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国家試験「技能検定」受検料が6200円→1万5200円 高校生ら減免対象外に <比べる!備える!家計から出る教育費>(8)


国家試験「技能検定」受検料が6200円→1万5200円 高校生ら減免対象外に <比べる!備える!家計から出る教育費>(8)
この記事を書いた人 Avatar photo 熊谷 樹

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家計で負担する教育費について取り上げるシリーズの第8回は、専門高校・専門学科で取得を目指す資格試験への補助について考える。

工業や農業、商業を専門的に学ぶ専門高校では進学や就職を見据え、学校を上げて資格取得に力を入れている。しかし近年、新型コロナウイルス禍や物価高の影響で資格試験受験料の値上げが相次ぐ。

特に国家試験「技能検定」は国の減免措置の縮小に伴い、2022年度から学生はこれまでの減免分9000円が自己負担になった。高校生も多く挑戦する技能検定3級の検定料は6200円から1万5200円に、2級は1万2300円から2万1300円に改定された。専門高校の担当教諭は「あまりに負担が大きい。生徒全員に勧められる値段ではなくなった」と頭を抱える。

負担2倍以上に、高校生に大きな影響

技能検定は働く上で身に付ける技能の習得レベルを評価する国家検定制度で131種類の試験がある。検定によっては専門高校の授業カリキュラムとリンクしていることもあり、授業や補講で技術を磨き高校で3級を取得する生徒も多い。

技能検定の検定料は学科試験が3100円、実技試験が1万8200円の計2万1300円。厚生労働省は2017年度、ものづくり分野に従事する若者の育成・確保を目的に、35歳未満の2、3級受検者を対象に実技の検定料を9000円減免する措置を始めた。3級には6100円の学割もあるため、3級を受検する高校生は学科・実技合わせて6200円で受検することができた。

2022年度、厚生労働省は新型コロナ対策等で目減りする「厳しい雇用保険財源を踏まえ」、減免対象者を「25歳未満の雇用保険被保険者」に縮小し、高校生は対象外となった。3級の受検料は9000円増の1万5200円(学科・実技)、2級は一般受検者と同じ2万1300円(同)となった。

技能検定を運営する沖縄県職業能力開発協会によると、減免措置が始まって以降、増加傾向にあった2、3級受検者数は22年度、前年度比254人減の931人となった。そのうち高校生の受検者が789人から559人と230人も減少しており、負担増の影響は数字として表れている。

国の減免縮小を受け、岐阜県や愛媛県、宮崎県など一部自治体では負担増となった高校生らに対し、独自に減免措置を実施している。一方、沖縄県では独自の支援策はない。

厚労省は学生への減免措置復活を求める声を受け、現行の減免措置を廃止し、2024年度から23歳未満の3級受検者に対し在職者は実技検定料を2分の1(9100円)、学生は4分の1(4500円)の減免を行う方針だ。

課税、非課税問わず「困窮世帯」を支援

ゆめ・みらい基金が発行している「基金レポート」。2023年度版には「資格試験を希望する生徒が減ったのは金銭的な面も考えられる」「3級技能検定の受験料が急に昨年の4倍と高額となり、経済的に諦めかけていたところ、基金を活用して受験することができた」などの声が寄せられている。

技能検定などの資格試験の受験料が値上がりする中、専門高校生の職業資格取得を支援する取り組みとして、「ろうきん こくみん共催coop  働く仲間のゆめ・みらい基金」がある。同基金は2016年、沖縄の貧困対策を目的に創設され、県労働者福祉基金協会が運営する。高教組と連携し経済的に厳しい世帯の高校生に受験料の補助を行っている。

専門高校と職業学科を設置している普通高校の生徒を対象とし、1学年度1人当たり総額5万円を上限に補助。離島の高校生が本島開催の資格試験を受験する場合は、航空運賃・宿泊費として上限3万円を支援している。

同基金は、非課税・課税問わず困窮世帯の生徒を対象に支援する。費用の捻出が厳しいと相談してきた生徒だけでなく、経済的理由で受験を諦めている生徒など、担当教諭から見て支援が必要と思われる生徒が対象だ。

