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クロス討論とまとめ【フォーラム・沖縄ヘイトにあらがう 詳報6】


クロス討論とまとめ【フォーラム・沖縄ヘイトにあらがう 詳報6】 登壇者の話に耳を傾ける来場者ら=11月10日、那覇市泉崎の琉球新報ホール(大城直也撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

(進行=滝本匠・統合編集局デジタル戦略統括)

 辛淑玉(以下敬称略) へイトスピーチ規制法ができた。朝鮮人として生まれて生きてきて、初めて権利を得られる、自分たちを守ってくれる法律が、アイヌと沖縄を排除した。そうしなければ手に入らなかった。日本の人権の法律を作る時は必ずウィズアウト(除く)朝鮮人だった。ヘイトスピーチ規制法、本当に命を懸けて取ったものが琉球とアイヌを排除し、罰則規定もない、そしてこのように分断していく。残念ながらあの時、喜べなくて、日本に生まれて3代目でやっと手に入れたものがまた差別なのかと思った人は、在日はとても多い。これをどうするか、また戦い抜かないといけない。


―法律もいろいろと指摘され、そぐわないということもあるが。

 斉加尚代 大阪では、クラスの中で笑いを取れる子が人気者。かつての大阪の笑いは、権力を笑っていた。いつの間にか弱い人たちをあざけ笑うというように笑いの質が変わってしまった。なぜこんなに変わってしまったのかというと、メディアの責任は避けて通れない。
 民族という言葉を大阪でも嫌う政治家が少なくない。例えば放課後に在日コリアンの子どもたちが多い公立の小・中学校では民族学級という取り組みが戦後ずっと続いてる。最近、その民族学級を、国際教室・クラブという名前に変えろ、民族という言葉を使うな、という攻撃がなされている。民族という言葉を恐れる人たちがいることもここで伝えたい。


―私自身、沖縄の置かれている状況がそんなに悪いのかと、そもそも疑問を持たない若者たちに触れる機会が多い。そこには教育が影響しているのか。

 知念ウシ そういう若者をつぶすのがヘイトの目的だ。ヘイトも、基地も反対したって無駄だと、若者たちをつぶそうとしている。若者たちは大きな閉そく感、圧力を感じているのだろう。そこで何とか生き延びるために無関心を装うこともある。周りの大人たちも、子どもの時からこういうものを直視したら、子どもらしくいられないからと、コミュニティーで守って育ててきていると思う。よほど心を開かないと本当のことは言わない。沖縄の若い人は無関心、あまり考えてないと決め付けるのは早い。たくさんのことを感じているはずだ。疑問や違和感を言語化していくことを応援したい。大人がそうしているのを見せないといけない。私も模索中だ。

―条例自体の問題点もある。4月に施行され、一定期間検証して、また見直すことになっている。どうしたら、効果を持たせることができるか。

 仲村涼子 今すぐ民族という規定を入れることだ。沖縄県の人権条例は3年後に見直すとしている。3年間は差別してもいいとお墨付きを与えている。先ほど辛さんがヘイトスピーチ規制法ができた時、琉球とアイヌが排除されたと言った。でも、(規制法を)作ったのは在日コリアンではなく日本人だ。だからやまとんちゅが頑張ってください。マイノリティーに何もかも背負わせないでください。

 植民地主義と、ヘイトとレイシズムは一緒だ。琉球が戦場になった後、米軍基地が置かれ「復帰」後は日本の基地も置かれた。日米安保条約であり、日米琉安保条約ではない。責任は日本にある。だから戦後処理として日米軍の基地全部、やまとんちゅが引き取ってください。わったー(私たち)は関係ない。ヘイトスピーチ規制法に関しても、やまとんちゅが頑張って、民族という言葉を入れてください。

―ヘイトが力を持ち続ける構造があるままでは何も変わらない気もする。それを変えるにはどうすべきか。

 安田浩一 なぜヘイトが生まれたのか、なぜこうして人々の間に根付いたのかということを、さんざん考えた人間だから言えるが、あまり考えすぎると良くない。つまりヘイトと戦うために知識や教科書は必要ない。なぜなら、差別は醜悪だから、絶対いけないことだから、許せないことだから。

