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2023年12月に発生した米兵少女誘拐暴行事件で、わいせつ誘拐、不同意性交の罪に問われた米空軍兵長の被告(25)の第2回公判が8月23日、那覇地裁(佐藤哲郎裁判長)で開かれた。
「自分が犯してしまった罪の重大さを分かってほしい」。30秒近くの長い沈黙の後に絞り出した少女の痛切な一言。検察側証人として出廷した少女は7時間30分にわたる尋問でつらい記憶と向き合うことを強いられた。専門家らからビデオリンク方式ではなく、遮蔽(しゃへい)措置のみで実施することへの疑問も上がった23日の公判で、どんなやりとりがあったのか。張り詰めた空気の中で少女が語った。
「自分が犯した罪の重大さを分かってほしい」 7時間半の尋問で少女が語ったこと 【記者の傍聴記】<その1>
◆「私は男の人が怖いです」
検察官とのやり取りの中で少女は自身が抱えるあるつらい記憶について打ち明ける。
検察官 「知らない男性から話しかけられることについて、話しかけられる以外に(相手が)男性であることに何か思うことは」
少女 「私は男の人が怖いです」
検察官 「どういう意味?」
少女 「男性恐怖症という意味です」
それまで落ち着いた口調で検察官の質問に答えていた少女に異変が起きる。「男性恐怖症」になる「きっかけは?」と問われると言葉を詰まらせた。
沈黙の間、遮蔽板越しに少女が呼吸を整えているようだった。呼吸の乱れのみならず、涙を流している様子もあった。
検察官から「慌てなくていい」と声を掛けられ、ようやく落ち着きを取り戻したようだった。
少女は「去年の7月末でした」と、面識のない外国人男性から性的な嫌がらせを受けた当時の様子を振り返り始めた。
証言によると、少女は2023年7月ごろ、本島内の路上をきょうだいと歩いていたところ、車に乗った外国人の男に話しかけられた。自身の家を指さして教えてくる男から「友だちになろう」などと話しかけられ、別れ際に「身体を触られる」被害に遭ったという。
「怖かった」と当時の心境を振り返った少女。
「犯人」とのやり取りの中でも、この被害のことを伝えると、「自分はそんなことしないよ」と「犯人」は返した。「犯人」は、「軍の特別捜査官だからそんなことしない」と虚偽の経歴を偽ることで少女の警戒心を解こうともした。その際、スマホに保存していた自身の「銃を持っている写真」も示したという。
しかし、動画サイトの視聴などによって「特別捜査官」に対する自身が抱いているイメージから、少女はさらに恐怖心を抱いた。
やがて、「寒いから車で話そう」と持ち掛けてきた「犯人」。
検察側の冒頭陳述によると、その日の平均気温は16・7度、最低気温は15度だったという。
夕暮れ迫る師走の公園で、薄着でいることに少女は「寒いと感じていた」と述べた。しかし、車に乗るよう求めた「犯人」の要求に応じざるを得なかったことについては別の理由を挙げた。
少女は、検察官から問われた当時の心境について「逆らうのが怖かった」と振り返った。
車内では、「犯人」から自宅の場所を聞かれて「家とは別の方向を指さした」という。
「家の方向を知られたくなかった」という少女に対して、「犯人」は「自分の家はここだ」と住宅街の中の家を指さしたという。
「週末に会って家で料理をしよう」などとしきりに自宅に誘う「犯人」に対して、少女は繰り返し拒絶の意思を示した。
少女 「『はい』や『いいえ』ではなく、『うーん』と首をかしげながら曖昧に答えました」
検察官 「はぐらかす回答をした理由は」
少女 「家に行きたくなかったからです」
なぜ、「はっきり断ることができなかった」のか。検察官から問われた少女はこう答えた。
「密室(の車内)だったので断ると何かされるのではないかと恐怖心があった」
◆「犯人」が伝えた「今日あったことは秘密にしてほしい」
傍聴席から見て左側の被告人席に座る「犯人」の被告は、大柄な白人男性だ。空軍兵らしく、白いワイシャツを着込んだ二の腕は太く、胸板も厚い。その風貌から少女が威圧感を感じたであろうことは想像に難くないが、少女が抱いた「恐怖心」は、さらに深刻な理由によるものだったことも法廷で明かされた。
検察官 「着いて車を降りて家を見てどう思いましたか」
少女 「7月末のことを思い出しました」
検察官 「理由は」
少女 「(7月末に被害があった)その時に(男が)指さしていた家と同じだったからです」
少女は、検察官から当時の心理状況を聞かれ、「今逃げても逃げられないと思った」と明かしている。その後も、被害に至る状況について検察官から質問を受けた少女。
逃げ場のない住宅内で襲いかかってきた「犯人」に対して、「止めて」「ストップ」と日本語と英語で抵抗の意思を示したことも明かした。
「犯人」は自宅で性的暴行に及んだ後、車で少女を自宅まで送り届けようとした。
「家を知られてしまうのが怖かった」という少女は、自宅周辺から離れた場所を指示し、車を降りたという。
「今日あったことは秘密にしてほしい」
証言によると、「犯人」は降車した少女にこう伝えたという。
◆地裁、地検に強い非難の声
午前10時に始まった主尋問は休みなく約2時間かかった。午後の尋問は、短い休憩を挟みながら午後5時30分ごろまで続いた。
午後からの反対尋問では、被告の代理人弁護士から、少女が県警や地検から受けた聴取の内容と証言との矛盾点をつくような質問が相次いだ。
詰問調の問いかけに言葉が詰まったり、「もう一度お願いします」と質問を聞き返すこともあったが、語調の乱れはほとんどなかった。
弁護士が、記憶の曖昧さを執拗に突いてきた場面では、きっぱりとこう述べた。
少女「私は話すことがいっぱいの時に、何をされたかとか一つ飛ばしてしまったり、時間がぐちゃぐちゃになってしまったり、何回も話をしていると忘れてしまったりすることもあって、その時は忘れていたんだと思います」
証言台の証人に寄り添うカウンセラーら「付添人」のサポートも受けず、一人で孤独な法廷での証言に臨んだ少女。
不眠に悩まされ、「自分の感情をコントロールできなくなったり、自傷行為が激しくなった」と事件で心身に受けたダメージの深刻さを明かす場面もあった。
性犯罪被害者が証人となる場合には、精神的な負担を軽減するために、映像と音声をつないだ別室での証言が可能な「ビデオリンク方式」を採用するなどの対策が採られることが多い。
心の傷を抱える少女に法廷での過酷な証言を強いた地裁、地検の判断には専門家らから強い非難の声も上がっている。それだけに、法廷で少女が「犯人」に向けて放った一言がより重く響く。
「自分が犯してしまった罪の重大さを分かってほしい」
少女の悲痛な訴えをどう受け止めているのか。30日に証言台に立つ「犯人」の言葉に注目が集まる。