支援への申請件数は2018~2021年度は30件台を推移していた。それが22年度は103件と前年度比2.7倍に跳ね上がった。給付金額も225万287円(前年度比41万6521円)と同5.7倍となっている。23年度も10月末時点で前年度同月比28件増の89件の申請があり、増加の一途をたどる。

事務局の県労働者福祉基金協会の担当者によると、技能検定の減免措置が縮小した22年4月は問い合わせが殺到したという。例年、数人程度だった技能検定への補助申請が「クラスの半分以上に上った学校もあった」と説明する。

その上で「数千円の負担も厳しい家庭が増えている印象がある。資格取得できず希望する企業への就職を諦めざる得ない生徒は少なからずいるのが現状だ」と指摘。「頑張る生徒が報われる仕組みが必要だ。支援を必要とする生徒は担当教諭を通して申請してほしい」と呼びかけた。

「全員受検」呼びかけ難しく

技能検定のパンフレットと沖縄県職業能力開発協会発行の受検案内

実際に技能検定に取り組む学校現場はどのように感じているのだろうか。

沖縄県内の専門高校に勤める教諭は、2022年4月に公表された技能検定の前期受検案内で受検料の値上がりを知った。「事前に連絡もなかったからびっくりした」と振り返る。当時の勤務校で教諭が担当する検定の受検者は例年4、5人いたが、22年度の希望者はゼロ。「受検料増が影響したかもしれない」と顔をくもらせる。

23年度、別の専門高校に転勤となった教諭は、同じ技能検定を担当。新年度すぐに受検希望者を募ると同時に、受検料と材料費合わせて3級で2万5000円、2級で4万5000円の費用負担があることを伝えた。申し込み者のうち支払いが滞っていた3人から「費用が払いきれない」と打ち明けられ、教諭は高教組を通して「ゆめ・みらい基金」に申請。3人とも受検料の全額補助を受けることができた。試験終了後、クラスの生徒から個別に話を聞くと、「検定の支払いが苦しかった」「頑張ってアルバイト代から出した」という声も寄せられたという。

「受検料は基金からの補助があるが、材料費などの講習にかかる実費は自己負担。物価高騰が続く中、材料費も値上げせざる得ない」と声を落とす。2級受検を希望していた生徒の中には、実費を捻出できないため受検を諦めた生徒もいるという。

教諭は「受検料が6200円ならば、3級を取得して高校卒業しようと呼びかけることができた。だが、ここまで値上がりすると全員に呼びかけるのは難しい」とため息が混じる。

「生徒の中には申請できず、アルバイト代やお年玉で受検料をまかなう子もいる。以前のように受検する高校生全員への補助があればありがたい」と力を込めた。

業界、OBによる支援も

専門高校生が取得を目指す資格は技能検定だけではない。ビジネス系、IT系、建築・土木系など幅広い分野で在学中や卒業と同時に挑戦できる資格がある。ゆめ・みらい基金の支援だけでなく、関連業界や高校OBらが資格取得を応援する取り組みも行われている。

沖縄県建設業協会は県内の工業高校6校の建築系学科と土木学科の生徒に対し、建設業経理事務士4級と3級の受講料と受験料(支援額それぞれ3000円、7000円)、小型車両系建設機械運転特別教育の受講料(同8690円)、2級土木もしくは建築施工管理技士講習の特別講座受講料(同1万円)の支援を行う。

同協会総務部の呉屋秀裕さんは、補助に力を入れる理由として業界の慢性的な人材不足を挙げる。「業界は若い専門性のある人材を求めている。高校生のうちに補助を活用して資格を取得し、建設業界に就職してほしい」と力を込める。

120年以上の歴史を持つ北部農林高校では、同校卒業生で構成する後援会が後輩の資格取得を支援する。在学中に受験する資格試験について5000円未満は全額、5000円を超える場合は一律5000円を補助している。2022年度は延べ964人に補助した。後援会理事長の宮城博さんは後輩に対し「補助を活用し多方面で活躍してほしい」とエールを送った。(熊谷樹)

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