 観念的な話だと、包括的な差別禁止法をいかにこの国で作っていくのかだ。一刻も早く作るべきだ。しかし、そのためにはまずは政治を変えるべきだ。今のこの状況では無理だから、日本のヘイト団体を倒すところから始めなくてはいけない。そのために差別を放置してはいけない。できることは、地域、社会の中でやっていく、目の前で理不尽を強いられている人間がいるなら、理不尽を強いてる側と戦おう。

―ヘイトや差別に対抗していくメディアの在り方をどう考えるか。

 斉加 学校の学習指導要領には、国家・社会の形成者を育成すると書いてある。首都圏の先生に(国家にとって)望ましい日本人像を考えてしまう、と言われてびっくりした。この話をドイツ人の教育学者にしたら「それはおかしい。『社会の形成者を育成する』だけでいいじゃないか」と。ドイツの先生は、国家の形成者を育成するなんて考えないし、国家の介入は受けないと言うだろう。目が覚める思いだった。仲村さんの話にもあったが、琉球・沖縄の人々の教育をつくっていったらいい。そういう教育をメディアが一緒になって支えていったら、きっと未来は変わっていくのではないか。

―取材を受けてきた立場で辛さんがメディアに求めることは何か。

 辛 本土(のメディア)で言うならば、メディアがマイノリティーの味方になったことはほとんどない。だからと言ってメディアを否定することはできない。阿波根昌鴻さんがご存命のときに何十回と学んだが、彼が最もお金をかけたのはカメラだった。カメラを買って、記録を取って今に残した。カメラは言論であり、証拠であり、調査報道だ。

 私はあらゆるメディアで少しでもいい記事を書いたり、いいことをしたりしたところには必ず電話をする。手紙やはがきを書いて、そのメディアを確保しようとする。沖縄が本土にやられているときに、先頭になって戦ってくれるのは知事であり、政治家であり、メディアだ。戦い方の一つとして調査報道をするメディアを支えてもらいたい。そうやって味方を増やしていき、私たちの命も守りたい。

―読者からの声は喜びや反省にもなる。私たちができる対抗策をどう考えるか。

 知念 (本土の人に)あなたたちの基地だからちゃんと持って帰ってねと、県外移設を言い続けないといけない。また骨にも響くような差別を受ける琉球人同士が自分の思いを語れる安全なスペースが必要だ。当事者同士が集まるところを確保したい。お互いへの気持ちや、尊敬をちゃんと言葉にして伝え、励まし合う文化をつくりませんか。そうやってこの危機を乗り越えていきましょう。

 それからもう独立琉球人として行動しよう。(百田尚樹氏が)沖縄の新聞はつぶさないといけないと言ったのは、沖縄の読者をつぶさないといけないという意味。わったー(私たち)はつぶされない。沖縄の新聞記者は、地方紙の記者ではなく、紛争地の記者だ。沖縄の新聞を両方支えよう。

 仲村 私も独立すべきと思う。独立しないと自己決定権を獲得できない。独立反対の人もいるが、タブーになっている独立や民族っていうことをカジュアルに議論できる場をつくって、琉球人、やまとんちゅの立ち位置をお互いに意識すべきだ。よく、何でうちなーんちゅとやまとんちゅを分けるのかと言う人がいるが、差別ではなくて区別。背負ってきた歴史も言語も文化も違うから、アイデンティティーをしっかり持って、やまとんちゅが間違った認識でものを言ったら指摘する。私たち琉球人は当事者として、自分の権利を自分で獲得し「やまとんちゅは自分の立ち位置で責任を持って」と言える琉球人が増えることが、差別もなくなること(につながる)かな。

 安田 私が今日着ているのは、ボランティアとして関わっている難民移民フェスの公式グッズのTシャツだ。先週末に難民移民の当事者が集まって、生活の実態を伝え、料理を持ち寄って本当に楽しいひとときだった。毎日強制送還されるかもしれないとおびえる人たちが、歌を歌って、おいしい物を食べて飲んで、会場には笑いが満ちていた。これが本来あるべき笑いの風景だ。

 僕は笑いが大好きで、笑いを取り戻すために怒る。笑いを獲得するために多くの人が怒り、憤っている。差別は人を壊すのと同時に地域や社会を壊していく。僕は差別される人がかわいそうだからではなく、壊されるのがたまらなく嫌で絶対に許せないから、差別を止めたい。実際に止めるし、書き続け報じ続ける。皆さんと一緒にやっていきたい。

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