代の女性は「制服はお金がかかる。昔のようにどの学校も学ランや白シャツであれば、お下がりもきくし、お金もかからずすみます。デザイナーのオシャレなブレザーとかいらないんです!」と率直な声を寄せた。

自宅に「算数セットが四つもある」

 給食費については、市町村の方針や家庭の経済状況などに関わらず、無償化してほしいとの声が上がった。「給食費は毎月かかるので、負担が減ると助かる」(中1、中3の子どもを持つ40代の女性)との声が寄せられた。

 小4、小6、中3の子どもを持つ40代の女性は「給食(の制度そのもの)は大変有難く感謝している」とした上で「支援世帯への減額や、未納者の方もいて不公平感がある」との実感を記した。給食費(の無償化)ならば、経済的な状況にかかわらず、負担が軽減されるということで「手続きの手間も省けるし確実にどの世帯にも支援は行き届くと考える」との声もあった。

県内の小学校で使い終えて、自宅に残る算数セットの事例

 県は2025年度から第3子以降の学校給食費の無償化を検討し、26年度からは全小中学校の給食費完全無償化を目指している。完全無償化に必要な50億円以上の財源について、県は国や市町村と調整するという。少しでも早く無償化を実現してほしいというのが保護者の率直な声だ。

 「子供が5人いる」という40代の女性は「算数セットが四つもある」と話し、学用品の負担を軽減してほしいと訴える。「1年生になるとカスタネット、のり、ハサミなどあれこれとセットになって入学式の際に1万円を払わなければならない」のが現状で、全部まとめて支払う仕組みになっていることを指摘。自宅にある学用品は、お下がりで対応できるように教員へ相談する考えだという。

第一歩は「これって変だよね」と問い直すこと 

 保護者が疑問に思っていることを遠慮せずに発信していくことの重要性を説くのは、「隠れ教育費」の共著もある千葉工業大准教授(教育行政学)の福嶋尚子さんだ。自らも子育ての中で教育費について疑問を感じ、公立小中学校でかかるお金について検証した福嶋さんは、家計で負担する教育費について「全体像が見えづらい。保護者も、徴収している学校も、何のために払っているか分からない費用もある」と指摘する。

福嶋尚子さん

 「金額も重要だが、負担感の方が重要だ。金額が高くても、妥当だと思うのか、たった100円でも無駄なものを買わされているという感覚なのかによっても違う」と保護者の心理を表現する福嶋さん。著書でも「当たり前と思って払ってきた学校の<モノ>と<コト>にかかる費用-。しかし『それって本当に当たり前?』と問い直すための視点を紹介し、提案してきた」と記す。

 「これって変だよねと思った人は他の人にも伝えることで、気づきの共有になると思う。『これって変だよね』と言われた人も『こんなこと思ってもみなかった』と捉える場合がある。(当たり前のことを問い直し、改善していくための)第一歩として重要なことだと思う」と捉えている。

 その上で、福嶋さんは「給食費の無償化など、政治的な働きかけで国から財源を獲得する場合や、学校や保護者で対話して変えることができる制服や学用品など「(教育費の)種類によって出口が違う」とも話す。身近なところから疑問を共有し「何百万円ではなく、まずは100円からでも変えていくといい。100円でも、10円でも減らすことができれば大きい」と対話を広げていく大切さを強調した。

(古堅一樹)


識者に聞きました
福嶋尚子さん 千葉工業大学准教授、「隠れ教育費」著者

 例えば家に「算数セットが四つある」というのは、無駄だと誰が聞いても分かる。学級に算数セットを備え付けておくことができたら解決できる。実際にクラスに備え付ける取り組みをやっている学校もどんどん増えている。

 学用品を「授業の中で何回使うのか」は先生しか知らない。例えば、年間8回しか使わない場合、8回のために何千円はどうなのかという議論になる思う。個別具体的にそうした議論していく、対話をしてくことでしか減らせない。

 公費が出ないことを前提にしないといけないわけではない。学校現場や保護者から「こういうニーズがある」「ここはいらないと思う」などの声がないと、校長先生もなかなか公費として、予算要求はできない。やはり保護者から声をあげていくということは、実は校長の背中を押すことにつながる可能性がある。協力して子どもたちの学習環境を整える方向につなげてほしい。

 図工で使う色画用紙や書写で使う半紙、学級だよりの紙なども保護者から集めた費用で購入する場合がある。紙まで保護者が負担するのか議論した上で、公費で負担することが決まれば、今までそのために毎月集めていた100円を集めなくてもよくなった事例がある。たかが100円だが、されど100円だ。

 教育費について「これを言ってしまうとクレームになるかな」と遠慮している保護者がとても多いと思う。この話題は、どうしても学校と保護者が対立してしまうような構図になりがちなので気をつけている。そうではなく、必要なものについては学校から行政へ「予算をください」と求めるための味方になるための対話だと思う。子どもたちの学習環境を整えるための味方なんだという気持ちで、お互いに対話できることが大切だ。

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