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「南西防衛強化」有事あおらない報道など要望 琉球新報・読者と新聞委員会(上)


「南西防衛強化」有事あおらない報道など要望 琉球新報・読者と新聞委員会(上)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 琉球新報社は2023年12月15日、読者と新聞委員会(主宰・普久原均琉球新報社社長)の第52回会合を那覇市泉崎の本社で開いた。島袋伊津子氏(沖縄国際大教授)、末吉康敏氏(県産業振興公社理事長)、竹内清文氏(NPO法人レインボーハートokinawa理事長)、諸見里明氏(興南学園中学・高校長)の4委員が出席し、南西防衛強化関連報道と、台風6号を中心とした災害報道について意見を交わした。「自衛隊南西シフトを問う」「東アジアの沖縄」の両連載など、南西防衛強化に関する一連の報道について、さまざまな視点で報じていることを評価し、有事をあおらない報道を求める指摘や、若者の声を積極的に報道するよう促す声もあった。また、台風6号に関しては、デジタルを最大限活用し、適時・適切な情報発信に今後も力を入れるよう求める意見が上がった。 (文中敬称略)

【南西防衛強化】

県民の選択肢知りたい 諸見里氏
盛んな交流で平和実現 末吉氏
戦争阻止へ報道で一石 島袋氏
若者の声を取り上げて 竹内氏

 諸見里明 (連載や報道は)大作で、沖縄県の立ち位置がよく表されている。与那国、宮古、八重山、奄美などの島々の葛藤や、米軍や自衛隊の意見、県の立ち位置、安保3文書に内在する危険性など、リポート力がすごい。米国防総省の「数年以内に中国が台湾を武力統一する」という見方が報道され、南西シフトに輪をかけた。結果論だが、アメリカ側の思惑通りに進んでいる。日本国民に恐れを抱かせて南西シフトが進んでいった。

 本当に台湾有事が勃発したら、県民はどうすれば良いのかをもう少し掘り下げてほしかった。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻では一般住民が虐殺されている。台湾有事が起こったら同じことが起こるのか。県民にどういう選択肢があるのか、もう少し報道してほしかった。

 末吉康敏 ウクライナへロシアが侵攻し、一日中テレビで伝えられ、中国の台湾侵攻もあり得ると南西防衛強化が始まった。国は良い口実を見つけたように取れる。

 新年号は簡潔に現状が書かれていて、米軍基地と自衛隊がどこに配備されているかよく分かる。連載は資料としても置いておきたい。

 中国と沖縄は、琉球王国時代から盛んな交流があった。台湾とは戦前戦後に人や物の交流があった。沖縄は両方と親しく付き合ってきた。世界は軍備を増強しているが、沖縄のソフトパワーで平和を実現したい。

 台湾の友人と話すと、台湾は親日だけど親中国でもある。今の状況をずっと続けていきたいと思っている。逆にわれわれが「有事、有事」と危機感を持って話したり行動したりしすぎるのではないか。危機をあおらないで、平和を目指したい。

 島袋伊津子 軍事は専門外だが、勉強になった。日本はかつて、国民レベルで戦争に協力的な論調が支配的だった。新聞博物館で学生が驚いたのは、当時の新聞はとても戦争に協力的だったこと。その空気一色にならないよう、一石を投じる報道はとても大事だ。精神的にしんどい内容も多かったが、意義のある報道だった。

 沖縄が台湾、中国と身近な交流があったことが新鮮だった。中国人留学生の、友人のいる国と戦争したくない、という思いにとても共感した。沖縄に根を張って生きている私たちは、軍事強化一辺倒にならないためのストッパーの役割も果たしていかないといけない。

 経済学者の中にも、独裁は経済成長にはいいのではないかという意見もあるが、やはり民主主義は大事だと改めて感じた。中国や北朝鮮に、日本自体が民主主義を体現して、言論の自由があって国民がのびのびできると伝えていければ、民間交流の意味がある。

 竹内清文 大作で勉強させてもらった。いろいろな視点から、特に台湾など外からの視点をまとめてもらえたのはとても勉強になった。

 東アジアの沖縄という特集がとても良かった。与那国島に自衛隊が入る前には自立へのビジョンがあったことなど、学ぶことがたくさんあった。戦争になると敵か、味方か、になってしまうが、沖縄は今までいろいろな交流の歴史があった。対話の力、交流の力という言葉が連載で何度も出てきて、印象に残った。

 若い人の自衛隊への受け止めで、母集団は少ないけれど8割が賛成だった。もしかしたら若い人たちには、「守らないでどうする」という意識が強いのではないか。若い人の座談会であったり、大学でのゼミなどでの学びなど若い人の声を紙面で取り上げたりするのも大事だと思う。

 小那覇安剛論説委員長 かつて、戦争へ向かう空気をメディアが作ってきたという反省から、今の紙面を作っている。宮古、八重山で起こっているのは、かつて沖縄戦の前にあったことだ。日本軍が土地を接収して基地を造り、攻撃の標的になった。きちんと歴史を踏まえて新聞を作る。指摘があったように、危機を、戦争をあおることは決してしてはいけないと考えている。

 普久原均社長 軍事力に関する報道で大事にしないといけないことが二つある。一つは過去の例に学ぶことだ。沖縄戦で軍事基地が置かれたところがどうなったのかなど、過去の事例から学ぶことが大事だ。もう一つ、アイゼンハワー米大統領は退任演説で議会に向かって「軍需産業の膨張に気をつけろ」と忠告した。利益のために兵器を売っているから注意せよと伝えた。そういう視点をわれわれ報道は持っておくべきだと思う。


<出席者>

■読者と新聞委員会第9期委員(五十音順)

島袋伊津子氏(沖縄国際大教授)
末吉康敏氏(県産業振興公社理事長)
竹内清文氏(NPO法人レインボーハートokinawa理事長)
諸見里明氏(興南学園中学・高校長)

■琉球新報社

普久原均社長
島洋子統合編集局長
小那覇安剛論説委員長
新垣毅次長・報道本部長
瀬底正志郎次長・編成本部長
与那嶺松一郎次長・デジタル報道グループ長
新垣和也政経グループ長
知花亜美暮らし報道グループ長
高江洲洋子同副グループ長
大城誠二同副グループ長
島袋貞治同副グループ長
又吉康秀同副グループ長
嶋野雅明編成グループ長
相弓子同副グループ長