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【記者解説】史上初の代執行、地方権限奪う前例に 過重な基地負担も固定化 辺野古新基地


【記者解説】史上初の代執行、地方権限奪う前例に 過重な基地負担も固定化 辺野古新基地 重機が並ぶ辺野古新基地工事現場=28日午後1時37分、名護市(ジャン松元撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 明 真南斗

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古新基地建設を巡り、国が史上初の代執行に踏み切ったのは、県側の理解を得ようとする姿勢すら放棄したことを意味する。代執行に頼らなければならないこと自体が、いかに県民の理解を得られない事業かを表している。前代未聞の手法を使ってでも事業を進めようとする政府の強硬姿勢が際立つ。

 代執行は極めて例外的な措置として地方自治法に定められている。2000年の地方分権改革以降に設けられた制度だが、実行は一度もなかった。今回、斉藤鉄夫国土交通相が代執行に踏み切ったことで、国が自らの思い通りに施策を進めるために地方自治体の決定を覆し、権限を奪う前例がつくられた。地方の民主主義や地方自治を否定したに等しい。

 一連の裁判闘争で争点となったのは、軟弱地盤を改良する工事を追加する設計変更が埋め立ての条件などを定める公有水面埋立法にかなうかどうかだ。国が勝訴したが、新基地建設を巡る問題の一部でしかない。裁判の射程外に置かれている根本的な問題が残っている。

 設計変更の適法性にかかわらず、県民の多くの反対を無視して工事を強行することは正当化できない。辺野古新基地に固執することで普天間飛行場の危険性は少なくとも今後12年以上も続くことになる。県内の過重な基地負担も固定化される。

 岸田文雄首相は代執行訴訟での福岡高裁那覇支部判決に従わなかった玉城デニー知事を「遺憾」と非難した。だが、反対意見に耳を傾けようとせず、選挙で選ばれた知事が国策と民意に板挟みとなる状況をつくった政府の責任は重い。

 防衛省は来年から大浦湾側の工事を進める構えだ。法的には承認を得た状態になっているが政治的な判断で着工を控えることは可能だ。このまま着工すれば、地方自治を崩壊させる道に突き進むことになる。

(明真南斗)